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遊郭で高人さんを見つけました。

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2023年3月の記事一覧

遊郭で高人さんを見つけました。9

まったく、気に食わない。 綾木千広はそう思いながらぼりぼりと頭を掻く。 イライラするとやってしまう癖だ。 夜霧の側に居るために、面倒だった呉服屋を継いで約2年が過ぎる。政治家の奥様や大企業のご婦人方に媚を売り続け順調に商売を広げ力を付けてきた。そんな折に問題が起こった。 ここ数ヶ月、夜霧の周りをウロチョロと嗅ぎ回る男が居たのだ。 誰かと思い調べてみれば、大手商社の東屋の若君というではないか。この商社の黒い噂は商売人なら誰しも噂くらいは知っている。 実に気に食わない。

遊郭で高人さんを見つけました。8

卯月、春の終わりの風に新緑が香る。 高人はサワサワと気持ちの良い風に目を細めた。 花房屋は夏の衣替えの季節を迎えている。 呉服屋を呼んで着物や打掛を新調するため、昼間でも見世の中は賑やかだった。 俺はというと…、 窓辺の縁に肘をつき、自室の隅にある、ご大層な打掛けを眺めている。 「チュン太のやつ、俺はもう最前から退いてんのに、こんな派手なやつ送ってきやがって。」 薄い群青の生地に金で縁取られた大輪の白牡丹がいくつも咲き誇り、薄桃の桜や撫子が周りを華やかに囲う。そんなお貴

遊郭で高人さんを見つけました。7

なんとか、こっそり見世に帰る事がてきた。 時間は、お昼を少し回ったくらい。 パタパタと自室に戻る。 「…⁈」 すっと襖を開けると、絹江さんが座っていた。 「おかえり高人」 ああ、やっぱりバレてしまった。 「た、ただいま戻りました…。」 襖を閉め、観念して絹江の前に座った。 「どこに行ってたの?…海の香りがするけれど。」 笑ってない絹江さんは笑ってる時より恐い。 「東谷様がここ3週間おいでにならないのて心配になって…様子を見に行ってました。」 しゅん…と肩を落とす。

遊郭で高人さんを見つけました。6

「……」 窓辺で父からの書簡を読む。後ろには、父の側近である卯坂が立っていた。 花房屋と契約を結んでから、その事が父の耳に入ったようだった。 「若様、どうなさるおつもりで?」 「父がやれと言うのであれば、やりますよ。」 卯坂に向き直りニコリと笑う。 「陰間にうつつを抜かしている場合では無いのでは?」 東屋の裏の顔は情報屋だ。だから驚きはしない。「彼を理由に仕事を蔑ろになどしません。」 「蔑ろ所の話じゃあらへんわ。旦那様の商会を泥舟にする気か言うとんのや。」 眉間に皺を寄せた

遊郭で高人さんを見つけました。5

あいつが最後に花房屋に訪れてから3週間になる。 「…なんでこねーんだよ。」 高人はむすっとした顔で1人愚痴った。 見世の2階の自室から、散りかけた桜を眺める。 太陽は東から顔を出したばかりの時間だ。夜遅くまで働く廓が動き始めるのは昼を少しすぎてからだ。 「はぁー。あんだけ執着しといてほったらかしかよ。」 ぽてっと畳に倒れて仰向けに天井を見た。 「はぁー。東谷のばーか。」 名前を呼んだらひょっこり出てきそうな気がしたが、当然そんな事はなく、また少し機嫌が悪くなる。 ふと、下

遊郭で高人さんを見つけました。4

「はぁ…」 准太は商会の自室でため息ばかりついていた。 机に積まれた書類に目を通すも、中々進まない。 昨晩は大変だった。夜霧が隣で寝息をたてているというだけで欲情してしまい、まったく眠れなかった。寝顔があまりにも無防備で可愛らしく、欲を抑える自信が無くて…、彼を起こさないように部屋を出て廊下で夜を過ごしてしまった。見世に来ているのに、だ。 「はぁ…」 ため息しか出てこない。あの人が欲しくて欲しくてたまらない。この欲求は何なのだろうか。 欲求に忠実に、事を急いでしまったのも

遊郭で高人さんを見つけました。3

夜中にハタと目が覚める。 「しまった…ッ」 客の前で酔っ払ったあげくに寝こけてしまうなんて! ふと自分の姿を見ると装飾品や重い着物までしっかり脱がされ、長襦袢のみの姿になっていた。髪も解かされている。隣には寝息を立てる東谷が俺に腕枕をしてくれていた。 身体に違和感もない。 「本当に何もしなかったのか。…まぁ、男だしな」 納得したようにまた寝ようとすると、 「…男とか女とか俺は関係ありませんよ。」 いつの間に起きたのか、東谷がこちらを見ていた。 「手を出さないという約束です

遊郭で高人さんを見つけました。2 [BL小説#だかいち#二次創作]

夜も更けて、静かな座敷に2人きりだ。 そこで酒を勧められて困惑していた。 おかしい。俺はコイツに、たらふく酒を飲ませたはずだ。他の客以上に飲んでいるはずなのに、えらく涼しい顔をしている。 「東谷さま?…あれだけ飲まれたのにご気分は大丈夫なのですか?」 一応聞いてみるが、本人はきょとんとしていた。 「…言うほどの量は飲んでいませんよ。それよりほら、どうぞ。」 トクトクと注がれた透明な液体は、ゆらゆらと水面にを揺らす。 「では頂きます。」 ぐいっと飲み干すと、芳しい酒の香

遊郭で高人さんを見つけました。1 [BL小説#だかいち#二次創作]

ザワザワと人々が行き交う。 色とりどりの提灯に満開の桜。夜道を煌々と照らす夜見世の明かりに、連れ歩く部下達は皆、まるで楽園のようだと呆けている。 路地には春を売る見世が立ち並び、着飾った女達が格子の内側から華やかに笑いながら手招きをしていた。 そこは港にほど近い都の遊郭地区だった。 俺、東谷准太は、そんな様子を何を感じるでもなくただ眺めて歩く。 行き交う男達は、満更でも無い様子で籠の鳥を眺めては、1人また1人と見世の中へと姿を消して行く。 女を買うとは、どういう気分なのだろ