「撤退」と「転進」

今年は新商品ラッシュに伴い、私の所属するグループはてんやわんや状態です。

毎日深夜までの残業は当たり前になっており、明らかに年初の明るい雰囲気は消え去えり、全員が小指をタンスの角にぶつけた後、痛みで地面をのた打ちまわっているのを愛犬に遊んでいると勘違いされ噛みつかれた(※実話)時のような僕の表情が、毎日メンバーの顔を覆っています。

そしてこの負荷は年後半まで続くことが見通されており、幾人かのメンバーからは、かなり不満の声も上がっています。

率直なところ、noteに記事を綴るのも差し控えなければならないぐらいに仕事に追われている生活を、僕自身は全く望んでいません。

また週1ぐらいで(ご時世柄、節度は保ちつつも)友人と食事に行ったり、気晴らしに読書や映画鑑賞にふける日を設けているこの習慣も極力保ちたいと思っています。

要は、ワークライフバランスを保ちたいと思う人間です。

僕の会社は、残念ながら「ワークライフバランス」を尊重はしていません。人事在籍時代に、当時の担当役員が「ワークアズライフ」について熱弁をふるっているほどに、仕事への熱量と根性が尊重される組織です。

全員にとって、あまねく仕事がやりがいのあるものであれば、きっとモチベーションという魔法(麻薬)が猪突猛進に、僕たちを前へと押し進めてくれるのでしょうが、そんなファンタジーはありません。

私の立場なりに、この事態を上手く管理しなければなりません、上司と相談の場を持ちました。

僕「現状についてなのですが、○○の件と××の件が今後の予定を考えていくと、6月~7月ごろに業務のピークを迎えてきます。色々な対策を考えてみたのですが、ある程度、いくつかの仕事を中止ないしは縮小しないと、仕事が回らなくなります」

上司は画面に映し出されたスケジュールとタスクを管理するシートを、明らかに寝不足のショボショボの目で見つめると

「何をやめれば、あるいは縮小すべきだと思う?」と問いかけてきました。

「経営層の判断などあると思うのですが、□□の件は、様々な改善施策など手を打ちましたが引き際かと思いますし、△△の件も、外注か効率化を図り省人化すべきかと思います。そして…」とメンバーからあまり評判のよくない案件を中止もしくは縮小対象として連ねていきました。

さすがに上司もメンバーから評判が宜しくない案件ばかりが並んだことに気付いたためか

「みんな嫌な仕事はしたくないわな」と上司という立場を忘れたかのように呟きました。

「嫌よ嫌よも好きのうち、ってなるのは異性関係だけだわなぁ」とこれまた融和的な姿勢を見せてきます。思い切った提案だったけれども、意外とメンバーにとっては良い結果になるのでは、と一瞬気を緩めた瞬間

「でもまぁ理想論過ぎるわな。そして悲観的。どんな状況も前向きに捉えたほうが良いぞ」と、想定外の回答に豆鉄砲を食らった鳩のような顔(※どんな顔なんでしょうか)になってしまいました。

「悲観的と言いますか、あくまで成り行きのチームを考えると…」

「いや、わかるわ、それは。けどな、例えば今までの既存業務の効率化を図るチャンスだとか、そういう風に捉えてくれたらな、って思うんだわ」

つまり上司曰く、僕のストーリー展開が受け入れがたかったようです。

嫌だから仕事減らしましょう!

よりも

より良い仕事にしていくために、既存業務を効率化し、創造的な業務に充てられるような時間を作りましょう!」と言ってほしかったようです。

ふと、この話を聞いたときに、日本人は歴史的に見て、この手の言葉遊びが好きなのだろうか、と考えてしまいました。

第2次世界大戦中、旧日本軍が太平洋の島々で米軍と激戦を繰り広げたものの、各所で撤退を余儀なくされました。

その際に、旧日本軍上層部は「転進」という言葉を使い、国民に発表を行ったようです。

撤退」ではイメージが悪く、国民からの支持が得られなくなってしまうということを危惧したため、だそうです。

「転進」は進んでるのか退いているのかが字面からもはっきりわかりませんよね。

アクションはどんな言葉を使おうとも結果的に変わらないのですが、表現次第で、情報の受け手の捉え方やモチベーションへの影響が甚大であるが故の配慮です。

その後、同じような”配慮の行き届いた言葉”を旧日本軍上層部は生み出し続け、国民をコントロールしていくことになりますが、これはまた機会があればご紹介できればと思います。

さて僕は上司を、”大本営”と呼ぶ意図もありませんし、僕の発言に対する上司の気持ちも理解できなくはありません。それに、会社の仕事が理想論だけで成り立っていれば、いま日本の会社に蔓延る問題は起きないでしょう。

肝要なのは、相手を説得するということは、言葉選びから、ストーリーの構築まで、随所に気を巡らせる必要があるということです。

ただ一方で、状況認識がしっかりと一致している中で、結果としては同じ方角を向いているにもかかわらず、いたずらにそのストーリー構築に時間を費やすのは得策とは言えません

この認識を持ってもらうために、次はどんなストーリーで上司を説き伏せればいいのか…と考えてしまう時点で、僕のライフワークバランスの調律はしばらく取れそうもありません。





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