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2024年4月28-5月3日石川滞在記4

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「ただいま~!」

誰もいないとは思ったが、案の定、誰もいない中大きな声で家に帰ってきたことを宣言する。

今夜はしんちゃんの鍋パーティーらしい。
しんちゃんは石川県加賀市の黒崎で養鶏農家を営む、みんなのお兄ちゃんのような存在だ。
私がかつて滝ケ原で鶏を育てていた時に、本当にお世話になった。
いまは、アコちゃんがとてもとても大切に鶏たちを育てている。

しんちゃんは昭和チックな性格と、斬新な考えとがハイブリットされてる男性だと思う。
一つの事に真剣に取り組み、慣例や人付き合いを大事にするも、新しい挑戦や面白い話にも目がない。
それでいて自分のやり方を確立している人だ。
かなりの正直者で、曲がったことが嫌いな性格だが、個人的にはしんちゃんの考えや価値観がすごく好きた。
彼のような考えの人と話すことで落ち着きも感じる。

初日の営農組合の仕事は18時前まであり、パーティの時間が分からず急いで帰ってきたので、誰もいない部屋に少しほっとした。

田んぼの作業を終えて、汗やら泥やらで身体はびっしょりだったので、先にシャワーを浴びる。ついでに洗濯機も回してしまう。

シャワーを浴びている間に軽トラが家の前に停まった音がして
しんちゃんだとわかった。
玄関の扉が開いて、遠慮がちに「こんにちは~」と挨拶するしんちゃんの声が聞こえる。

あいにく、リンスの途中ですぐには出られないから、しんちゃんは放置しておく。
放っておいても勝手にやるだろう。初めてじゃあるまいし。

シャワーから上がって着替えを済ませた。脱衣所の横がすぐキッチンだから、しんちゃん驚くかな~と思ったが、ちょうど軽トラに荷物を取りに行ったところだったようでキッチンには誰もいない。

バサバサ。
髪をタオルで拭いてしんちゃんを待つ。

お、来た。

「あ。こんにちは~」

あれ?おかしいな。目が合ったはずなんだが、こんにちはと言われたことに違和感を覚える。
「こんにちは」とにやにやしながら答えて、3秒後にようやく、「あれ?え?(笑)なんでおるん?(笑)」と気づいてくれた。

しんちゃんはちょっぴりシャイだけど人好きな人だ。話しかけると、目をキョロキョロさせながら沢山話してくれるところが好きだ。

「昨日から来とるねん。田植えしに!」
「びっくりしたわ~、サプライズゲストや~、外国人のシェフの人かと思った(笑)」
「聞いてなかったのね(笑)」
「聞いてなかったでひかりちゃんくるとか(笑)人数だけ9人って聞いてたわ」

「そうなんやね、サプライズ大成功(笑)」

着替えと洗面用具をお部屋に片づけて、
手伝おうか?と声をかける。
「いや~ちゃんとお金もらっとるし、なんか悪いわ~。」
と渋っていたものの、半ば強引に、野菜を洗う仕事をもらう。

一緒に仕事をする時間で仲は深まるものだ。

積もり積もった話に花が咲く。
鹿児島の黒毛和牛の話に、これから私がやっていくことの話。少数民族の村の話、YouTubeやる?って話に、しんちゃんの近況。

アナが帰ってくるまで話が止まることはなかった。

「ひかりちゃんが育てた放牧牛で焼肉パーティーのお誘い、待ってるで」という、いつもの約束で話の幕が下りた。

アナとグラちゃんが帰ってきて、もうひとり、えりちゃんという日本人の女の子も一緒に帰ってきた。
初めて見る女の子だった。

「はじめまして!」

滝ヶ原町で5年前から開催されている音楽フェス、ishinokoのPR活動に、昨年度参加していたらしい。

グラちゃんの友達だと聞いていたので、日本人の女の子だったことが珍しい。

どんな子なのかな~。今日は外国人のシェフがあと3人来る予定だったので、うまく馴染めるかな?と少しだけ心配になりながらしんちゃんと準備を進めていった。

アナが台所に顔を出して、
「どうだった?今日は」
と私に聞いた。

アナはいつも直球でその日の出来事の感想を聞く。
今日、どうだったか。
瞬時にパッと言葉にするのは本当に難しい。
感じたものはたくさんあるのに、その感情を言葉にして脳にしまっておく癖がないから、いつも、アナと話をするときは言葉に詰まるんだ。
言葉にしたことのない感情を表現して伝える必要があるから。

「よかったよ」
なんて陳腐な言葉だ。
だけど、絡み合った感情の総称がそれだった。

「何がよかった?」
何がよかったんだろう。
感じた感情、アナに聞いてほしい話、頭の中には虹色の糸たちが絡み合って山のように積もっているのに、言葉の糸先がすぐには見つからないことが悔しい。

「ん~~。やっぱり、おじさんたちが私に会えて、嬉しそうだった。それが一番よかったかな。」

やっぱり私はそれが一番大事なのか。口をついて出てきた言葉を耳にして改めて知る。
おじさんたちに会いに帰ってきたようなものだ。

なんでだろう。
なんでこんなにおじさんたちが好きなんだろう。
おじさんたちとの仕事は何故こんなに心地いいのだろう。

今日の昼間の仕事風景が脳裏に浮かんだ。

「ひかりちゃん、この田んぼは苗箱追加せんでもいいから、あっちで待っとれ」
田んぼに入る前に龍虎くんが出してくれる指示に安心感を覚える。

いい仕事をしたいから、できるだけ非効率な動きはしたくない。
龍虎くんが細かく伝えてくれるから、次の動きの段取りで致命的なミスをしなくて済む。龍虎くんとの仕事はやりやすくて本当に心地がいい。

