見出し画像

英語と日本語でみる"パプリカ"

 リズミカルなテンポに乗せて、かわいらしい子供たちの歌声が聴こえてくる。
 昨年は、この子たちの歌声を聴かない日はなかったほどどこに出かけても流れていたし、家でもテレビをつければ聴こえてきた。
 ダンスの授業から運動会や文化祭、はては新忘年会の出し物にいたるまで各方面で受け入れられ、アーティストによるカバーもされ、『歌ってみた』やカラオケでもランキングの上位を飾った。

 大ヒットを記録した”パプリカ”の話だ。

 昨年末には”Foorin team E”による”パプリカ”の英語版PVもYouTube上で公開されるなど、その世界的な人気の高さが話題となった。(執筆時点で314万再生されている)
 また今月20日には”Paprika (world video)”なる新PVも公開された。
 世界27ヶ国の子供たちのダンスは、まだまだこれからも世界中の人たちの心を魅了し続けることだろう。

 この”note”では、そんな”パプリカ”の歌詞の日本語と英語との違いを通して、この曲の意味に迫ってみたい。



英語と日本語—歌詞の「同じ」と「違い」—

 それでは”パプリカ”の歌詞から、実際に日本語と英語の言葉としての違いを見てみよう。

(1)曲がりくねり はしゃいだ道 青葉の森で駆け回る
 子どもたちが一日遊びまわった大自然……そんなイメージがわいてくる。
 きっと子どもたちは大きな笑い声をあげながら、その一日を汗と泥にまみれながら満喫したのだろう、そんな感情がひしひしと伝わってくる。
 一方、英語歌詞ではどうだろうか。

Twisting and turning, down this road we go
Running to the forest where we can play all day

僕らは一日中遊んだ森のくねくねした道を駆けていく

 おおよそ日本語歌詞に沿った英語歌詞といえるだろう。
 ただ感覚として、”青葉の森”や”はしゃいだ道”という日本語表現に比べて、私たちが受け取ることができる情報やイメージの量は英語歌詞のほうが少ない気がする。

(2)夏が来る 影が立つ あなたに会いたい 見つけたのは一番星 明日も晴れるかな
 
これも英語歌詞と比較してみよう。

And when summer comes, see our shadows grow
Always know I will miss you so
Come on, look up, find the first star in the sky
I hope tomorrow will be sunny, too

夏が来ると僕らの影は大きくなる
きっと寂しくなるね
ねぇ来て、一番星を見つけようよ
明日も晴れるといいな

 すごい、と思った。
 ”夏が来る 影が立つ”をこう表現するのか、と。
 英語の歌詞翻訳者の方々のすごさを実感する。
 日本語歌詞の”あなたに会いたい”の「あなた」とはいったい誰なのだろう、という謎は英語歌詞でも謎のまま。

(3)パプリカ 花が咲いたら 晴れた空に種をまこう
 ハレルヤ 夢を描いたなら 心遊ばせあなたに届け

 一説ではこの曲は「自分が、過去または未来の自分に対して呼び掛けている曲」だと言われている。
 とくにオリンピックにあわせ、「頑張っている人を応援する」楽曲としてこの曲をみた時に、”種”は自分の将来の夢であって、それが描けたなら未来の自分にまでその夢がちゃんと届いてほしいと願う歌詞にも思える。

Paprika, when our flowers start to bloom
Put the seeds into your hands and throw them in the sky
Paprika, we can make our dreams come alive
Rain or shine, we’ll find a way to play again another day

パプリカ 僕らの花が咲き始めたら
僕らの手の中にある”種”を空にまこう
パプリカ 僕らは夢を強くすることができる(=実現できる)
僕らはまた遊べるんだ

 英語歌詞をみると、がぜん”種”=”夢”という印象が強くなる。
 ちなみに”come alive”は「活発になる」「おもしろくなる」という意味を持つ熟語だ。(今回は「実現できる」とも訳出した)
 おもしろいのは、日本語で”ハレルヤ”となっている繰り返しの部分が英語歌詞では”Paprika”に変更されている点だろう。

(4)雨に燻り 月は陰り 木陰で泣いていたのは誰
 一人一人慰めるように 誰かが呼んでいる

 ”雨に燻り(くゆり)”とは、どういう意味なのだろうか。
 手近にある辞書によれば”燻る”という語には「煙がゆるやかに立ち上る」という意味があるようだ。
 そしてもうひとつの意味として「思い悩む」という意味もある。
 ”木陰で泣いていた”という表現とリンクさせて考えると、また”慰める”という言葉から考えても、この場合の”燻る”は「思い悩む」という意味なのではないだろうか。

