人生は唐突に崩壊する

私は長くテレビの音響エンジニアをしていた。

新人の頃から時代を先駆けてしまう傾向が強く
いわゆる「凡人」でしかない
数々の上司には理解されなかった。

10年以上も先の作業スタイルが
正確に読めていた。

固定の黒電話しか知らない人たちに
iPhone の素晴らしさを説くようなもので
私は「変人」として扱われてきた。

しかし、
展開を読み違えたことは一度もなかった。

群れを作ることを好まず
我が道を突き進む一匹狼は
ずっと自分の居場所を探し続けていた。

技術も知識も貪欲に吸収し、
枠に囚われない創造性には自信があった。

だから
常に理想的な環境を求め彷徨した。

数千万円の機材を減価償却していたら
次の世代の機材が買えない。

会社に残れば出世の可能性だけは残るが、
最先端のシステムには乗っかれない。

私は積極的に職を転々とした。

しかし、
一度もギャラが下がったことはなかった。

俺は間違っていない。

そう信じていた。

そして、
地上波のテレビの仕事の窮屈さが嫌になって
外資系のCS放送のテレビ局に移った。

そこでは
独自のシステムのスタジオを新設する好機を得た。

フリーランスのエンジニアを大胆に活用した
スタジオ運営は、
ローコストでハイペースな番組づくりを実現した。

それでも満足せず
会社の新規事業に興味を持ち
手を挙げて新会社に移籍した。

ここでも
既存のテレビ局には真似できない
効率の良い業務スタイルを軌道に乗せた。

ところが
外国人の経営陣が一新され
アッと驚く急な方針転換が行われた。

あっさりとクビを斬られた。

会社都合の退職。

不本意ではあるが
この時は
どうにか立て直せると高を括っていた。

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