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なぜ様々なバリュエーション手法があるのか

企業価値の算定にあたり、DCF法、EBITDA倍率、PER等様々な手法が紹介されています。算定式は知っている方も多いかもしれませんが、本日はなぜ様々なバリュエーション手法(企業価値算定方法)があるのか、どういった人がどういう時に使うのかを検討してみたいと思います。

企業価値とは

本題に入る前に、企業価値とその評価手法について基礎的なことを説明したいと思います。

「企業価値」とは、簡単にいうと「企業保有する事業の価値」です。
※厳密には事業に関係ないも企業の持ち物(投資株式等)も含まれるます

で、この「企業価値」は「債権者の価値」と「株主の価値」の2つに分かれます。この点わかりにくいかもしれないので、「企業の資産は誰のものか?」ということを考えてみます。

事業を終え企業をたたむ場合、全資産の換金が終わり現金1,000万円が企業に残ったとします。
現金はまず銀行等の債権者に返却します。仮に借金が300万円だとすると、残りの700万円を株主で分ける形になります。
そのため企業価値は1,000万円、債権者価値は300万円、株主価値は700万円というイメージです。

ここでは、企業価値=債権者価値+株主価値。株主にとって気になるのは当然、株主価値であるということを覚えておいてほしいです。
ちなみに時価総額は企業価値ではなく株主価値を示してます。

企業価値評価手法


企業価値の評価方法は大きく以下、3つあります。

上記は超ざっくりなので、気になる方はgoogle先生に聞くだけでしっかりした回答が得られます。
コストアプローチは企業のBSの純資産の金額をベースに決定する方法で実務的には下限値で使われたりはしますが、重要な案件の場合は②のDCF、③のマルチプルが使われます。

【脱線小話:興味がある方だけお読みください】
上記3つの考え方は企業価値のみならず、何かの価格を決めるためにも応用できるので、覚えておくといいと思います。
例えば、「どこでもドアにいくらの価格を付けるか?」という突拍子がない問いでも以下のように検討できます。
・どこでもドアでも製造品と考えれば、製造原価がXX円かかったので、少なくともそれ以上で売りたい(コストアプローチ)
・どこでもドアは例えば友達に1日XXX円で貸せてるから…、実際に自分で使うと交通費が月XXX円削減できるから…、そこの金額をベースに決定(インカムアプローチ)
・類似品(例えばZoomも「会議のための移動」をなくすという意味では競合品かもしれない)があってそれがXXX円で売っているから、それと同じくらいで設定(マーケットアプローチ)

※価格は上記に加えて、需要と供給のバランス、ビジネスモデル(ジレットモデル)次第でも違います

評価手法別の検討

それでは本題の評価方法について説明したいと思います。
筆者の経験上よく使われる、DCF、EBITDA倍率、PER、PSRについて、どのようなものなか、なぜ複数の評価方法があるのかを考えてみたいと思います。

なぜ評価方法が複数あるのかというと、「企業価値・株主価値のどちらを算定するか」、「評価者がどうやって投資回収を図るか」という点が異なるからかと思います

・DCF法
これが企業価値算定の原則というか本質的・理論的な答えになります。
企業が事業から生み出したCFをベースに、事業の価値を評価する方法です。

こちらのメインケースは事業会社がM&Aを検討するときです。
事業会社が会社の経営権を取得し、その事業が稼ぎ出す収益で投資回収を図ります。

そのため、自身で買収会社の事業計画を策定し、本業とのシナジーも考慮し、当該事業が生み出すフリーキャッシュフローをベースに企業価値を算定します。

・EBITDA倍率
EBITDA=営業利益+減価償却費等(簡易的なCFを表す)という指標が企業価値の何倍に相当するかをベースに企業価値を算定する方法です。

こちらをメインに使うのはPEファンドです。
PEファンドは事業のCFで投資回収を図るのではなく、誰かに売却することにより投資回収を図ります。
また、PEファンドはLBOという手法を用い多額の借入を利用し、資本構成(負債と資本のバランス)をコントロールすることによっても高い収益性を達成しています。
そのため、いずれ売却することから、マーケットから実際に取引されている類似企業のマルチプル使い、資本構成もコントロールすることから、直接株式価値を求めることはせず、企業価値を算定するアプローチをとっています。
EBITDAを使用するのは、マルチプルのため公開されている財務諸表から簡単に算定できる必要があるからかと。

・PER・PSR倍率
PERは株主価値が当期純利益の何倍に相当するかということをベースに企業価値を算定する方法です。
EBITDAと同じマルチプル法ですが、違うのが株主価値を求めに行っている伝です。

こちらをメインに使うのはベンチャーキャピタル(VC)になります。
VCはIPOにて投資回収を図ることが多く、上場マーケットの投資家はPERを重視しているため、VCもPERをベースとした企業価値算定が行われます。

上場マーケットの投資家は、数%しか株式を持たない少数株主となることが多く、その場合M&Aをした事業会社のように事業のコントロールもできませんし、投資ファンドのように資本構成も触れません。
そのため最終的に企業に残った当期純利益(≒配当原資)により投資回収を図ることになります。

そのため、株式価値と当期純利益を関係を示すPERが使われます。

ちなみにPSRという指標は、株主価値が売上高の何倍に相当するかをベースに企業価値を算定する方法です。
こちらは、近年のテック系、SaaS企業の評価のために生まれました。
特にSaaSはそのビジネスモデルの特徴上、初期的には利益度外視で顧客獲得を行うことが成長の要になります。
そのため、初期もしくは上場まで赤字ということがおおく、その場合PERが使用できないので、その代替として今後の成長の潜在的な指標である売上高が使用されました。
なので、PSRはあくまで特定企業の特定期間のみに使用できる限定的な方法になります。

それぞれわかりやすくするため、評価手法ごとのメインケースを設定しましたが、実際には様々な評価指標を使って、それぞれの妥当性を確認することも多いです。

終わりに(覚えておいてほしいポイント)

最後にせっかく読んでいただいたので、本記事で覚えておいていただきたいことを書きにまとめておきます。

・企業価値=債権者価値+株主価値
「企業価値」か「株主価値」どっちらを求めている手法かを明確に
・バリューエーション手法の本質はDCF法
 ただ、実務的(簡単&客観的)な観点からマルチプル法も多い
・自分がどうやって買収した企業価値の回収を図るかによって、適用する評価方法は異なる

バリューエーションは企業価値という概念を掴むために、共通のものさしを使って合意形成を図る当事者間のツールにすぎません。(理論関係なく売りたい人と買いたい人の希望が一致すればそれが価格になります)
なので、万能というわけではないですが、知っておかないと自分が高値を掴む、低く売却してしまうことになるので、はやり知っておくといいと思います。

参考書籍(初心者向け..といいつつこれがわかれば相当十分かと)
・MBAバリューエーション 森生明氏・バリューエーションの教科書 森生明氏・ざっくりわかるファイナンス 石野雄一氏・絶対に忘れない[財務指標]の覚え方 森尭彦氏

以上

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