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高人さんが猫になる話。3

私物だけ?…ザワザワとする気持ちを必死に抑える。

東谷は目的地につくと、路地裏の暗がりを見まわした。少し奥に入った所でうつ伏せに倒れたような形で服が落ちている。

「これは…」
高人さんの物だ。
佐々木に連絡をすると、警察と共に行くから現場を保持して欲しいとの事だった。

フードを被り、簡単に変装をして壁にもたれかかると、ミントタブレットをザラリと口に流し込む。

ガリガリと噛み砕き飲み込むと途端に口寂しくなり、またザラザラと口に流し込む。

「高人さん…どこですか…」
顔を覆い息を吐くように小さく呟く。早く抱きしめたい。最悪の事態が脳裏に過ぎっては頭を振って考えないようにした。

「ニャァ、ニャオン、にゃぁん」

「…?」
猫の声。
路地の奥の方から聞こえる。助けてといった声だ。
現場を避け、奥へと進んでいく。

そこには、塀によじ登ったはいいが降りれなくなった黒猫が一匹。
下に降りようと試みるも怖くて降りれないといった風で、降りようと身構えては決心が固まらず、右往左往している。

「にゃぁおん。にゃぁん」

泣きそうな声にクスリと笑ってしまう。
「自分で登っただろうに、降りられないの?」
声をかけるとピタリと鳴き止み、耳を弾くようにこちらに向けて、じっと見つめてきた。綺麗な海のような澄んだ青がこちらを見ている。

あぁ。俺は重症だな。高人さんみたいだ。
ふっと愛しい人を想う。
「危ないから、こっちにおいで」

差し出された手を、不思議そうに見つめてくる。
すぐに触ると逃げるかもしれない。落ちて怪我をしては大変だ。触れるか触れないかのところで手を止めて、猫の動きを待つ。フンフンと匂いを嗅ぐとピクっとしてゆっくりとその手に足を乗せて、腕の中に飛び込んできた。

「グゥルニャァ…にゃぁ、ナァ」
腕の中で何やら喋っているようだ。頭をひと撫でした。困ったな。本当にあの人みたいだ。
「自分で降りられない場所に登ったらダメだよ」
ゆっくり降ろしてやると、じっとこちらを見ている。

そうしてるうちに、佐々木さんと警察がやってきた。
「東谷くん!!」

ハッとし、佐々木さんの姿を探した。
「佐々木さん、ここです!」
猫から視線を外し、佐々木の元へと行こうとする。ふと足元を見たがそこにはもう、可愛らしいあの人に似た瞳をした黒猫の姿は無かった。

そこからは、警察署へと行き、事情を聞かれる事となった。東谷、佐々木が警察へと赴き経緯を話した。

後にこの事は世間には公表せず、関係者には緘口令が布かれた。西條高人は体調不良により療養中という事で捜査は始まったのだった。

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