第138話 「上の空」(解説)
女性が語り手のお話です。
元カレに呼び出された彼女は、夢の話を聞かされています。
内容は、殺し屋に狙われる夢。
実際にその夢を見た彼は、ハラハラドキドキしたのでしょうけれど……。
他人の夢の話って現実感がないので、イマイチ面白く感じないものですよね。
半年ぶりの昔の恋人との再会に、もっとドラマチックな展開を期待していた語り手は、呆れて上の空で話を聞いています。
でも待って。
何かおかしいですね……。
お話の後半、殺し屋から逃亡できたのか?と問われた彼は答えています。
「大丈夫。必ず逃げ切れるから」って。
もし夢で経験した内容を答えたのであれば、「大丈夫。逃げ切れたんだ」などと過去形の返答をするはず。
つまり、彼が話しているのは、夢で見た内容ではないということです。
え!? でも、本人が「夢の話だ」って言ってたじゃないか、って?
それは問題になりません。矛盾しない。
だって、『夢』という言葉には2つの意味がありますからね。
『夜、寝ているときに見る夢』と、『将来こうなったらいいなと、胸に抱く夢』がね……。
彼が話していたのは、後者の夢だった、ということです。
大金を盗み、風変わりな殺し屋からの電話を受けたのは、現実での出来事。
急いで逃げようとした彼は、部屋から必要な物をかき集めました。
当然、自分の今後の人生にとって、『必要なもの』について思いを馳せたのでしょう。
彼の脳裏に浮かんだのは、一人の女性のことでした。
彼女との幸せな未来を想像し、それが彼の『夢』になった。
だから彼は、半年ぶりに語り手に連絡を取ったのです。
フフフ、よかったですね。
きっと、これは命懸けの逃避行。
ご希望通りの、
ドラマチックな展開になりそうですから……。
あとがき
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