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『身分帳』 佐木隆三

役所広司さん主演の映画
『すばらしき世界』の原案となった作品『身分帳』(講談社文庫)を読んだ。
実在の人物をモデルにした
ノンフィクションノベルである。
著者の佐木隆三さんは1976年『復讐するは我にあり』で直木賞受賞。
本作で、1991年に伊藤整文学賞を受賞。

映画『すばらしき世界』(西川美和監督、2020年公開)は、『PERFECT DAYS』を観る直前にたまたまAmazonPrimeビデオで無料視聴した。
どちらの作品も役所広司さんの存在感が際立っていて、一匹狼的な役どころだが、まったく正反対のキャラクターである。


この作品の主人公、山川はじめは、社会に適応出来ないアウトロー。
少年院を皮切りに、人生の大半を獄中で過ごした。
前科10犯、延べ23 年の刑務所暮らし。成人してからは2年以上続けて娑婆で暮らしたことがないという。

終戦直後の日本には珍しくもない話かもしれないが、私生児の山川は、福岡の孤児院で育つ。
アメリカ人将校の里子になったり、放浪癖があるため、各地を転々としたり、やがてヤクザ渡世に足を踏み入れる。


山川は昭和61年2月、13年の刑期を満了し、旭川刑務所を出所した。
罪名は殺人。
キャバレーの店長時代、ホステスの引き抜きで揉めて、日本刀を持って家に乗り込んで来た暴力団員から刀を奪い、逆に殺害してしまう。

刑期を終えた山川は身元引受人の弁護士の元で、東京のアパートで一人暮らしを始める。
生活保護を受けながら、浦島太郎の心境で、なんとか社会に馴染もうと躍起になる。
生活保護を受けるのは本意ではないが、高血圧の持病があるので、仕方がない。
仕事を得るために失効した運転免許証を取リ直そうとして空回りしたり、同じアパートのコピーライターの青年や町内会長のスーパー店長らと心を通わせたり、お見合いパーティーに参加して痛い目に遭ったり…

持って生まれた直情径行型の気質は変えようもなく、周囲とのトラブルも絶えない。
昔の悪い仲間を訪ねてふらりと旅に出たり、元妻に会いに行ったり。
なかなか落ち着かない暮らしぶりだ。
自由なはずの娑婆での暮らしは思うに任せぬことばかり。

無骨でどこか憎めない主人公を、いつの間にか応援したい気持ちになっていた。

親に捨てられた不幸な境遇がこのような特異なキャラクターを育んだことは理解できなくもない。
こんな人もいる。
人生いろいろ。

しかしこんな悪人でも、生涯頭から離れないのは母のこと。
郷里の福岡県に戻り、幼い頃、割烹着姿の母と最後に別れた同じ町内のアパートで孤独な最期を迎えるのだった。


身分帳とは、刑務所で収容者の経歴や入所時の態度などを記録したマル秘書類のこと。

(一部Wikipediaを参考にさせていただました。)


映画『すばらしき世界』の
ポスター



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