名刀の一振りよりナタの一撃
「価値観の違いだから、それはどうしようもないよ」
心に染みる言葉だった。
「やっぱりそうですよね」
表情変えずに違和感のない声を置いたけど、胸の前のほうは落ち着かなかった。
自分という存在が大切に抱える軸。その見えない物体は、人の言葉ひとつで揺れ動く。存在から自分を切り離したくなった。
しかし同時に、なんとなく見えた。
揺れ動くしなやかな思考こそが軸なのではないか。
固くてびくともしないと考える軸は脆い。見ないことで、考えないことで積み上げる軸は蛙だ。
対して、しなやかな思考は揺れ動いていい。変わることは変わる。変化は不変だと受け入れて、積み上げればいい。
名刀が能力を発揮するのは竹を斜めに切るときだけだ。横からの力には絶望的に弱い。そして竹を切るのはTV画面にうつるじじいだ。
対してしなやかな思考は、揺れ動いていい。揺れ動くたびにぶち当たって耐久がつく。ナタの一撃はあらゆるものをぶった斬る。誰もが限界を感じるその場で、ナタだけはすべてをぶった斬る。
だから選ばれ続ける。
そんなお話。
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