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乾杯なんて大嫌い……だった。


大学に入りたて。とあるサークルの新歓に参加した僕の目の前に出されたのは可愛い色をしたアルコール飲料だった。


「すみません、僕、烏龍茶って言いましたよね?未成年なので…」


浪人して大学に受かったものの、早生まれの僕はまだ19才になりたてのお子ちゃまだった。


「いや大丈夫大丈夫。これ烏龍茶みたいなもんだし、ほら飲んで飲んで」


絶対に違う。烏龍茶みたいなもんでは決してない。この先輩は、アルコールを飲んだことがない僕のことを騙そうとしているのか、はたまた、からかおうとしているのだろうか。


今までたくさんの新歓に参加してきたけれど、こんなの初めてだ。「大学という場所は恐ろしくてだな…特にスポーツ系のサークルの新歓はマジでいかない方がいい」現役で大学に受かった同期から聞いていた話を思い出した。当時は「そんなわけないや〜〜ん」なんて信じていなかったけれど、『マジ』だったとは。


「ほらほら持って持って」


無理やりグラスを持たされる。


カンパ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜イ


カンパ〜イの”〜”の部分が経験したことないくらいに長くて、気持ち悪く思ってしまう。みんなの笑った顔もなんだか不気味に思えた。


みんな一斉にグラスを口につける。あぁ飲まなきゃいけないのかな、飲みたくないな。僕はグラスを口に近づけてはみたものの、躊躇いは消えなかった。


「飲めない?大丈夫??」


「えっ!?」


急な言葉にびっくりしてしまう。隣の大人しそうな男の子が声をかけてくれた。


「オレ、飲むよ」


そう言って僕の持っていたグラスを取ってグビグビ飲み出した。そうして半分くらい飲んだところで、小さい声でこう言う。


(とりあえず、このくらいで持っていて。また飲むから)


咄嗟の出来事だったため、僕は固まったままであった。ただただ彼を見ることしかできない。


「あ…ありがとう」


戸惑いながらも絞り出した言葉に彼が笑った。


🐶


彼のおかげでなんとか一滴もアルコールを飲まずに新歓が終わった。先輩たちと別れ、彼と2人で話す。


彼は新入生だが浪人しているためもう成人しているということや、お酒は慣れているので飲めなさそうにしている僕に気付き自然と体が動いていたことを知った。彼は本当に優しかった。


「ありがとう」


今度は、はっきり言えた。


🐶


それから数年後、大学生活にも慣れた現在。僕は彼との仲を深めていた。大学での授業を共に受けたり、昼食を食べに行ったり、勉強を教え合ったり……。


そして、成人した僕は彼と居酒屋に行くこともある。


「お疲れ様!!」


お互いの頑張りを認め合ったあと、僕たちはアルコール片手に号令をかける。


カンパ〜〜イ


”〜”の長さがちょうど良い。あの時と同じ乾杯だとは到底思えないくらい心地が良い。乾杯はこうでなくっちゃ。友達との乾杯はどれも楽しいが、やっぱり彼との乾杯が一番しっくりくる。


きっとこれからも彼とはたくさんのカンパ〜〜イをしていくことだろう。


















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