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新潟マイプロのこれまでの歩みを振り返る。

2021年12月19日(日)、念願の新潟県単独のマイプロSummitが開催されました。

NIIGATAマイプロジェクト☆ラボのスペシャルアドバイザーを拝命していることもあり、今年も僭越ながら推薦された代表PJの審査講評と表彰という大役を務めさせてもらいました。

全体的に非常にレベルが高くて審査に頭を悩ませましたが、どのプレゼンも本当に素晴らしく、ここから何か新しい始まりを感じさせるような素晴らしい舞台でありました。

ベストマイプロ賞、ベストアントレプレナーシップ賞、そしてベストラーニング賞(個人・チーム計2組)に選ばれた4PJはいずれもその名に相応しい大人顔負けの探究であり、最後までこちらが試されるような時間でした。

事務局であるNPO法人みらいずworksや有志で集まったスタッフ、そしてアドバイザーなど県内外多くの関係者の力によってこのような機会が実現できたことは個人的にも感慨深いものでありました。

今回の開催に至るまでに、実は知る人ぞ知る物語があったのをご存知でしょうか?

県summit開催を記念し、新潟マイプロのこれまでの記録をnoteに残しておきたいと思います。

はじめに:新潟マイプロが立ち上がるまでの物語

まずはマイプロ(マイプロジェクト)について詳しくない方向けにご紹介します。

マイプロジェクトとは、「主体性」をもって、つくりたい未来に向けて「アクション」を行っていく、学びのプロセスです。
そのプロセスを通して自分自身の興味関心の発見や、他者との協働、社会の価値発見・創造に向かう姿勢が育まれます。
10代のうちに正解がない中で試行錯誤し、探究することで、不確かな時代の中でも未来への創造力が引き出されます。

https://myprojects.jp/

このマイプロジェクトや探究的な学びを行ってきた高校生たちが、自らの活動の成果を振り返り、その学びを発表・対話通して次なるアクションに繋げていくイベントが「マイプロジェクトアワード」です。2013年にはじまり、これまで1500名以上の高校生が参加した日本最大級の学びの祭典です。
認定NPO法人カタリバが運営しており、各地域summitから選ばれいくつかのプロジェクトは全国summitにてプレゼンが行われます。

私も何度か全国summitを見てきましたが、そのアクションと学びの深さはすさまじく、10代の若者たちが懸命にプレゼンする姿はまさに一つ一つのドラマを見ているようでした。

全国高校生マイプロジェクトアワード

そんなマイプロジェクトの発祥は東北です。

東日本大震災を被災し、日常を奪われ未来を失った子どもたち。
復興支援で多くの方々に支えられるなか、彼らの心の中に「支援を受けるばかりではなく、自分たちも何かしたい」という想いが芽生え始め、震災後のまちで自らプロジェクトを考え実行していったそうです。

想いをもってはじまった彼らの活動は周囲の大人たちを動かし、地域を巻き込むようになっただけでなく、活動を通して自己肯定感や自己効力感を育む機会となり、やがて全国へと広まります。

私は2016年まで東北にいましたが、その当時プロボノで教育支援や地域で若者の居場所づくりを行うNPOの皆さんの活動に協力し、被災地域でマイプロにチャレンジする高校生の伴走者としてサポートをしていました。

発表のブラッシュアップに関わった高校生が文部科学大臣賞を受賞

彼らのプレゼンを生で見て以来、私も「この素晴らしい取り組みをいずれ新潟にも広めたい」と思っていました。

しかし、2016年当時の新潟にはまだマイプロも探究的な学びもその気配はなく、知名度も少なく一部の教育関係者がその価値を理解する程度。特に高校現場で取り組む方はほとんど見当たりませんでした

佐渡を豊かにする“中等生PROJECT”

全国で続々とマイプロの輪が広がるなか、”マイプロ不毛の地”であった新潟にも、一つのターニングポイントとなる動きが起こります。

当時、佐渡中等教育学校で教員をされていた宮崎芳史さんが一念発起し、佐渡を豊かにする“中等生PROJECT”という地域を舞台にしたプロジェクト型の学びを立ち上げます。

宮崎芳史さん

「佐渡には何もない」「早く島を出たい」「私たち嫌われているんです」といった生徒たちの声を聞き、こみ上げてくるものがあったという宮崎さん。彼らに自信をつけさせてあげたいという思いからその活動を始めたそう。

詳しいエピソードは以下のインタビュー記事をご覧いただきたいのですが、これまでの高校教員のイメージを覆す、とにかく教育への情熱に溢れたいい意味での変態的な素晴らしい先生です(笑)

