暮らしに根ざした知恵。春の自然の恵みにふれる、山菜ツアー
5月の郡上は新緑に溢れた、気持ちの良い季節。
今回、Chef in Residenceの趣旨をまっ先に説明し協力を仰いだのが、another home gujo。
another home gujoは郡上全体をフィールドとして活動し、ツアーの開発やコミュニティの運営を行いながら、人の価値観を揺さぶらせることができる機会をコーディネートし、ひとりひとりが素直な自分を取り戻して行く過程を一緒に伴走しているチームです。
山菜に詳しい、地元の女将さんとのコーディネートを彼らにお願いし、シェフと一緒にまわったフィールドワークの様子をレポートします。今回案内をしてくれた民宿 しもだ(郡上市明宝)の下田葉子(しもだ ようこ)さん(以下、葉子さん)、another home gujo コーディネーターの代表である由留木正之(ゆるき まさゆき)さんにも郡上の自然に対する想いをお聞きしました。
山菜は小さい頃から身近で、自然な存在でした
ー 山菜ツアーではありがとうございました。葉子さんは小さい頃からずっと明宝にいらっしゃるんでしょうか?
下田:今回ツアーでまわったのは明宝の気良という土地ですが、私が生まれ育ったのは峠をひとつ越えたところの小川というところです。昔話に出てくる里山のような土地で、今よりももっと自然が身近で、遊び場という感じでしたね。
学生時代は愛知県で暮らしていたのですが、ご縁があって生まれ育った明宝の気良に戻ってこられて良かったです。栄養士の資格を持っていたので、活かせると良いなぁというくらいには思っていましたが、民宿の仕事や子育ては家族や地域の皆さんにサポートしてもらいながら育ててもらった、という感じがしています。
ー 葉子さんは小さい頃からずっと山菜に親しんでいらっしゃるんですか?
下田:そうですね。ワラビやゼンマイなど、採った時に食べるというよりは、保存食として乾燥させたものや塩漬けにしたものを調理する場面が多かったです。今はどんどん便利になっていますが、野菜が手に入りづらい季節に春の山菜を食べようという知恵で保存食として利用されていたのではないでしょうか。
私たちが小学生の時は、フキを収穫してそれを売って活動資金になっていたみたいですね。実際に売っている場面は見ていませんが、そういう意味では、フキを取ることもワラビを採ることも小学生の頃から学んでいました。
ー 山菜を採る際にいくつか注意をされている点がありましたが、どういった意味があるのでしょう。
下田:なんでもそうなんですが、まず根こそぎ採ると絶えてしまう。絶えないようにするにはどうしたら良いかということなんです。例えば、ゼンマイはオスとメスがあって、オスの方を採ると絶えてしまう。繁殖できなくなるので、メスの方だけを採りましょう、という話しをしています。どんな草花でもそうですが、根こそぎ採ってしまうとか、芽を全部摘んでしまうと枯れたり、絶えてしまいます。そこのルールは守って採っていきたいなと思ってます。
他にも、毒草に似たものは確実に見分けられる時にだけ、採るようにするというものもありますが、どんな場合も、採ってしまえば絶えてしまうので、必要な分だけいただくというのが原則かなと思います。
▲新緑の山々に囲まれた、美しい明宝・気良の集落
▲葉子さんに説明を受けながら集落をまわる。あぜ道のあちこちに、食べられるもの、食べられないもの、さまざまな野草が自生している。
人間の身体の循環にも、山菜は必要なものなんです
ー ツアーでは天ぷらをごちそういただきましたが、調理法はどのように習得されたのですか?
下田:実は私は中学生の頃から寄宿舎生活をしていて、母からはあまりそういうことは教わってはいないんです。山菜の調理法を覚えたのは嫁いでから。民宿の女将の先輩がたにほとんど教えてもらいました。山野草の種類や食べ方、調理法などを、明宝の民宿の女将さんたちでチームをつくって。そこで、たくさんのことを学びましたね。
▲採った山菜は仕分けをして水洗いする
▲採った山菜をその場で天ぷらに
ー 昔と違って今ではスーパーでいろんな野菜が手に入りますが、今でもなぜ山菜を自分の手で採って、食べ続けているのでしょう?
下田:それはもう、田舎ならではというか。もちろん栽培されたものもありますが、売っていない天然のものをいただくということは、人間の循環にも必要なことなんです。山菜が苦いのは、冬に身体で蓄えてしまった毒素を、山菜を取ることによって、排出するそうなんです。だから、必要というか、取るべきものなんですよね。
ー 普段はどんなお料理を出されているのですか?
下田:大きく分けたら、揚げるか煮るか和えるか、みたいな感じですね。ただ、全部同じ味じゃなくて、同じ和え物でも、いろんな出し方があると思うので、その辺は工夫しているつもりです。
山菜は下処理が必要なものが多くて、今日皆さんにもツアーで巡ってもらいましたが、民宿のお客様にもこんなところで採れたんだとか、こういった手順を踏んでこんな料理になりました、ということをお話すると、より美味しく味わっていただけるというか、そんな気がします。
採れたての山菜でつくる絶品のピザ
ー 今日は採ってきた山菜をピザにして、ドラム缶窯で焼いていただきましたが、なぜピザなのでしょうか?
由留木:山菜ってどうしても、お年寄りが食べるもの、野菜嫌いな子が緑を見たとたんに拒否反応を起こしたりするイメージがありますよね。ところが、ピザにすると、自分で採った山菜が自分のつくったピザに乗っている、というだけでペロリと食べられちゃう。手軽にみんなで作ることができる、魔法の食べ物になるんですよね。
▲思い思いに、ピザ生地の上に山菜をトッピングする
由留木:僕は長い間、自然体験プログラムの企画やアウトドアガイドをやってきて、子どもたちが手作りの山菜ピザを食べる姿を見てきました。お母さんがそんな子どもの姿を見て「えー!あなた食べれるの」って言うわけですよ。食べれる食べれる、みたいな。目の前でそういうことが起こったりするので、手作りのピザ、という形にしています。
受け継がれる、当たり前に自然とつながった暮らし
ー 由留木さんから見た、明宝や気良の魅力はどんなところですか?
