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葛藤をうまく使う組織③ ~そもそもに立ち返る場面をつくる

「葛藤」を「うまく使う」ということを考えてきています。今回で3回目です。過去2回もよろしければお読みください。

前回、前々回のnoteでは、自分自身の理想があるから「葛藤」が起こることを書きました。また、その一方で、「葛藤」を無意識に避ける、または解消するタテマエをでっちあげてしまうことも指摘しました。結果として、わたし達は、自分の理想とする姿と向き合う機会を「知らないうちに」逃してしまいます。

そうならないためには、経営者やリーダーが目標やあるべき姿を示すことが大切です。その上で、実行したことを振返る機会を持つことで、自ら変わる力を耕すことができます。それがPDCAを回すことの本質的な意義です。

創発

成功体験があだになるという「葛藤」

ここで、さらにもう一つ違った意味での「葛藤」が起こります。PDCAを回すと成果がでます。ところが、結果として、その事業だけに頼る状況になることがあります。世の中は、何が起こるか分かりません。自分たちの都合だけで経営をすることはできません。そこで、他にも柱となる事業が必要になってきます。とはいうものの、既存の事業を維持するためのリソースは必要です。それに、まだ「対岸の火事」。すぐに既存の事業がダメになるわけでもありません。経営者の立場からすると、早めに手を打たないと怖い。だけど、社員は笛吹けど踊らず…。良くも悪くも成功体験に囚われる。そんな葛藤がでてきます。下図のような「事業停滞のサイクル」に陥っていくのです。

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この状況は、ひと言でいうと手段の目的化です。
では、企業の目的は何でしょうか。「わたし達の会社はお客様に喜んでいただくために存在します」とよく企業のホームページに書かれています。ここで言っているお客様は、時として「お得意様」に限定されてしまっていることがあります。必要なのは顧客の「創造」です。ところがそれが、気がつくとできなくなっていく。企業の目的は「顧客の創造である」としたドラッカーは、次のように言っています。

組織は、存在することが目的ではない。種の永続が成功ではない。その点が動物とは違う。組織は社会の機関である。外の環境に対する貢献が目的である。しかるに、組織は成長するほど、特に成功するほど、組織に働く者の関心、努力、能力は、組織の中のことで占領され、外の世界における本来の任務と成果が忘れられていく
出典:『プロフェッショナルの条件』P・F. ドラッカー

組織には、成長し、成功するほどに内向きになっていくジレンマがあります。こうした問題に目を向けられるかどうか、何とかしたいと「葛藤」できるかどうか。うまく「葛藤」を使って未来を考えていくためにはどうしたら良いでしょうか。

「そもそも」に立ち返ることができていますか

このような時、わたしが意識するのは、「そもそも」に立ち返ることです。例えば、B2Bで商品を展開している企業が、その販路をB2Cで展開しようとするとします。そうなると、自社商品を卸しているお得意様先とバッティングするようなことがあります。特に歴史のある企業だとお得意様や業界の「しがらみ」の様なものが出てきます。これも「葛藤」ですね。だからといって「仕方がない」とか「難しい」で止まってしまっては進歩がありません。そもそも、その商品を使っていただき、喜んでいただきたいエンドユーザーがいるわけです。そもそも、そこへ届けるために今の販路があるに過ぎないのです。だから、そもそもの目的に立ち返って、別の手段を考えるべきです。そうやってわたし達は進歩します。あるべき姿から課題を「設定」するのにとどまらず、そもそもに立ち返る「目標志向型」の課題設定を促すのです。

そういう意味では、立ち返る「そもそも」を明確にしておく必要もあります。これが、経営理念や長期ビジョンです。それがあると、「わたし達の会社の経営理念にはこう書いてありますよね」「そもそもうちが目指しているのは、○○市場で一番になるということですよね」「お客様に快適な生活を届けると言っていますが、そもそも『届ける』手段は作れているんでしたっけ」…などなど立ち返るための問いを立てやすくなります。

人は潜在的に互いを賢くしあう能力を持っている

そうしたそもそもに立ち返る際に大切なのが組織が「創発的」であることです。互いが互いの違いを認識しようとし、そこで起こる「葛藤」を素直に受け入れながら、互いが1人では見いだせなかった解を見出していくような状況を「創発的」とわたしは捉えています。

したがって、こういう議論をするときは、利害が異なる出席者を集めるべきです。つまり、役割や立場の「葛藤」を顕在化するのです。既存の事業を進めていくために最適化されている行動や考え方は、日々の当たり前に埋もれてしまっています。このとき、互いが見えていないものは何なのか、どこで対立しているのかを感じ取り、「そもそも」何を目指しているのかという問いを投げかけることで、停滞していることの突破口が見えてきます。

わたしたちは、自分の内側と外側の違いに葛藤します。この葛藤に向きうことで、今までとは違う自分になれるのが、人に根源的に備わっている賢さだと思います。

3回にわたって、「葛藤をうまく使う」組織のあり方を考えてきました。こうした組織能力はすぐに開発されるわけではありません。段階を踏みながら高めていく戦略が必要になります。このあたりについて、また次回考えていきたいと思います。

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