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初診で大病院に行ってはいけない理由と、大病院を活用すべき理由

皆さんは体調を崩された時、お医者さんに診てもらうことがあると思います。そんな時に行くのは、病院でしょうか? それとも診療所(クリニック)でしょうか?

恐らく多くの方は、軽い症状であれば近所の診療所に行っておられると思います。しかし世の中には、「やはり体のことは大きな病院で診てもらうのが安心だ」という考えをお持ちの方もたくさんいらっしゃいます。

そんな方に、今回の記事はぜひ読んでいただければと思っています。

ちなみに病院と診療所の違いは、入院できるベッドの数。20床以上で病院、それ未満を診療所と呼んでいます。どんなに建物が大きく立派でも、ベッドが19床以下であれば病院とは呼ばないのです。

大病院はお金がかかる - 選定療養費とは?

まず大前提として、政府は、体調を崩した時はまず大病院ではなく診療所に行って欲しいと明確に方針を打ち出しています。

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201902/1.html

理由を簡単に書くと、「大病院は重症患者のために存在するものであって、軽症患者はその邪魔をするな」ということになります。

大病院には重症患者を診察するための医療機器が備えられるなど、治療するための高度な医療体制が整えられています。そんなところへ軽症患者が殺到すると、本来これらの高度な医療を必要とする重症患者がその恩恵を受けられなくなってしまうのです。

そこで政府は、いきなり病床数200床以上の大病院へ来た患者からは診察費とは別のお金を取ることができることにしました。それが、選定療養費というものです。そしてさらに、特定機能病院や病床数400床以上の地域医療支援病院(要するに、もっと大きな病院)には、いきなり来た患者から選定療養費を5,000円(税別)以上徴収することを義務付けました。

余計にお金がかかるから、ちょっとした病気でいちいち大病院に来るな、という政府の考え方を如実に表しています。

ちなみに私の勤務する病院は病床数700床ほどの地域医療支援病院で、選定療養費は10,000円(税別)に設定しています。つまり、ちょっと風邪をひいただけで私の病院をいきなり受診すると、診察費に加えて10,000円余計に請求されるのです。ぶっちゃけ診察費よりも選定療養費の方がはるかに高いです。

この効果はテキメンで、病院の地域医療連携室(後ほど説明します)には初診受付で選定療養費のことを聞かされて受診を断念した患者さんが連日たくさんやってきます。

では大病院で受診したい場合はどうすればいいのでしょうか? もちろん選定療養費を払ってでも受診するのならばそれでも良いのですが、選定療養費が発生しない受診方法が主に2つあります。

・救急車で搬送された場合。
・他の医療機関からの診療情報提供書(紹介状)がある場合。

救急車で搬送された場合は、基本的に患者本人に選択肢があって来たわけではないので、選定療養費は発生しません。そしてもう1つ、他の医療機関からの紹介状がある場合も発生しません。

どうしても大病院に行きたい場合は、まずは近所の診療所に行って、行きたい大病院宛の紹介状を書いてもらい、それを持って大病院へ行くのがトータルで費用を抑えられる手段なのです。

「でも、いきなり紹介状を書いてもらうとか嫌がられるのでは?」と思われるかも知れませんが、紹介したり紹介されたりは医療の世界では当たり前に行われていることなので、気にする必要はありません。大抵はすんなりと紹介状を書いてもらえます。

一方で、大病院を活用すべき理由ももちろんあります。高度な医療が受けられるというのは当然のことなのでここでは割愛します。

大病院を活用すべき理由 - 地域医療連携室の存在

大病院、特に地域医療支援病院には、地域医療連携室(または似たような名前の部署)という部署が存在しています。何をする部署かと言うと、主に他の医療機関からの紹介患者の予約を受け付けたり、逆に他の医療機関へ紹介する患者の予約を取ったり、患者にかかりつけ医を紹介したりしています。

なぜわざわざそんなことをする部署があるのかと言うと、儲けるためです。

地域医療支援病院に指定されると、地域医療支援病院入院加算という加算が取れます。簡単に言うと、同じ入院患者でも地域医療支援病院の方が多くお金を取ることができるのです。

