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YESで受け取ることで建設的に課題を深めあう

だいぶ前のことですが、業務改善プロジェクトのお仕事をしていた時のことです。改善の方向性について社員に集まってもらい発表をしました。発表は、経営企画部門の担当者からです。

発表し終わると、質問の手が上がりました。
「発表してもらったことは至極ごもっともだけど、結局ビジョンが明確になっているように思えない。それじゃあ、俺たち一枚岩になれないじゃない」
そんな内容でした。

質問をした方は、営業部門のエースです。彼は、会社の方針にいつも疑問を投げかけていました。もっと正確にいうと噛みついていました。

「いや、ビジョンについては、先ほど発表したとおり…」
発表した担当者は、説明を繰り返します。でも二人の距離は平行線で終わりました。

リアクションがいつもNOの組織

同社はデータ解析をする会社です。あるニッチな領域でのデータハンドリングでトップシェアを持っています。顧客の要望を受けて解析のための作業を黙々とこなす仕事が多いです。

データというと機械化・自動化されているイメージがあると思いますが、同社の扱っている物は人の手による作業ではないと進められないところに特徴があります。いわば、データ加工工場です。

その「工場」ではお客さまの課題もよく分からないまま、黙々と作業が進められます。時に、ある程度作業が進んだところで仕様変更が入ることがあります。これはとてもしんどい。結果、社内のあちこちからこんな声が聞こえてきます。

「いや、それはできません、無理です」

当然といえば当然です。
ただ、このことによって部門間、個人間に壁ができています。どんどん内向きになっていきます。自分の目の前の仕事さえこなせばよい、というわけです。「なんで客の仕様変更なんて受けてくるんだ」という言葉も飛び交います。

こうした状況を改善するために、業務改善プロジェクトが立ち上がりました。業務フローを再整備し、業務の標準化を進め、仕様変更に対応するためのルール作りなどを行っていきました。

メッセージを前向きに捉えられない不幸

実は、これまでも同じようなプロジェクトはありました。しかし、毎度、画にかいた餅で終わります。決めたことが次第に形骸化していくのです。

このためプロジェクトが立ち上がった当初から「またそんなのやるのか」という意見が出ていました。冒頭の質問をした方がその筆頭です。彼の手が上がった瞬間、経営企画の担当者は身構えてしまいました。

そして、彼の質問に反論するような形となりました。

実は、私はそのことがショックでした。質問が前向きなものに聞こえたからです。噛みついていたばかりの彼が、「俺たち」という主語で話をしました。「今度こそ、俺たち変えていこうぜ」というメッセージに聞こえたのです。

業務改善のプロジェクトでは、何回か全社員でのセッションを行っていました。会社の問題点を率直に話し合い、解決するための対話を繰り返します。互いが少しずつ相手の言いたいことを理解し、自分ごととして改善に取り組んでいきたい、そんな意見も少しずつ出ていたのです。

質問した方も、セッションを通じて色々な意見に触れ、前向きになっていきました。結果として、もっと良くしたいという思いを持ち、「俺」ではなく「俺たち」という主語を選ぶことができたのではないかと思います。

自分の思いは相手を否定することになりうる

「質問に『No』で受けてしまいましたね」
発表の場を振返りながら、経営企画の担当者にそんな言葉を伝えました。

このプロジェクトは経営企画主導のものです。事務局が、最終的に見出したキーメッセージは「Yesで受け取ろう」というものでした。いくら業務フローを整備しても、「いや、それは無理です」となったら前に進みません。

このことは、プロジェクトのセッションでの意見がヒントになっています。社内で発せられる「いや」「無理です」「意味あるんですか」という言葉が雰囲気を悪くしている、という意見がありました。

実際、無理なこともあるのでしょう。その「無理」を個人が判断するのではなく、組織の判断にする必要があります。そこで、業務フローや標準化、ルール作りが必要なわけです。

しかし、そうした目的は明確に伝わらず、ルールだけがただ現場に与えられる構造になっています。だから「いや、無理です」と反応してしまいます。

こういう状況はよくあります。経営者によっては、「何をおかしなことを言ってるんだ」と社員に対して憤る方もいます。それも、もっともな話です。

ただ、人それぞれ考えがあって動いています。それを無理やり変えられるのは、それがどんな内容であっても反発してしまうものです。

私たちは、変わるのが嫌なのではありません。変えられるのが嫌なのです。

人はみな、好き好んで後ろ向きになるわけではない

建設的な議論をするために「Yes」で受け取るというものがあります。相手を尊重するお作法のようなものです。しかし、その本質は、私もあなたもどちらも正しい、という前提に立つということです。

意志を持って変えよう、変えていこうと思うほど、「いや、私が言いたいのは」という発言になりがちです。これは、意図はなくても相手を否定していることになります。

私たちは知らず知らずに、NOで受け取る関係性になってしまいます。会社を変えて行きたい、変革を進めたい人は、ぜひご自身の組織がどのような受け答えをしているのか、見直してみてください。

「抵抗勢力」は、変革を推し進めようとしている側の勝手なレッテルにすぎません。

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