龍虎くんはお茶目で、裏表のない人だ。
初めて会った時も屈託のない笑顔で営農組合の仕事に迎え入れてくれた。いつも口元に笑みをたたえていて、どんなことも、どんな人も受け容れる貫禄さえ感じられる。
一方で仕事のことでは本当に頼りになるし、大胆で的確な判断をする。
営農組合のメンバーは、年下の龍虎くんの意見でも、龍虎の言うことだから。と耳を傾ける。

龍虎くんについていけば、うまくいく。と直感的に思わせるようなカリスマ性をもっている。

そんな龍虎くんは、人のことをいじるのが大好きだ。

一緒にペアを組んでいる下坂さんより、龍虎くんのほうが10ほど年下だが、下坂さんにもしっかり指示出しをして動かしてしっかりいじる。
途中で田植え機が上がって苗箱を積まなきゃいけないタイミングに限って、下坂さんがどこか遠くの方で水路のチェックをしたりしているもんだから、
間に合わなかった下坂さんに、「よりたけさん、肝心な時に限ってちょこまかちょこまかどっか行っとるから、ひかりちゃん一人でやらんなんなっとるよ、しっかり見ててくださいようもう~」と龍虎くんが笑いながら言う。
それに対して下坂さんも、「ごめんごめん、つい水路を見て回ってたらいつの間にか龍虎が上がってるもんだから、追いつかなくって~」と笑って答える。

本当にいろんな人がいるけれど、みんながちゃんとお互いを理解しあって、しっかりとコミュニケーションを取ることで、うまく回っているのだと思う。

下坂さんは仕事を完璧にこなすタイプというよりも、好奇心があっていろんなことに興味を持っていて、人と人を繋げることが好きだったり、お話しすることが大好きだ。自由人で放浪人で、頼まれたことは断れない、人の為にいつも動いている、ホセムヒカのような人だ。

一方で、龍虎くんや彰さんのように仕事をキッチリこなす人たちもいて、畑や田んぼに厳しい人もいる。いろんな人で成り立っている。

そんなおじさんたちの会話や、仕事をする風景を見て、ピンときたことがあった。

誰も、誰かのことを馬鹿にしたりしないし、相手の話をちゃんと聞いている。全員がお互いを受け入れあっているような気がする。ちいさなことでも報告しあうし、互いにコミュニケーションをとることを怠らない。
こうしたい!と言ったら誰かが必ずその願いを受け止めてくれて、叶えようと動いてくれる。
それに、ほとんど全員が苗字ではなく名前で呼んでいるのだ。
私の感じる心地よさのヒントが、ここにあるような気がした。

「滝ケ原のみんなって、本当に仲いいですよね。」
休憩のタイミングで、彰さんやら、東さんやらも集まってきていた。

「そうやなあ、割と仲いいかもしれんな。」
「飲み会なんかも割に多いしな。」
「なんかあったらすぐ飲み会や(笑)」
「定例会とかこつけて飲み会するんやわ(笑)」
「歳の差もあるけど、変なのも受けいれるしな、ちゃんとえんになっとるんやと思う」
「若いのも年老いたのもみんな一緒くたになって一生懸命働いとるんやわ。」
「それがこの町のええとこかもしれんなあ~」

一緒に働くのが楽しいと感じていた、その感覚は間違っていなかった。
栽培方法には農薬も肥料も使うので、私の目指していた環境改善農法とは違っている。
それでも、このおじさんたちの手伝いがしたい。それだけの理由で、目指す価値観と違うやり方でもいいと思えた。彼らとともに、彼らの目標を追いかける。それが無心に楽しかった。
何をやるかより、誰と過ごすか。そう言ったりもするだろう。

これまでなんとなく、アジアの少年少女や、田舎のおじいちゃんやおばあちゃんと話すのが心地よくて好きだと思っていたが、その答えが見えた気がする。

どんな人も受け入れる。縦のつながりも、横のつながりも大切にしているし、くだらないことでも笑いあって、一致団結する時間を取る。
そしてなにより、そこに存在することが嬉しいよと言ってくれるような、あたたかな歓迎の気持ちを感じられる。

大学時代、少数民族の村に行ったときに再三、先生が言っていた言葉だ。
「ここの村は、健常者も、障がいのある人も、区別などない。全員が家族で、助け合って生きている。ハンデがある人が劣っていることなどない」

「人と人との繋がりを大切にしていきたい」
これまで何年も、なんとなくこう考えてきて、やっと腑に落ちた。
脳が感覚に追いつくっていう表現が正しいのか。

社会を re: connect していきたい。
そう強く思った。

“バラバラになった世界をre;connectしていきたい”

自己紹介note ☀︎reconnect 繋がる より
美しい滝ヶ原町
営農組合はこの町の自然を守る活動も行っている。


「あ~。そうだよね。アナも、まだここのおじさんたちと滝ヶ原の自然の中で一緒に仕事をしたいと思ってる。だからまだここにいる。」

この美しい滝ヶ原町が、潰えることのないようできる限りの手伝いをしたい。
そう思う若者が今ここにいる。

答えはシンプルで、
美しい町に生きる、美しい人たちの為に動きたいと心が突き動かされるのだ。


2024年4月28-5月3日石川滞在記 Fin.



明日からまた、石川県へ4日間ほど行って参ります。
つたない文章ではありますが、投稿を楽しみにしてくださる皆様、いつも本当にありがとうございます。

お待たせすることもあるのに、いつも記事を読んでくださることが本当に嬉しいです。

明日のあなたが、ちょっとほっこりした気持ちで過ごせますように。

いつもありがとうございます!


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