病院は患者を外来で診たり病棟へ入院させたりしてお金を稼ぐ訳ですが、保険診療については病院が自由に価格を設定することができません。あらゆる診療行為について、「これは何点、それは何点」と細かく決められています。そんな雁字搦めの状態でより稼ぎを増やすためには、様々な要件を満たした上で様々な加算を取るのが一つの手段なのです。

地域医療支援病院入院加算もその一つ。要件となる地域医療支援病院の指定のためには、医療法第四条などに明記される条件を満たす必要があります。その条件の中に、紹介率と逆紹介率の記載があるのです。

・他の医療機関からの紹介率が80%を上回ること。
・他の医療機関からの紹介率が40%を上回り、かつ逆紹介率が60%を上回ること。

この条件はどちらかを満たせば良いのですが、他の医療機関から紹介されたり、他の医療機関への逆紹介が重要になってくるため、地域医療支援病院では主に地域医療連携室のような部署を設置して、紹介されたり逆紹介したりをスムーズに行えるようにしているのです。

話はだいぶそれてしまいましたが、こういう理由で設置された地域医療連携室を、患者は活用しない手はありません。

特に大病院が密集する都会では、少しでも自病院への紹介を増やすために、地域医療連携室の担当者が診療所などを定期的に訪問して営業活動を行っています。その過程で、それぞれの診療所の特徴をデータベース化しているのです。診療所からの紹介を増やすためには、病院から逆紹介をしていくことも大切なので、患者を適切な診療所に逆紹介するためにそのような情報を収集しているわけです。

つまり、患者側からすると、体調が悪いけどどの医療機関を受診すれば良いかわからない場合、この大病院の地域医療連携室を訪ねれば適切な診療所を教えてもらうことができるメリットがあるのです。通常、このサービスはその大病院の患者でなくても無料で受けられることが可能です。

ただ残念ながら、その地域に大病院が1つしかないような地域ではあまりメリットはありません。競合病院がない場合、医療機関からの紹介は放っておいてもその大病院に集中してくるため、地域医療連携室の担当者が営業活動することはなく、当然各診療所の特徴なども把握できないからです。

仮にそのような大病院に診療所を教えて欲しいとお願いしても、インターネットで近隣の診療所を検索されるだけです。つまり患者が自分で探すのと全く変わりないので、病院へ行くだけ時間の無駄です。

ちなみに地域医療支援病院は二次医療圏に1つ以上あることが望ましいとされているのですが、私の病院がある地域は地域医療支援病院が7つあり、その他にも有名な大病院が集中しています。そんな状態なので、私の病院では地域医療連携室に事務、医療ソーシャルワーカー、看護師といった職員が30人ほど配置されていますが、地方の同規模の病院では同部署に職員が5人といったことも普通にあります。

大病院を活用すべき理由 - がん相談支援センターの存在

国や都道府県が指定するがん診療連携拠点病院という、がん診療に力を入れている病院が全国にあります。そんながん診療連携拠点病院には、がん相談支援センターというものがあります。何をするところかと言うと、その名の通りがんに関する相談を無料で受けるセンターです。

がんの医学的な部分については医師の診察を受けることになりますが、例えばがんになったけど仕事を続けたい(就労支援)とか、子供を産みたい(妊孕性支援)とか、そういう医学面以外の相談ができる場所なのです。具体的な治療のこと以外は医師には相談しにくい、という声もありますが、そういう方はがん相談支援センターを活用すべきです。

相談を受けるのは看護師や医療ソーシャルワーカーなど。私の病院では緩和ケア認定看護師の資格を持つ看護師が主に相談を受けています。

またがんに悩む患者を、元患者などがボランティアで相談に乗ったりイベントを行ったりする患者会がある病院もあります。医療従事者にはわからない患者同士のことなどを話すことができるので、闘病期間中に励まされたという声もよく耳にします。すべての病院にある訳ではありませんが、もし闘病で悩んでいることがあれば、患者会がないか聞いてみた方が良いでしょう。

さいごに

最近の病院には、有名チェーンの喫茶店やコンビニが入っていることが普通になってきました。私の病院にも喫茶店とレストラン、コンビニが入っています。どうしても長くなる外来の待ち時間でのストレスを少しでも軽減できるよう、各病院試行錯誤しています。

病気にならないと中々病院へ行くことは無いとは思いますが、健康な人でも無料で楽しめるイベントや講座が結構頻繁に開催されているので、病院のホームページなどを少しチェックしてみてはどうでしょうか?


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