宮崎さんと佐渡中等の生徒たちの活動は多方面で評価され、のちに新潟県を代表するマイプロの事例となりました。

NIIGATAマイプロジェクトLABOの発足

この活動をもっと広げていきたいと思っていた宮崎さん。2019年2月、公務員を対象にしたアイデアソン・OMO Niigataで当時ファシリテーターをしていた私との出会いに至りました。

OMO Niigata vol.2

マイプロを新潟県に広めたい。
新潟をマイプロ先進県へ…

その一心で動き始めた宮崎さんを中心に、みらいずworksをはじめ多くの関係者がその機会をつくるべく力を合わせて動き始めます。

元々人材育成・教育に関する事業をしていたこともありますが、東北での経験もあったこともあり、私も立ち上げ当時から伴走者兼アドバイザーとしてサポートに加わりました。

そして、任意団体としてNIIGATAマイプロジェクトLABOが発足。
第一回のイベント開催地として協力してくれたのが、一般社団法人愛南魚沼みらい塾の皆さんでした。

2019年12月、新潟、山形から80名の高校生が南魚沼に集まりそれぞれのマイプロジェクトを発表してくれました。

この記念すべき場で高校生向けにワークショップと講演を担当、アドバイザーとして審査・講評にも関わらせていただきました。

高校生の熱量は素晴らしく、発表を終えた翌日のリフレクションワークショップも最後まで盛り上がりました。

マイプロを深化させるリフレクションワークショップ
活動を通して得られた学びを互いに発表しあう生徒たち

あの時の彼らの姿は今でも鮮明に残っています。感動的な一面もあり、きっと彼らの人生にとって忘れられない2日間になったはず。

ここから一気に新潟にもマイプロが広がっていくのかな…そう思った矢先にあのコロナがやってきました。

オンラインでマイプロの機会を全県の高校生へ

リアルの場で集まることで得られるものはたくさんありましたが、オンライン化することで結果として高校生や関係者の交通費、時間的制約を解決することができました。

NIIGATAマイプロジェクトLABO スタートアップキャンプ

マイプロにチャレンジしてみたい高校生の0→1を応援、既にマイプロを持っている子はそのプロジェクトのブラッシュアップを図るスタートアップキャンプでは、オンラインだからこそ多くの高校生が参加し県外からも素晴らしいアドバイザーの協力を得ることができました。

NIIGATAマイプロジェクトLABOは新潟大学経済学部の伊藤先生が手掛けるベンチャリングラボと協働していることもあり、高校生だけでなくマイプロをやってみたい大学生も参加対象にしています。これによって他県にはない独自性と多様性が生まれているように感じます。

このスタートアップキャンプ以降もLINEを活用し、高校生同士・高校生と伴走者、高校生と大学生が繋がり、交流しながらお互いの活動を励まし、そして刺激し合っていきます。

スタートアップキャンプで同じ思いをもった仲間と出会えて気持ちが高まっても、学校に戻ったら孤独。マイプロを行う高校生たちを取り巻く環境は、決して応援してくれる人ばかりではありません。

そんな彼らを支えるべくメンバーは頻繁に高校生のために交流の場をオンラインで作ってきました。私も一人の伴走者として協力できるプロジェクトの伴走を行ってきました。

新潟県summitを見て気づいたこと

そんな紆余曲折を経て、ついに冒頭に触れたマイプロ新潟県summitの初開催を迎えたわけです。

一から振り返ってきたら長くなりましたが、それだけ思いが詰まっているということでご容赦ください(笑)

出場したのは43PJ、オンラインとのハイブリッドで100名ほどの高校生がその活動を披露してくれました。

ここまでの規模になるとは当初想像もしていなかったこともあり、まさに万感の思い…本当に素晴らしい時間でした。

今回の新潟県summitを見ていてマイプロ、探究的な学びにおいて大事なポイントも気づきとして備忘録的に以下に残しておきます。

マイプロコミュニティの意義

新潟はNIIGATAマイプロジェクトラボとしてコミュニティとして運営されてきていることもあり、いくつかのプロジェクトで発表までにコラボの動きが起きていた。

各々で取り組んできたものを発表しその場ではじめて交流されるマイプロSummitが多い中、オンラインで繫がり場作りを意識した運営がされてきたからこそ起きた現象で、それが学びの深さに繫がり、視野を広げるきっかけにもなっていた。

ITが飛躍的に発展し便利な社会となったものの、ともすると興味あるものしか情報が入らなくなったり(フィルターバブル)、自らを肯定する情報ばかり求める(確証バイアス)罠に嵌ってしまうことがある。

好きなこと、探究テーマを直向きに深めることも大事だが、いわゆる偶然の出会いやヒントが知らぬ間に失われてしまう可能性には意識的になっておきたい。そういった意味でもコミュニティで互いのテーマに触れ、対話するのは重要だ。

