見出し画像

遊郭で高人さんを見つけました。4

「はぁ…」
准太は商会の自室でため息ばかりついていた。
机に積まれた書類に目を通すも、中々進まない。

昨晩は大変だった。夜霧が隣で寝息をたてているというだけで欲情してしまい、まったく眠れなかった。寝顔があまりにも無防備で可愛らしく、欲を抑える自信が無くて…、彼を起こさないように部屋を出て廊下で夜を過ごしてしまった。見世に来ているのに、だ。
「はぁ…」
ため息しか出てこない。あの人が欲しくて欲しくてたまらない。この欲求は何なのだろうか。

欲求に忠実に、事を急いでしまったのも失敗だった。

たった一回会っただけの男にいきなり身請けを申し込まれても、何かあるのではと怪しまれたり勘繰られるのはさも当然の話だ。
なんて浅はかだったんだろう。
それに、強引に通いを承諾させてしまったのも悔やまれる。

「嫌われたかな…」
何度目か分からないため息を吐いた。

もっと彼に寄り添いたい。こんなやり方では本当の彼を知ることは出来ないだろうから。

今夜も彼に逢いに行っても良いだろうか。
彼は逢ってくれるだろうか。
昨日の今日で気まずく思ってはいないだろうか。
「夜霧さんもきっと逢いたく無いだろうな…」
楼主と一悶着してしまったのだ。当たり前だろう。
でもこのまま、気まずくなっては元も子もない。
地道に挽回していかなければ。
とりあえず、仕事が終わったら見世に行こう。

その日は仕事が遅くなってしまい、先日より遅い時間に見世を訪れた。
「東谷さま、いらっしゃいませ。」
番頭がにこりと笑い記帳を促す。サラサラと名前を書くと、筆を置いた。
「夜霧さんはお手隙ですか?。」
「勿論で御座います。ご案内致しますので、お部屋でお待ちくださいませ」
そう言うと、可愛い着物姿の禿(かむろ)が部屋まで案内してくれた。

寝所に入り、出された酒と肴をつまみつつ、持ってきた本を読んで暇を潰した。

しばらくすると、すっと襖が開く。
「失礼致します。夜霧でございます。」
「夜霧さん、こんばんは」
夜霧は先日のような艶やかな着物姿ではなく、薄い寝巻き用の着物を身に纏っていた。髪も下ろして居る。
「…」
やはりというか、部屋に入った夜霧は前回に比べて口数が少ない。
「緊張してますか?」
顔を覗き込むと、チラッとこちらを見てコクリとうなづく。

可愛い。でも、今日は貴方を食べにきた訳じゃない。貴方との蟠りを解きたいのだ。

「夜霧さん、はいこれ。」
「へ?」
盃を渡すと、夜霧はきょとんとしている。
その盃に酒を注ぎ、自分にも注ぐ。

「今日もお酒付き合ってください。」
「は、はい…あの…床には行かないのですか?」
不安気に見上げてくる。
「俺、貴方のことが知りたいんです。教えてくれませんか?」
にこりと笑う。
この人はどんな顔も可愛らしいが、笑った顔が見たいなと思った。

しばらく2人で色々な事を話た。
甘い物が好きだという話や、廓の子供達がとても可愛いという話。
この人は、ここでの暮らしを悪くは思っていないようだ。身請けの話を断ったのも頷けた。

「…それで、子供達を追いかけて着替えさせるのはとても大変なんです。」
嬉しそうに話す夜霧が可愛くて仕方ない。
「夜霧という名は本名なんですか?」
「いえ、源氏名です。」
だいぶ酔いが回り緊張も解れてきたようで、にこりと俺に笑いかけてくれた。

「本名を聞いても?」

「本名は高人といいます。男なのに花魁の真似事をしているの、変だと思われますか?」
困った様に笑う夜霧に首を横に振る。
「真似だなんて、貴方は立派な花魁ですよ。貴方のお座敷の指揮は見事なものでした。それに、貴方を抱き上げるまで貴方が男だと気付かなかったんです。」
凄い人だなと思いました。と話すと少し照れ臭そうにしていた。

「ねぇ、高人さんて、呼んでも良いですか?」
本当の名前があるならそれで呼びたい。彼の目を見つめる。
「い、いいですが、見世の他の者が居る時は源氏名でお願いしますね。」
少し恥ずかしそうに目を逸らしてしまう。
可愛い。身を乗り出して、彼の耳元で囁くように呼んでやった。
「高人さん…。」
「ひゃぃっ」
いきなり出た言葉に、ハッとして、手で口を塞いでしまった。

「なんで隠すんです?せっかく可愛い声なのに」
ちゅっと耳に口付けをする。
「――――ッ!」
だが、もう鳴いてはくれない。この初々しさが、こういう行為が久々なんだなと教えてくれる。

