メンタルタフネスと伸びしろ

昨日、話題に上げさせていただいた後輩くんは、今日も上司のみならず、他の人たちにも怒られてしまいました。

過去に似たようなことを指摘されたにもかかわらず、ほとんど同じミスを繰り返してしまったのです。

今日に限らず、ここ数か月、彼は同じミスをよく繰り返します

最初は僕も含め、「教え方も拙かったかな」と自省し、間違いを丁寧に振り返り、同じことにならないようどう工夫をすればよいかも一緒になって考えていました(時にはロープレみたいなことをやり、同じことが起きないよう体に刻み込むようなトライもしました)。

それでもなお、彼は同じ過ちを繰り返します。そして決まって「大変申し訳ありませんでした、以後気を付けます」が口からついて出ます。

自分で言うのもなんですが、僕は感情をあらわにして怒るようなことはめったにありません。

ただ職場には短気な人ももちろんいます。仏の顔も三度までとはよく言ったもので、3度、4度と間違えれば上司や僕よりさらに上の先輩方はだいぶ怒声をあげます。

怒られた瞬間は、彼も一回り小さくなったかのように縮みます。

二度と繰り返すものか、この惨劇を…!

と悲劇に見舞われたドラマの主人公が見せるような表情を顔に携え、デスクに戻っていくのです。

連続ミス記録を更新するたびに、勢いを増す上司の怒りに心が折れてしまうのではないかと心配にもなるものの、存外、彼はぴんぴんしています。

最近、もはや連続ミス記録の更新も忘れるほどにミスを重ね、失敗の連続に対する意識よりも、どうしてそこまで折れることなく仕事を続けていられるのかが気になってしまい、休憩時間に思わず聞いてしまいました。

「ミスが続いて、上司にあれだけ怒られても、○○くんは職場に元気に来るよね」

「はい、頭は悪いのですが、メンタルはタフなんです」

「何がそのメンタルを作り上げたんだろう、自分で思い当たるところある?」

「そうですね、頭が悪いからメンタルがタフなんだと思います。言われたことを自分の頭の中で消化できないので、そのまま吐き出すしかないんです。あ、普段のご指導はちゃんとメモしてます」

最後の一言が余計だなぁ、いや、回答自体、さっきまで激昂していた上司が聞いたら、後輩君の目の前にあるスープを頭からかけられてしまうのではないだろうか、と思わずスープを啜る彼がとんでもなく哀れに感じられてしまいました。

「頭が悪いかどうか、というより心がけの問題じゃないかなぁ。僕らの説明が分かりにくいってことかもしれないけど、どんなことだって、繰り返しやったり、復習してみたりすればある程度うまく運ぶようにならない?」

彼にそう諭すと

「そういう考え方もあるんですね、次から言われたことを復習してみます」と返され、話題は打ち切られてしまいました。

この時、僕は彼はメンタルが強いのではなく、自身のメンタルを守るために周りからの忠告や助言をシャットアウトして逃げているだけなのかもなと感じました。

自分と異なる考え、価値観を受け入れることは確かに相応のストレスです。僕も全く違う領域の仕事に何度も放り込まれて、その都度、精神的にかなり辛い思いをしました。実際に仕事の最中に急に気持ちが悪くなり、トイレで吐いてしまったこともあります。

僕はそうして自分が追い込まれてしまったときは、よく逃げました。仕事をほっぽり出してではなく、もちろん休日にですが。

逃げ方も毎度変えてました。当時付き合っていた彼女に弱音を吐くだとか、友人に愚痴るだとか、あるいは激しめの運動で嫌なことを忘れてしまうだとか、海で黄昏れるだとか…

逃げた先に、また別の世界がちらりと見えて、その新しい世界に逃げ込めば少しは救われるんだ、という事実が自分を自分で居させる方法でした。

そんなこんなで、今日まで何とかやってきましたし、それなりに周囲からも一定の仕事を任される、あるいはやらせてもらえるようになりました。

極度のストレスに悩み、体調を崩したり命を絶ったりという事例は枚挙にいとまがありません。そこまで行くぐらいなら、どんな形でもよいです、逃げるべきです。僕は自分の後輩や、時には先輩にだってこの言葉をかけます。

ただ、同じ方向に逃げ続けてしまうと、いつか限界が訪れます。僕の後輩くんの場合は、異なる価値観、考え、意見から逃げ続けることで、成長の限界がすでに訪れてしまっているかもしれません。

その限界を彼が甘んじて受け入れるというのであれば、この先2,3年は幸せなのかもしれません。

その先には、恐ろしい惨劇が待ち構えている可能性が非常に高いです。誰も彼に指摘をしなくなる、声を掛けなくなる、無関心の世界です。

その時が来たときに、彼は気付いて変わるのでしょうか。

あるいは今、真っすぐに逃げていることに向き合い、変わる決意を促すべきなのでしょうか。

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