プロジェクトのキーワード「対話」

偶然なのか、我々が作ってきた場に触発されたからなのか、いくつかのグループが対話の重要性を語ってくれた。プロジェクトテーマ自体が対話だったチームすらあったほどだ。

彼らのプレゼンを聞いてなぜそこまで対話の価値や意義を発しているのかを考えたが、これは我々が作ってきた社会において対話というコミュニケーションが当たり前ではないからだろう。大人として受け止めなければならない。

社会問題や地域課題を批判して終わることなく、当事者として自分事にして出来ることに取り組み、多くの方と対話を通して自らの考え(問い・仮説)を更新していくことは容易ではない。

我々大人も対話をもっと当たり前にし、行政や民間といった立場を超え「なぜ、何のため」といった最上位目的を見失わずに取組むべきではないか。

マイプロは広まってほしいが安易な基準化は避けたい

いくつかのチームは地域の未来のためを考えて動いていたり、社会問題を取り上げていた。これらのチームが賞を取ったり評価されるのは素晴らしいが、探究的な学びの絶対的基準になるのは避けるべきだ。

かつて東北でも被災体験にまつわるプロジェクトが評価され、その際に似たようなことがあったが、純粋に好きでたまらない気持ちから生まれたプロジェクトや、遊びや趣味の延長から転じたプロジェクトにも替えがたい価値があると思う。

大人はどうしても社会的意義を追い求めてそちらの方へと仕向けてしまうが、マイプロを含む高校生の探究活動はもっと多様であって欲しいし、そこに優劣をつけずちゃんと市民権を与えたい。

SDGsや学問を切り口にした探究が広まることはいいことだし、学校教育だから当然だと思う。

しかし、そうした雰囲気が暗黙のうちに一つの枠組みや絶対的基準となってしまうとき「自身の価値観や生き方と一体的で不可分な問い(テーマ)」を偽ったり、見失ってしまう可能性はないだろうか。

総合的な探究の時間と総合的な学習の時間の違いのイメージ図(学習指導要領より)

本人の経験量や意思も求められるが、やはり10代はその環境や出会う人が重要だ。

帰り際に話した高校生は「賞を取ることや全国大会に行きたいと思ってません。色んな話を聞くことで刺激を得に来ました」と語る子がいたが、それでいいのだ。Summitへの臨み方も人それぞれでいいに決まってる。

大切なのは好奇心を発露させ、やってみること。経験に勝る学びなしだ

探究学習はすべてマイプロにならなくてもいいと思う。大人の用意したものを飛び越え、自分の人生の当事者となるためのきっかけなら、形式や進め方はどんな形でも良いはずだ。

真正な探究とは何かを引き続き模索していきたい。

以上、備忘録でした。

出場した皆さん、本当にお疲れ様でした。高校生のアクションを審査するに値する大人であれるよう、私も人生が続く限り探究し続けます。

最後に:マイプロサポーターのお願い


ここまでご紹介してきたNIIGATAマイプロジェクトLABOの活動ですが、民間メンバーを中心に手弁当で運営されています。現状他県のようにどこかから予算が出ているという訳ではありません。

新潟の高校生・大学生によりよい学びの機会を。探究的な学びの支援を通して、自らの人生を切り拓く力を身に着けてほしいという一心で運営しています。
(民間主導でここまで体制を構築しているのも全国的にも珍しいケースではないかなと思います)

プロジェクト数も増え、お陰様で協力してくださる方も増えてきましたが、規模が全県に広がり大きくなるにつれ、正直これ以上はボランティアベースでは厳しい状況なのも事実…そこで持続可能な運営をめざし「NIIGATAマイプロサポーター」を導入しました。

毎月1,000円からなれるサポーター制度。単発寄付も受け付けていますし途中退会も可能です。

サポーター特典として高校生やマイプロラボメンバーと交流できるコミュニティへの参加、高校生のプレゼンの観覧、活動通信などをお届けする予定です。

どんなコミュニティになっていくかはこれからですが、将来的にはスポーツクラブチームとサポーターのような関係をめざしています。

サポーターの応援を受け高校生たちが頑張り、全国Summitに出場し見事入賞!なんてことになったら素敵だなぁと。

一人でも多くの新潟に縁のある方にこの取り組みの価値が伝わり、未来の希望である若者の学びへの投資が当たり前となる新潟をめざし、アンバサダーとしても引き続き関わっていきたいと思います。

他国と比べても教育への投資が少ないといわれる日本。

若者が日本の未来に希望を抱きにくいのもよくわかりますが、こうした動きを起こして社会をほんのちょっとずつでも変えていく大人も日本にはいるということも伝えられたらいいな。

summit開催は次へのスタート地点。人任せにしないで私たちにやれることをやっていきます。


数多あるnoteのなか、お読みいただきありがとうございました。いただいたご支援を糧に、皆さんの生き方や働き方を見直すヒントになるような記事を書いていきたいと思います。