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ぼくの「りんかく」7 - 旅の醍醐味

2023年5月21日(日)に行われた文学フリマに出品する「りんかく」という写真ZINEについて、作者サイドからあれこれ裏話をするnoteです。
「だれかに写真を撮ってもらうと、自分から見えない『輪郭』が見えて立体的になる気がする」。この本は多拠点生活の「りんかく」を集めた立体記録。

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あとがきに書いた例の映画が封切りしたその日、改めてこの半年撮影した写真を見つめ直すなんてことをしたのは、一緒に文学フリマに出た枝崎さんの本を読んだからかも知れない。

半年前、久しぶりにカメラを持ち出して撮影を再開した頃。僕は写真の構図や写り込む物の水平垂直にものすごく執着していた。撮影後のデジタル現像段階で構図をいじくり回していた。撮影する時もその前提で「まぁこのくらいでいいか」みたいな感じに流し撮りすることが多かった。

旅の途中、カメラと共に行動する人にたくさん出会った。その度、自分の何かに違和感を持っていたような気がする。目の前にある何かときちんと向き合わず、後から都合の良いように写真を作り替えようとしていたと気づいたのかな。他の人たちはもっと自由に、もっと楽しそうな画面を作っていたのだ。

19-20 新年の空気

初日の出

2023年のお正月は小樽で迎えた。
地元じゃないどこか、東京でも、関東でもないどこか。そんな縁もゆかりもないところで一年のスタートを切ってみたかった。理由はよくわからないけど、とにかくやってみたかった。

前日の大晦日から天候は崩れ、雪が止まなかった小樽。けれど1月1日の日の出前後だけ、ほんの数十分太陽が顔を見せてくれた。僕は嬉しくなって、誰もいない海岸線に続く無機質な工場地帯の、ちょっとした隙間から朝日を眺めていた。

時系列的にはこちらの方が北海道神宮の17-18ページより先。けれどあえてこちらを後にしたのはなぜだろう?小さい写真を使った15-16ページで流れを変えた後、急にドカ雪の風景で場面を変えてから緩やかに展開させたかったのかな。日々の変化って時々、時間さえひっくり返すほどのものだから。

萩野荘、からのプライベート温泉

ADDress白老拠点に宿泊したとき「ここは知る人ぞ知る秘湯」的なおすすめをもらった場所、荻野荘。白老の近くだと登別温泉が有名だが、登別〜白老一帯で温泉は湧いているそうだ。それぞれ泉質も違うとのこと。

荻野荘へは最寄りの荻野駅から徒歩30分ほどで着く。その途中に今回の写真にあるような案内板(?)があった。見ての通り、もはやこの場所が営業しているのかどうかさえ怪しい。でも、きちんと営業していたのだ。

受付に人はいなくて、遠くでテレビを見ている。風呂に入りたいことを伝えると、受付に置かれていた灰皿に400円を置く。

お風呂は少し腐卵臭がする。ちょっとなめると塩気を感じるが基本無味無臭に近い。湯の色は黄色がかっててとろみがある。お湯は42度前後だと思うが、すぐに体が温まって長風呂できない。汗が止まらなくなる。

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温泉に入った後、ちょうどお昼時になったので近所にあったラーメン屋さんへ。大きなリュックとカメラをぶら下げた僕の出立ちに興味を持ったお客さんに声をかけられ、ホッピング生活をしていること、今日は温泉に入りに来たことなどを話した。そうしていたらその方の家に招かれ、ご自宅の温泉をいただいてしまった。本当に旅って何が起こるかわからない。

21-22 早朝のコーヒー

北海道白老を後にした僕は、苫小牧港から茨城県大洗町までのフェリーに乗り込んだ。
時間があればできるだけ活用するほど、僕はホッピング生活をしていてすっかりフェリーの魅力にハマってしまった。

夜に苫小牧を出発したフェリーは約24時間ほどの航海を経て、大洗へ到着。そこから15分ほど歩くとADDressの大洗A邸だ。

久しぶりの関東のにおいに安心をしながら、僕にとっては思い出深い大洗A邸で一息をつける瞬間が幸せだった。
大洗A邸には他に1組、宿泊していた人たちがいた。家守の佐藤さんと4人で、それぞれの話を夜遅くまでした。

翌朝、家守さんが涸沼(ひぬま)に連れて行ってくれた。僕が白老拠点で買ってきたコーヒー豆を、家守の佐藤さんが淹れてくれた。まっさらな空気の中で飲むコーヒーは格別だった。こんな時間を過ごせる日が来るなんて思ってもいなかった。

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