高人さんが猫になる話。5
春先の夜の肌寒さを感じながら、東谷は人通りの少ない裏の路地を歩いていた。華やかな表の道に比べて狭く閑散とした道のさらに隙間や物陰をちらりちらりと覗きこみながら進んでいく。
「居ないな…。くろねこさ〜ん…」
小さな声で呼びかけながら探してまわる。
昼間の場所も見てみたが、そこに黒猫は居なかった。外を歩く事に慣れていない様子だったので、遠くには行かないかと思ったのだが。どうやらこの場所はハズレだったらしい。私有地内に入られていたら探しようがないのだけど…。もう少しだけ探そう。