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【僕はコロたん その3】

【僕はコロたん その3】

バリケンに入れられた僕は
知らない家に運ばれて
バリケンに入ったまま
一日を過ごすことになった。

どうやら、朝と夕方は外に連れ出して
トイレに連れていってくれるらしい。

そしてその後にご飯も貰える。

何日かたったある朝
バリケンの外に出された僕は
背中に薬をつけられた。

夕方もまた薬をつけられた。

そしてそれからまた何日かたったある夜
シャンプーというらしいけれど
体を洗ってもらった。

怖かったから体を固くしてたけど
体がどんどん暖かくなって
草の実や泥やホコリがどんどん
綺麗になっていって
気持ちが良くなってきた。

首に巻いた首輪も取って洗ってもらった。

ドライヤーという暖かい風が出るもので
体も乾かしてもらった。

綺麗になるって
こんなに気持ちがいいんだって
初めて知ったんだ。

シャンプーしてもらったその夜からは
バリケンではなく
新しい部屋が用意されていて
その床にはふわふわの
暖かくて柔らかい敷物がしいてあった。

暖かくて柔らかくて
少しゆっくり眠れた夜だった。

青いバンダナもつけてもらった。

僕はずっとこう思ってた。

僕の命は誰も守ってくれないから
自分で守る。

ほかの誰かが僕の命を守る。

そんなことがあるなんてあるはずもないし
考えたこともない。

自分だけで生きてきた僕は、
人間に守ってもらうとか
人間と仲良く暮らすなんてことは
その頃全く知らなかったし

人間なんて
僕の気持ちを理解出来るはずがない。

なんなら近寄らないで欲しい。

特に子供は最悪だ。

だから人間の気持ちもわかりたくなしい
聞きたくもない。

ずっとそう思って生きてきたから
どこへ行ってもいつになっても
人間なんて拒否してきた。

新しい僕の部屋は外がよく見えたけれど
あまり僕が怖がるので
毛布がかけられた。

これで外が見えないから
僕はとても安心した。


シェルターでも、
柵の向こうから覗き込む人の目が
耐えられなかった。

僕は見世物ではない。

ここに来てからは
毎日、朝と夕方お散歩といって、
お庭から出て
少しづつ遠くへ行くようになった。

遠くに出れば出るほど

走ってくる車
駐車場に止まった車
人間の足音
干してある洗濯物

風で揺れたらもっと怖くて
何もかもが怖くて怖くて
首が取れそうになるくらい
あちこち見なきゃいけなくて。

シャンプーしてくれた
世話をしてくれるおばさんは、
暴れる僕に知らん顔して
ひたすら歩いていくから
僕はいつも引きずられてた。

僕が僕の思うように走ったり
逃げたくて暴れるとおばさんはこう言った。

『あんたに今までなにがあったのか私は知らない。
でも、あんたは人間と寄り添いながら生きなければならないのよ。
いやや、いややって言ってては誰も可愛がってはくれない。
人間はあんたを悪いようにはしない。
あんたを守ってくれる。
それをこれから覚えるんや。』

僕は絶対に
こんな人の言うことなんて聞くもんか!
そう思った。

とたん!

『こんなおばさんの言うことなんか聞けるか!
って思ったやろ?
そう思うのは勝手や。
でもあんたみたいな子供に何が出来る?
自分だけでは生きていけん。
人間の手がどれだけ暖かく
人間が用意してくれるものは
どれだけ安心できるか
それを知ることになるんや。』

そのおばさんはそう言って
僕を引き摺って家まで戻った。

僕が暴れる度に
このおばさんは同じ言葉を繰り返した。

~続く~

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