「高人さん、こっちにきて?」
俺はポンポンと胡座をかく自分の膝を叩く。
すると恐る恐る俺の胸を背に座ってくれる。それを後ろからぎゅっと抱きしめた。
「高人さん、ぬくいですね〜。」
ただ抱きしめるだけ。
「あ、あの…本当に、しない…のです?」
恥ずかしそうに顔を下げてボソリと言った。
「ん?」
「その、だ…抱かないの…ですか…?」
顔赤くして、少し怯えたように聞いてくる。

久しぶりだから怖いのかな。
「高人さんは、こういった行為は久しぶりなんですか?」
と聞くと、コクリと頷く。
「どのくらいご無沙汰なんです?」
「2年くらい…」
2年か…
「1人でやったりは?」
「た、たまに…」
性欲が無いとか、気持ちいい事が嫌いな訳ではなさそうだ。
それなら…。
「じゃあ、このまま、1人でやってみますか?慣らしという事で。お手伝いします。」
高人さんの着物の帯を軽く引っ張るとしゅるりと解け着物がは抱ける。
「…へ?」
「大丈夫ですよ。俺は見えてませんし」
高人さんの下腹部から下を優しく触れると自身が固くなっている事が分かる。そこに触れた瞬間ビクリと身体が強張る。
…これ以上はダメかな。すっと手を離す。
「嬉しいな。俺の事意識してくれる?」
こんな甘い優しい声も出せるんだなと自分でも驚く。
「…っ」
恥ずかしいのか押し黙ってしまった。
「手をかして?。」
高人さんの手を取り高人さん自身を握らせると、上から自分の手で包み軽く擦らせる。
「ぁっ…んっ」
その声にドクンと心臓が高鳴る。身体が熱く、俺の中で欲望が渦巻く。理性を保つのはこんなに難しい事だっただろうか。

「そう、ゆっくり擦りましょうか…」
高人さんの手越しに彼自身を上下に刺激してやる。
余った手は滑らかな身体をまさぐる。
「高人さんの身体、触ると気持ちいいですね。」
首筋に顔をうずめて、ちゅっちゅっと口付けを落とす。ちゅうっと首筋を吸うたびにビクリと身体が跳ねる。

「はぁ…ぁっ…っぁっん」
顔見たいなぁ…。そう思い、頬に手を当てこちらを向かせると、ちゅっちゅと唇に口付けた。赤く濡れた舌が喘ぎ声と共に見え隠れしている。
気付けば俺自身の呼吸も乱れてきていた。
「…はっ…」
堪らなくなって、熟れた唇に喰らいつき舌を差し込み高人さんの舌を絡め取り翻弄する。
「はっんっ…ふっはふ」
高人さんは気持ちよさそうに口を開いて口付けを強請ってくる。
気付けば高人さん自身からは蜜が溢れてて高人さんの手も、俺の手も濡れていた。ぐちゅぐちゅと音をさせて手を動かしてやる。
「はっ…気持ちいい…ッ?」
「…きもち…ぃ」
その素直な言葉に、可愛いその人のほほに張り付いた髪を梳いてやりながら、無心に唇を貪った。

口付けをしながら、胸の突起を弄ってやるとビクリと身体が跳ねた。
「はっはっ…ん゛…っ」
「ここ、好き?」
爪の先で突起をくすぐってやる。唇を離し、快感を昇る高人さんを見つめる。
「可愛い…高人さん。」
「んっ…もう…ッ」
イキそうな顔は涙ぐんでいて。
「大丈夫だから、泣かないで気持ちよくなってください」
涙を舐めとり、胸を強めに弄り、自身を握る手を強く上下してやると、ビクビクビクッと身体を跳ねさせた。
「――――――ッ!」
自身から白濁を吐き出した後、クタリと俺に身を委ねてくる。
「気持ちよかったですか?」
高人さんの頬を撫で、口付けを落とした。

「はぁっ…はっ…お前は…?」
「ん?」
ちゅっちゅと顔中に口付けていると、高人さんが見つめてくる。
「…その、しなくて、いいのか?」
高人さんは少し視線を外すと恥ずかしそうに言う。
「ふふっ」
「な、なんだよ…」

「高人さん俺、敬語の高人さんよりそっちの方が好きだな。」
あ、というように、慌てて口元を隠すが、もう遅い。
だめですか?とお願いするような視線を送ると、恥ずかしそうに顔を背けた。

「見世の奴らが居る時はできないからな。お前と2人きりの時なら…いい。」

ああ本当に可愛い。どうしよう。全部欲しい。
「ありがとうございます。」
ぎゅっと抱きしめて温もりを堪能した。
「おい、お前は…?しないのか?」
「今日は、名前と言葉遣いを許してもらえましたから」
高人さんの欲望で濡れた自分の手を見せびらかしながらペロリと舐める。
「高人さんの味。ご馳走様です♡」
いたずらっぽく笑ってると、真っ赤になって、肌けた着物を直していた。
「手拭けよ。汚いだろ?」
濡れたタオルで手を拭いてくれる。
「ありがとうございます♪高人さん――!」
ぎゅっと勢いよく抱きしめる。
「うわっ!いてーよばか!」
「その軽口素敵ですー♡」

今日はこれで。貴方の名前と、飾らない貴方を貰えたから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?