リモートワークの空気感

きっと多くの方が、上っ面だけの言葉を、人生で一度は耳にしたことがあると思います。

皆さんは、次のうち、どちらのほうが納得できるでしょうか?

A.「大変申し訳ありません、次回以降気を付けます」

B.「うわーやっちゃった…すみません…次は必ず…」

恐らく、ご一読いただいた方々は、身近な方が言っている姿、もしくはご自身の言っている姿を思い浮かべながら、あるいは憎らしい誰かが脳裏にちらつきながら、それぞれどちらかを選択されたと思います。

またどんな失敗をしたのか、どんなトーンで言っているのかによって、いずれの選択をすべきか判断しかねるという人もいるかと思います。

僕の後輩の一人に、入社2年目のリモートワークが主流となってから入社した人がいます。彼は入社以来、ほとんど自身の部屋から、PC越しに僕たちから色々と教わりながら仕事を進めています。

ほぼPC越しで仕事を教わり、黙々と作業を進めるという前代未聞の環境も拍車をかけたのか、悪戦苦闘、四苦八苦、彼にとっては苦難の毎日です。

そんな彼の口癖は「大変申し訳ございませんでした」です。

失敗したときはもちろん、例えば僕がある仕事の進め方について教えた後でも「貴重なお時間を奪ってしまい、大変申し訳ございませんでした」という具合です。

誰にとっても時間は貴重なものですが、奪われるという意識はさらさらありません。むしろ、自ら進んで彼に教えていたのですから、こういった謝罪は罪悪感すら覚えてしまいます。

「なんで謝るの?○○くんは悪いことしてないでしょう?」

「はい、していません。ただただ貴重な時間を奪ったことが申し訳ないと思った次第です」

一度言葉に引っかかると、彼から発せられる言葉がいちいち気になってしまい、面倒な理論家のごとく言葉尻を拾ってしまいます。

「奪われたつもりもなければ、奪ったつもりもないでしょう?謝罪するというのは、罪を謝ることなんだから、相応のことをしない限りは言うものではないと思うけれど…」

「不愉快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」

「いや、不愉快な思いもしていないよ!色々僕の話を聞いて、へぇー!とか勉強になったなー!とか思ってくれたなら、お礼の言葉のほうが嬉しいんだけどな。」

「はい、ありがとうございました」

「う、うん(なんか違うな…)。」

こんなコントのようなことが、毎日のように起きます。その後も、彼は大変申し訳ございませんを連発し続け、しまいには上司から「申し訳ございませんの繰り返しで『もうもう』ばっかり…牛かお前は!」と真面目に怒られてしまいました。

ある日、彼に「なんですぐ謝ってしまうの?」と改めて聞いてみました。

「正直なところ、声色だけでは自分がどういう姿勢で居ればいいのかわからないのです。なので、とりあえず怒ってそう、不快そう、困ってそうと感じてしまうと条件反射的に…それに自分はおそらく、上司や先輩方を街中で見かけても、気付いて挨拶できる自信がないくらいに、顔合わせも出来ていませんから、皆さんという『人間』が読めないのです」と答えてくれました。

この感覚はなかなかに理解できませんでしたが、彼の言い分はわかります。僕の会社では、ほとんどリモート会議でも音声のみでの参加が許されています。なので、彼のようなコロナ以降の新入社員や転入者は、同じチームのメンバーと顔合わせすらしたことがないのです。

そんなメンバーとの距離感や、今まで醸成されてきた空気感を把握できぬまま、あれやこれやと言われる身にもなると、委縮してしまい、すぐに謝罪の言葉が出てしまうものなのかもしれません。

委縮は人間の成長を阻害します。本来であれば、彼はもっと活躍できていたのかもしれません。そこに気付いたのが入社後1年も経ってしまってからというのは、僕たちの責任も大きいと感じてしまいます。

正直なところを語ってくれた彼には感謝しつつ、僕たちはより、これからのコミュニケーションについて深く考えなければならないと思います。

コロナで一般的になってきたリモートワークスタイルの空気感に慣れるべきなのか、あるいは旧来の対面でこそ感じられる空気感に復古していくべきなのか、はたまたうまくバランスを取っていくのか。

それぞれにあったコミュニケーションスタイルを見つけ出し、接していくことを心がけていきたいところです。


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