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高人さんが猫になる話。2 [BL小説#だかいち#二次創作]


西條高人はゆっくりと目を覚ます。肌寒いような、風が肌を刺す。春も間近だがまだ肌寒いな。ムクリと身体を起こす。硬い地面、家じゃない?

あれ…ここはどこだ…。
視界がやけに広い…見えにくいな…。なんだ…。

目の前には舞台のセットかのような、何もかもが大きな世界。膝丈までありそうなジュースの缶?巨大な石の壁…大きな音…鼻をつく様々な不愉快な臭い。

なんだこれ…。うるさい。変な臭い。
何があったんだっけ…?共演者とスタッフと飲みに行って、それから…あれ…?

たしか、頭痛?すごく頭が痛かったんだ…。
その後の記憶がない。

ふと、手を見ると、毛むくじゃらの獣の…前足?

「に゛ゃっ⁈」
慌てて口元を押さえる。に゛ゃ?ってなんだ…
「ニャァー(あー)」
喋れない⁈なんで⁈

そういえば、なんか身体小さい…のか?周りが大きいわけじゃなくて…?

どこかに、姿が見れる場所…。

歩く…のも無意識に獣のそれになっている。早朝なのか、道ゆく人は少ないがその巨大さにビクリとした。
大丈夫。大丈夫だ。こっちは見てない。
恐る恐る明るい場所を目指した。
恐怖と緊張で心臓が口から飛び出そうだ。自分はいったい何??

表通りにはビル群。ガラス張りのショーウィンドウが華々しく立ち並ぶ。
ガラスの前に行き、映る自分の姿を見た。

え…。

猫だ。真っ黒の尻尾をゆらゆらさせた猫。ガラスに前足をつけて、まじまじと自分の姿を見つめる。目の色は深い海のように青い。漆黒の艶やかな毛並み。
…意外と美人だな…と考えてしまう。試しに口を開いてみる。
「ァにゃぁ…ナァ…(あいう…え…)」
やっぱり猫だ。人の言葉は発音できない。これからどうすれば…。こんなんじゃ助けも呼べない。。…なんで猫?夢?夢にしては足に感じる石畳の感じや、音や匂いが鮮明すぎた。
オロオロと、ガラス張りの前をくるくるしガラスに手をついては、ニャァ、ナァ。と鳴いていると人が近づいてきた。

「やだ可愛い黒猫!どこかの飼い猫?綺麗ねあなた!ご主人様はいるの?」
ゆっくり近づいてきて座り込んでこちらを覗ってくるのは若い女性だった。俺、やっぱり猫なんだ。耳が下がり背を低くして一歩下がる。

「撫でてもいいかな?」
ゆっくりと手を伸ばしてくる女性にビクリとし、反射的に逃げ出した。

「あ…行っちゃった…」
若い女性は残念そうに立ち上がるとまた歩いて行ってしまう。      

離れた場所からその姿を見送った。

猫なら、きっと足も速いし、機敏に動けるはずだ。跳躍力やバランス感覚も良いだろう。このまま、倒れていた場所に戻ってみよう。何かわかるかも知れない。

思考だけは、人の時と変わらない。人の言葉も分かる。大丈夫。なんとかなる。

必死に自分に言い聞かせる。

「ハッハッ…」
猫っていつも涼やかな顔してるはずなのに、異常なほどに喉が渇く…恐怖と緊張のせいか?手のひらが暑い…。

戻ってみてハッとした。最初の場所は路地裏の奥で、自分の服が倒れたであろう形のまま置き去りになっていた。鞄やケータイもある。

とりあえず、盗難だけは困る。鞄を咥えてズルズル影へ隠そうとする。
…人の持ち物ってこんな重いのか…ッ!

「この辺じゃねーか?」
「ここで間違いねーな。おい、ここらしらみ潰しで探せ!」
ザワザワとあたりに人の気配が広がる。
咄嗟に鞄から離れてゴミ箱の隅に隠れて身を潜めた。なにやら柄の悪い男達だ。見つかって蹴られでもしたら命に関わる。

「ん、これ、写真のやつと同じじゃねーか?」
男の1人が脱ぎ捨てられた服と、自らのケータイを見比べている。

「これが、その服だとして中身はどこ行っちまったんだ。」

「とりあえず連絡するぞ。」

男がどこかに電話をかけている姿を隠れてじっと見つめる。それは、見た事のある顔だった。たしか牛頭原の人だ。
でもなんでここに…。
「おー、こんなとこに猫がいんぞ。なんだお前、珍しい目の色してるなァ。」

「に゛ゃっ⁈フッー!!」
別の男に急に触られて飛び上がる。そのまま路地裏の奥へと駆け出していった。


そんな様子を見ながら牛頭原のスギハラは舌打ちをする。電話のコールは無機質になり続ける。

「おい!ケン!野良猫なんかほっとけ……ったく。ぁ、東谷さんすか、坊から聞いてます。えぇ、今から住所言うんで来てください。本人は居ませんが私物らしい物は見つけやした。」

スギハラは淡々と現在地を伝えて通話を切った。「坊から言われてるのはここまでだな」

「あれ、帰るのか?」
ケンがヒョコっと覗きこむ。

「こっからはサツが動くだろ。」
めんどくさそうに手を振りながら連れてきた数人を引き連れて男達はその場を後にした。


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