由留木:気良というのは、開けた谷ですごくオープンなんですけど、昔ながらの暮らしがまだまだたくさん残っていて、自然と向き合って暮らしているところが魅力だと思いますね。周りの環境を上手に利用して民宿をやっていらっしゃったり、農業だったり林業だったり、いろんな自然と向き合っている人たちが暮らしていて。リズムがカレンダーではなく、自然のサイクルでまわっているっていうところが、良さですかね。
ー 葉子さんや女将さんたちの知恵や暮らしから学んだことは?
由留木:女将さんは、日々自然と向き合って暮らしている。山菜って山にあるって最初思っていたんです。山の菜って書くので。実際山に入ると真っ暗で山菜ってほとんど生えていないんです。でも、今日のツアーのように、里をぐるーっと一緒について道を歩くだけで、何十種類もの食べられる山菜が見つかる。山菜が人の暮らしと共にあると言うことなんです。昔はスーパーもなくて、栄養素の供給源になったのが山菜で、くらしの中に長年織り込まれたサイクルとして山菜が受け継がれてきたと言うことを学びました。
医食同源ってよく言われますけど、野草を解熱剤につかったり、この時期が一番イノシシのおいしい時期、山菜のこの種類は今、とか。四季の移り変わりで、食材が今一番おいしい時期だったり、それを外したとしてもこういう料理法にしてやるとその食材が生きるんだ、と言うことを女将さんたちはよく知っているんですよね。土とつながっている、自然とつながっているっていうことを、そばで見ていて本当に感じますし、魅力だと思います。
▲由留木さんが郡上へ移住された頃から、仕事のパートナーとして活動を共にされている葉子さん
由留木:葉子さんもおっしゃられていますが、採りすぎない、食べれるだけ採る、ということ。彼女たちも先代、先先代からずっと受け継いできて残っている循環の知恵を、次世代に引き渡そうとしていることでしょうか。
人生の価値観が変わる場面によく出会うんです
ー なるほど。由留木さんが感じる、郡上とはどんな場所ですか?
由留木:繰り返しになってしまいますが、郡上には、深度深く、自然と向き合って暮らしている方が多いです。「循環型」とか、「エコロジー」だとか、最近では言われますが、そういった昔から地域で受け継がれてきた暮らしに、無自覚に接している彼らが自然に体現している。
郡上はそれをすごく感じられる場所で、来た人がよく、「今まで自分が持ってた知識や情報ではなくて、価値観がガラリと変わる」と言います。僕もそうだったんですが、人生の変わり目になり得る体験ができる場所だと思います。ぜひ一度足を運んでいただいて、僕たちと一緒に郡上の深い部分に入って行ってもらえばと思います。
▲郡上の寒い冬には必須の薪。料理だけではなく、今も続く暮らしの知恵を学ぶ
▲由留木さんの手ほどきをうけて薪割りを体験
▲another home gujoではツアーの様子を映像で公開しています。今回めぐった明宝・気良の様子を知りたい方や、インタビューをじっくり聞きたい方はぜひ映像もご覧下さい
郡上随一の秘境、小川でのフィールドワーク
気良地区でのフィールドワークを得て、翌日に「コゴミ」の収穫へ。気良と同じ、明宝エリアにある小川地区は、厳しい峠を越えた先に広がる『秘境』と呼ばれる場所です。小川では、地域唯一の民宿『上出屋』の女将である西脇洋恵(にしわき ひろえ)さんにフィールドワークへ連れ出していただきました。
▲地元の方のみが入ることが許された場所を案内いただいた
▲さくさく、と慣れ親しんだ小川の森を案内してくださる洋恵さん。今年はワラビがあまり出ていない、と教えてくれる
1週間後、実際のメニュー開発の食材調達で、再度小川へうかがわせていただきました。この時は集落の周辺だけのフィールドワークでしたが、豊かな植生に触れ、実際の調理に使った食材も多数、入手することができました。
▲秘境と呼ばれる小川地区には、小さなビオトープがあちこちに広がっている
▲清らかな水の流れる水路のすぐそばに、たくさんの山菜が自生している。許可をいただいた上で、シェフも必要な素材を自ら採らせてもらう
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今回お世話になった皆さんのプロフィール
下田葉子
生まれ育った明宝で『民宿しもだ』を営む。自然体験ツアーに来る子どもたちと出会う中で、食アレルギーや嗜好のかたよりの多さを目の当たりにしたのをきっかけに、新たなアレンジメニューの提供をはじめる。地産地消をモットーに、郷土食や伝統食の掘り起こしをはじめ、今年からは安心安全な農業に挑戦中。
西脇洋恵
約25年前に、当時勤務していたケニアで小川出身の旦那さまと出会い、小川へ移住。地域唯一の民宿『上出屋』の女将として暮らすなかで自然と人の魅力に惚れ込み、小川地区のためにもっと何かできないかと日々考えている。座右の銘は「人生楽しく!」
another home gujo
第二のふるさとに帰ってくるように、郡上の文化や自然や人々に出会うこと。その出会いを通して、自分の内面や本質に触れられるような旅や企画作りをしています。
https://www.home-gujo.com/
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クレジット
コーディネート協力・動画製作:another home gujo
編集協力:小林弥生
主催・聞き手・文・写真:NULL DESIGN オオツカサヨコ
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