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伊坂幸太郎『逆ソクラテス』

子どもは非力な存在だ。

だから、親や教師に従わざるを得ない。
それが子どもが生きる道。

子どもは思っている以上に大人で、

子どもの心はとてもデリケートで、

子どもは大人をよく観察している。

子どにも生きづらさがある。

だから子どもにも
「世を忍ぶ仮の姿」というものがある。


早く大人になりたい?

大人になっても辛いことばかりだけどね。


伊坂幸太郎の『逆ソクラテス』を読みました。
(出来るだけネタバレしないように、読んで感じたことを自由に書いています。)


五つの短編が収められています。
主人公は子ども。

子どもはあどけなく無垢な存在で……
子どもはそんなに単純なものではありません。
誰だって昔は子どもだったのだから、わかるはず。

子ども時代を振り返ってみても、大人の顔色を瞬時に読み取って先回りしたり。
こういう風に振る舞えば、好印象を得られるとか。
感情的な大人に振り回されて、理不尽を学んだり。


早く大人になって自由になりたいとこいねがっていた。


表題作の『逆ソクラテス』に引き込まれました。


謎めいて大人っぽい転校生は、大人の先入観、決めつけをことごとくぶっ壊す作戦に出ます。

「今まであちこちの学校に通ったけどさ、どこにでもいるんだよ。『それってダサい』とか、『これは格好悪い』とか、決めつけて偉そうにする奴が」
「そういうものなのかな」
「で、そういう奴らに負けない方法があるんだよ」
 僕はその時はすでにブランコから降り、安斎の前に立っていたのだと思う。ゲームの裏技を教えてもらうような、校長先生の物まねを伝授されるような、そういった思いがあったのかもしれない。
「『僕はそうは思わない』」
「え?」
「この台詞せりふ
「それが裏技?」

単行本p.21

ぐっと引き込まれますよね?

時には、犯罪紛いの手段も辞さない。
周到に準備されたさまざまな作戦が遂行され………。

この作戦に巻き込まれた結果、パッとしない存在だったあの子は華麗な変貌を遂げて……。

そして、首謀者の転校生安斎くんは………?


なるほど、そういうことだったのかという仕掛けもあり、さすが!と手を打ち、胸が熱くなる。


倫社の教科書で学んだソクラテスの「無知の知」。
『逆ソクラテス』の意味にも納得。

他作品も現代的な要素がありながら、普遍的な何かを感じさせてくれる秀作揃いです。

著書のあとがきの一部を引用して、締めくくりたいと思います。

 少年や少女、子供を主人公にする小説を書くのは難しい、と思っていました。今も思っています。子供が語り手になれば、その年齢ゆえに使える言葉や表現が減ってしまいますし、こちらにその気がなくとも子供向けの本だと思われる可能性があります。懐古的な話や教訓話、綺麗事に引き寄せられてしまうのも寂しいですし、かと言って、後味の悪い話にするのもあざとい気がします。
 どうしたら自分だからこそ書ける、少年たちの小説になるのか。自分の中にいる夢想家とリアリスト、そのどちらもがっかりしない物語を、ああだこうだと悩みながら考えた結果、この五つの短編ができあがりました。
 自分の作品の評価は客観的にはできませんが、デビューしてから二十年、この仕事を続けてきた一つの成果のように感じています。

単行本あとがきより

文庫本にもなっています。

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