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「準備不足」という言い訳

スピーチコンテスト当日。司会者が私の名前を呼ぶ。テーマが発表される。再度名前が呼ばれ、拍手の中、私は舞台に上がる。

自信満々、余裕綽々を装って舞台中央に立つ。数百人が入る大きなホールに満員の聴衆。拍手が止む。全員の視線が私に注がれる。深呼吸。「さぁ!」と心の中で自分を鼓舞する。

「。。。」あれ?なんだっけ?最初の1文。
「・・・」えっと、ほら、あれやんか。
「!!!」あかん、出てこない!

あわててスーツのポケットに入れていたメモを出して広げる。真っ白。何も書かれていない。頭の中も真っ白になる。

「うそ〜!何も準備できてない!!これからスピーチせなあかんのに!!!」


というような夢を、たまに、見ます。(苦笑)

いや、夢、のこともありますが、私の日常の風景でもあります。

「準備スピーチ」が準備できない

人前で話す練習をする国際教育NPO「トーストマスターズクラブ」に参加して20余年。例会では、1. その場で与えられたテーマを即興で話す練習、2. 準備したスピーチを発表する練習、3. 準備スピーチに対してのフィードバック の3つを行います。1と3については準備が要らないので良いのですが、長くやっていても2の「準備スピーチ」の「準備」が苦手です。

1997年、留学先のニュージーランドではじめてトーストマスターズの例会に参加しました。当時の私の英語力は、海外での日常生活がなんとかなる程度。5〜7分のスピーチを人前で発表することは、私にはかなり高いハードルでした。

それでも何とか原稿を準備し、何度もなんども練習し、「Ice Breaker」とよばれるはじめてのスピーチを発表しました。スピーチを終えるとメンバーから大きな拍手をいただき、毎回選ばれる「ベストスピーカー」にも選んでもらいました。

気を良くしてすぐさま2つ目のスピーチの希望を出し、予定に組み込まれました。が、はじめのスピーチは自己紹介だったのに対し、次のスピーチはお題は自由。何を話せば良いのか分からなくなり、トピック選びもできないまま、まさに「白紙」の状態で、あっという間に発表の日が。

当時はスマホや携帯電話などなく、例会当日会場に行って直接会うのがコミュニケーションを取る唯一の手段でした。会場で「やぁ!今日のスピーチ、楽しみにしてるよ!」と話しかけられた私は、「ごめんなさい、準備できませんでした。」と言うのが精一杯でした。

その日のスピーチはキャンセルになりました。その時感じた気まずさ。忘れられません。

が、気まずさは忘れられないのに、準備の重要性はすぐ忘れてしまう都合の良い性格。いまだに毎回準備不足のまま、発表の日を迎えます。

「準備不足」で・・・

「準備不足で出来ません。申し訳ありませんがお断りします。」
「お申し出はありがたいのですが、お引き受けするにはまだ早いと思います。」
「いやいや、私なんて、準備も経験も不足しているので、対応できないと思います。」

スピーチだけではありません。人生の様々な場面で、自分の準備や経験不足のために、機会を逃したり、挑戦することに後ろ向きになることが数多くありました。

自分が準備が苦手なのを自覚しているだけに、「周りに迷惑をかけるのではないか」「他のできる人に譲った方が良いのではないか」、そんな考え方が染み付いてしまっています。

「準備不足」でも

ところが。ここ最近の出会いの中で、「いやいや、そんなこと言わず、やってみてよ!」「十分できるよ!大丈夫、サポートするから!」と、お仕事をまかせていただく機会が。

自分にできる範囲で精一杯対応しました。経験したことがない仕事もありましたが、助けを借りながら、なんとかやりきることができました。

ひとつ出来ると次の仕事につながり、またそれが自分への自信にもなります。

そもそも、何か新しいことに挑戦するときに、準備万端整っていて、盤石の自信を持って臨めることなどめったにありません。逆に、自分に余裕がある範囲のことしかやっていないのであれば、成長は見込めません。

また、今のような、「先の読めない」いわゆるVUCAの時代。先を見越して準備しておくこと自体が出来ない場面ばかり。

少し背伸びするくらいのことに挑戦し、出来るだけの準備をする。準備不足であればサポートを頼む。準備している過程を見せる。失敗しても恥ずかしいと思わない。それくらいのマインドを持つ「準備」こそが大事なのかな、と思います。

(と、これはよく言われていることで、私もそんな記事を読むたび。「そうそう、そうよね〜」と思いつつ。「言うは易し、行うは難し」で、これがなかなかできないのですが。汗)

「キャンセルしたスピーチ」の結末

準備不足を理由にスピーチのキャンセルを申し出た日。帰ろうとする私をメンバーが引き留め、「まぁ、他の人のを聞いていきなよ。即興スピーチの練習もすればいい。」と言ってくれました。その言葉がなければ、私はクラブに参加することは二度となかったのでは。身の回りの人の「準備不足」にも、多少は寛容になることが必要、と肝に命じています。
20年以上経った今も毎回「あ〜、準備できてない!」と叫びながらも、「これが、私が今できる精一杯」と割り切り、スピーチの発表に臨んでいます。

そしてまた明日、スピーチの発表の予定があります。まだ準備できてませんが。(おいおい)




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