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ジミヘンと呼ばれる14歳男子の話

彼とは毎週会っていた。

あの曲のギターはいいよ。歌詞はいいね、曲は全然好きじゃないけど。下手くそだけど見た目がカッコいいから好きだ。

こんな調子で音楽のことばかり話す。ざっくばらんにまるで友達同士のように喋る。そう、これはギターキッズ同士の会話だ。30を越えている僕もこの瞬間ほどあの頃に戻ったような気分になる。

そんなある日、実はジミヘンが好きだと彼は言った。ギター好きならもちろんその名を知らないはずはない。稀代のロックギタリスト、ジミ・ヘンドリクスのことだ。

それまでは古くても90年代までの音楽の話だった。60〜70年代が大好きな僕だが、14歳との音楽トークはそれなりに気をつかっていた。ジミヘンはもちろん知っておいてほしいギタリストだけど、14歳との会話の中でいつその名を出すべきかは考えていた。それがまさかそっちから切り出されるとは!

たくさんのギタリストが存在する今の時代に、50年も前のいわば個性の塊のようなギタリストを好きだなんて。おかげでその後の会話で僕の声帯のテンションは上がってしまっていたと思う。ピッチもズレッズレだったはずだ。

さておき、その流れで彼は学校でついたあだ名が”ジミヘン”であることを打ちあけた。休み時間にいつもジミヘンの本を読んでいるから、きっとそのせいだ、と言う。

僕は何の気なしに軽い気持ちで「え~、いいじゃん!!」と返す。すると浮かない顔でこう言う。

「いや、だってジミヘンのこと知らないやつらがジミヘンって言うのキモいし」

14歳であれば、大抵は流行りものに興味がいくものだ。その年頃でジミヘンの名前を知っているだけでもなかなか珍しいくらいだ。しかし50年前のギタリストを現在進行形で存在しているかのように語る彼は、明らかに同世代とズレた感覚であることを自ずと悟っている。

ジミヘンを知らない人間がジミヘンの名を口にすることに嫌悪を感じる。やはり面白い子である。

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