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稲川淳二版「蟻とキリギリス」

かつて夏の日差しのもとで、キリギリスは歌と踊りに身を任せ、快楽を追い求めていました。一方で、蟻たちは来る冬に備え、必死に働いていたのです。キリギリスは彼らの努力を笑い飛ばし、友達のバッタくんと共に夏の日を浪費していました。

しかし、季節は移り変わり、厳しい冬が訪れます。食べ物に飢えたキリギリスは、「いやだな〜、こわいな〜」とブルブル震えながら、存命をかけて食料を探しました。ヒタ...ヒタ...と、彼の心を凍らせる冷たい雨が降り続きます。

そしてある夜、キリギリスは助けを求めて蟻たちの住処に向かう途中で、ザラ...ザラ...という奇妙な音に気づきました。そっと振り返ると、そこには友達のバッタくんが、何者かによって無残にも引き裂かれた状態で横たわっていました。その断末魔の姿は、まるで呪われた人形のように不自然に歪んでおり、黒い糸が彼の体を縛り付け、暗がりでうごめいているかのように見えました。

「いやだな〜、こわいな〜」キリギリスは恐怖で声を上げましたが、その声はただ木々に吸い込まれ、夜の闇に呑まれてしまいました。彼はその場から逃げ出したかったですが、足は震え、体は動かず、ただその場に立ち尽くしていました。

その夜、キリギリスはバッタくんに何が起きたのか、そしてその黒い糸の正体が何なのかを知ることはありませんでした。冬の残酷な月日の中で、彼はバッタくんの悲劇と共に生きることを余儀なくされ、その記憶は彼の心の奥深くにある暗い部屋に閉じ込められました。そして春が訪れたとき、かつての友との楽しい思い出は、恐ろしい悪夢へと変わっていたのです。

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