It’s raining and pouring, the moon’s hiding away
I think I can hear someone crying in the shade
Don’t worry I promise, there’s no need to be afraid
Someone’s always calling out your name

雨が降り出して、月も隠れてしまった
陰の中で誰かが泣いている声が聞こえる
心配しないで、約束する 「怖がらなくていいって」
誰かがずっと君の名前を呼んでるよ

 英語歌詞では”燻る”については表現されていない。
 ただ単に雨が降っていることを意味するのみである。
 また”一人一人 慰めるように”という部分も、英語歌詞ではより直接的に「心配しないで」とか「怖がらなくていい」と表現されている。
 ”あなた=自分”という理解が正しいとすると木陰で泣いていたのは「いつかの自分」か、はたまたほかの誰かなのか。
 泣いていたのが「未来の自分」だとするなら、「怖がらなくていい」と慰めるのは「いつの自分」なのか。

(5)喜びを数えたら あなたでいっぱい
 帰り道を照らしたのは 思い出のかげぼうし

 ”かげぼうし”とは「影法師」と書き、”ぼんやりと浮かび上がる人影”を意味する。
 英語歌詞ではどうなっているか。

Come and count with me all the happy things
So much joy you always bring
Now it’s time to go, I’ll see you tomorrow
Memories will light the way back home

僕と幸せを全部数えよう
君はいつも”喜び”をたくさんくれたね
さあ時間だ また明日
帰り道は思い出が照らしてくれるさ 

 ”あなた”が幸せ(喜び)をたくさん持ってきた、といっている。
 また英語歌詞では”かげぼうし”ではなく、単に”思い出が照らす”としている。
 ”思い出のかげぼうしが帰り道を照らす”という日本語のこの表現はほんとうに美しい表現だと思う。

(6)会いに行くよ 並木を抜けて 歌を歌って
 手にはいっぱいの花をかかえて らるらりら

 ここはすぐに英語歌詞を引く。

I will run to you
Through the forest where we played
Singing songs we made
And I will fill both hands with flowers along the way
La-di la-di-da

僕は君に走っていく
僕らが遊んだ森を抜けて
僕らが作った歌を歌いながら
両手いっぱいの花をもって
ラディラディダ

 まず主語と目的語を明確にする英語の性質から、「僕」が「あなた」に会いに行くと言っていることがわかる。
 この点、日本語歌詞ではぼかされていた。
 しかも、これも日本語歌詞では示されていないが、「かつて遊んだ森で、かつて一緒に作った歌を歌いながら」、あなたに会いに行くというのだ。
 それも両手に花をかかえて。
 そしておもしろいのは、日本語歌詞では「らるらりら」の部分も、発音の問題からか「ラディラディダ」という音に変わっている点だ。
 海外の子供でも歌いやすいよう工夫されたと思われる。

(7)かかと弾ませ この指とまれ
 ”かかとを弾ませる”という躍動感のあるイメージ。
 そして”この指とまれ”という純日本的な童謡のような歌詞。
 英語では以下のようになっている。

Let’s all come together now, point our fingers to the sky

さあみんな集まって、指を空に向けよう

 なんとか日本語歌詞に近づけようとする努力が感じられる。
 指先を空に向けることが何を象徴しているのか、それともこれはあくまでもただの子供たちの遊びで、「いろいろあったけどまた今日も会えたね、今日も遊べるね」という純粋でシンプルな子供心を歌った歌詞なのだろうか。

 歌詞の考察は、実際やりだせばきりがない。
 でも、これだけのヒットとなった名曲。
 私には、日英どちらの歌詞にもなにか深い意図があると思えて仕方ない。

 英語歌詞にのみ示されている「僕」とは誰なのか?
 日本語歌詞にもでてくる「あなた」とは何者なのか?
 なぜ泣いていたのか?
 なぜ会いに行かなければならなかったのか?

 今回は英語歌詞と日本語歌詞を比較することで、”パプリカ”の歌詞に表現された意味を考えてきた。
 この”note”がすこしだけでも、ほんのちょっとでも”パプリカ”という曲に親しむきっかけとなればうれしい。

 ※引用はすべてパプリカの歌詞より
  英語歌詞の拙い日本語訳は、専門外ながら執筆者が行った


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?