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フクちゃんの闘病生活②

3ヶ月も寝たきりの動物の世話をするのは大変だと思われるかも知れないが、フクちゃんは小さくて、寝たきりでも全然大変ではなかった。これが大型犬や人間だと、介護が大変なんだろうなあとぼんやり思った。普通のベッドだと体が痛いと思い、人間用のフワフワしたクッションをベッドにして毎日大人しくしていた。こんな時でもフクちゃんはフクちゃんで、お利口さんだった。困らせるようなことはほとんどなく、もっと甘えればいいのにと思ったが、もうだいぶ神経をやられていたのかも知れない。表情もほとんど変わらない、ぬいぐるみのようだった。

トイレもできないので、オムツをしていたが、失敗したのは最初の数回だけで、本当に最後まで手のかからない子だった。

なかなか食べなかったにゃーちとは対照的に、フクちゃんは、食欲だけは旺盛で、最初は、お湯で伸ばしたウェットフードを美味しそうに食べていた。普段は、ぬいぐるみのようだったが、ご飯を食べている時だけ魂が宿っている感じがした。

しかし、徐々にそれも食べられなくなり、リキッドの高栄養食を食べるようになった。1週間ごとにインターフェロンの注射を打ち、3ヶ月生きた。本当はもっと早くに送ってあげるべきだったのかも知れない。痙攣も何度かあり、先生からは、安楽死も勧められた。私は思わず泣いてしまったが、先生も涙目になっていたように思う。にゃーちの時は、何もできなかったので、フクちゃんの時は、できることは全てやろうと決めていた。毎週通っているので、看護師さんたちも声を掛けてくれたり、消毒用の精製水をそっと手渡してくれたりして慰めの言葉を掛けてくれた。

先生からは痙攣が何度も起こるのは動物にとってとてもしんどいことなので、これが続くようであれば、安楽死を考えてくださいと言われた。フクちゃんがもう治らないのだと自分に言い聞かせようとしたけれども、インターフェロンの注射を打つと、何も見ていなかったぼんやりとした眼に光が宿り、食欲が出てきて、ゴクゴク栄養リキッドを飲んで、「もっとちょうだい」みたいな仕草をする。そんな子を苦しさから解放できるとはいえ、人の手で生きることを奪ってしまっていいのだろうかと自問自答する日々が続いた。

自分だけではどうにも結論が出ず、周りで動物と暮らしている人にも意見を聞いてみた。やはり、安楽死を勧める人はいなかった。しかし、それは、私のことを気遣って、勧めないだけで、先生は、医師の立場から、痙攣の苦しさを一番良くわかっているし、言いにくいことを言ってくれたのも良くわかった。フクちゃんのしんどさを一番わかっているのも、飼い主である私たちとずっと診察してきた先生なのである。

考えに考えた末に、安楽死という結論にだいぶかたよりかけた時だったと思う。日に日にフクちゃんは、ぬいぐるみのようになり、生きているものを超越したような、不思議な雰囲気を醸し出していた。うまく言えないが、いらないものをどんどんそぎ落としていっているような感じで、凛としてクッションに座っている様子は、王子様のような気品に溢れていた。フクちゃんはもうじきいなくなってしまうだろうが、こうやって世話ができて良かったと心から思った。そう思って、やっぱりフクちゃんの最後はフクちゃんの好きなようにさせてやろうと思った。フクちゃんは死ぬ準備をしている。それを途中でぶった斬るようなことは私にはできなかった。

にゃーちの時も思ったが、自分が死ぬとわかってこんなに堂々としていられるのかと思う。人間は動物の中で一番偉いような顔をしているが、猫の方がずっと偉い。

感染する可能性もあるので、コハクとフクちゃんとは部屋を分けていたが、コハクは、時々、私が世話をしている時にやってきて、側にいたりして、心配しているように見えた。まだ、体調がいいときは、一緒にカーペットに寝転がって日向ぼっこしたりしていた。不思議なことに、フクちゃんが発症してから、あんなに凶暴だったコハクが、フクちゃんをいたわるような態度しか見せなかった。猫同士何か感じるものがあるのかも知れない。

なんとなく察知している様子

そして、フクちゃんはその短すぎる一生を駆け抜けていった。8ヶ月しか生きれないって何だろう。もしかしてうちじゃなくて他の家に行ってたらもっと長生きできたかも、兄弟と一緒にいたら…色々考えることはあるが、もうフクちゃんはいない。

お世話になった動物病院で皆さんにお別れして、焼却場に行った。運よく私たちの他に人はいなくて、フクちゃんとはゆっくりお別れできた。係員の人も人間のように丁寧に接してくれて安心したが、やはり扉の向こうに行ってしまうフクちゃんを見ることはできなかった。

煙突からフクちゃんの煙が出てきて、それを見ながら、天使のようだったフクちゃんはきっと天国に行くのだろうなと思ったら、フクちゃんがもうこの世にはいないことを実感して涙が溢れた。

煙突から出るフクちゃんの煙は、やっと自由になった体を思いっきり動かして、空高くに走っていくように思えた。フクちゃんは喜んでいるのだなと思った。

次はもっと長生きできますように…

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