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【リフレクションの探究】2.リフレクションの意義と効果

前回は「リフレクションとは何か」をテーマに特に混同されがちな「反省」との違い、リフレクションは教育や人材育成の文脈に関係なく、一人ひとりの成長に必要なものであることをお伝えしました。

まだの方はこちらをご覧ください

今回のテーマは「リフレクションの意義と効果」と題し、リフレクションを行っていくことで何が起きるのか、どのような変化が生まれるのかについて探究していきます。


vol.2テーマ:リフレクションの意義と効果

リフレクションは明確な唯一の定義がある訳ではないのですが、教育・人材領域においては「自分の言動や感情、いい所や悪い所を識別し、主観的・客観的に省みて、そこから自分なりの教訓を生み出し、次のアクションの修正を図っていくこと」と説明しました。

具体的にどのようにやれば良いのかというHow toは次回以降にお伝えしますが、このリフレクションを行っていくことでどのような資質能力が育まれ、実施者にどんな変化が起きるのかを考えていくために、先ほどの定義に内包されている重要な要素を分解してみましょう。

ポイントとなるのは、以下の4点です。

①経験の識別
②主観・客観の往還
③教訓化
④アクションへの反映

これらの要素がリフレクションをリフレクションたらしめているものと考えています。順番に要素を見ていきましょう。

①経験の識別

振り返りの際には何でもいいから振り返ればいいという訳ではありません。前回も触れましたが過去をもとに、未来を描くための材料を見極めて振り返る必要があります。

人には短期記憶と長期記憶というものがあるのはご存知かと思いますが、すべての経験を長期記憶に留めておくことは不可能です。

忘れてしまっても問題ないものならいいですが、貴重な経験も振り返りがなされなければ例え成長の糧となるものも時の流れとともに忘れてしまい、劣化してしまいます。

そういう意味で振り返りには後述する教訓化とアクションに必要な素材を取り出せるようにしておくこと、つまり玉石混交の経験を識別し、長期記憶として必要に応じて取り出せすための選別的要素が含まれていると考えます。

ここで大事なのは”振り返りに必要な経験は何か”という観点です。

便宜上分かりやすくするため、出来事と経験の違いを以下のように表しました。

振り返りと出来事

振り返りにおいては、主観が伴い自分事になっているものであること、そして喜怒哀楽の何らかの感情が伴っているものを経験と呼びます。

プラグマティズム(実用主義、行為主義)を代表する思想家のジョン・デューイはその著書『経験と教育』で、教育的な経験の2つの原理として「連続性」と「相互作用」が必要であると語っています。

1.「連続性」の原理
快不快という単純で直接的な経験の側面を超え、その経験がその後の経験に影響を与え、時間的な繋がりがある。
2.「相互作用」の原理
行動や環境、他者の存在(客観的条件)と意思や感情(内的条件)の相互作用によってもたらされている。

このような前提を踏まえ、成長に繋がる経験を選び取り、選択し言語化をしていくことがポイントとなります。


②主観・客観の往還


リフレクションを一人で行う際には人の主観をもとに行いますが、現実をどのように捉えるかというのは、人によって異なります。

たとえばテストで95点を取ったことを「努力が実って嬉しい」と感じて喜ぶのか、それとも「あと5点とれなかった」と悔しがるか。これはその人の背景にある価値感や信念が影響しています。①で触れた経験が成立する自分事化する対象にも個人差があるでしょう。

主観はレンズのようなものであり、それが時として無意識にフィルターのようになってしまうこともあります。リフレクションをしなければ、私たちは自分がつけているレンズの存在に気付くことは難しいでしょうか。

リフレクションによって主観というレンズと一体化した状態から脱し、自分が事実をどのように認識しているのか、その認識が絶対ではなく一つの視点に過ぎないことに気付くことができます。

異なる観点から客観的に経験を見てみることで、意味を見出せなかった出来事が学びに繋がる経験になることもあります。

また、主観と客観を行き来していくことで、自身の主観の背景にある価値観や信念に気付く機会になることもあるでしょう。

ジョハリの窓はご存知の方も多いと思いますが、主観と客観を行き来することで自己認識が深まっていくと考えられます。

別の回で改めて触れますが、振り返りで深い気づきを得るのは一定の認知能力と発達段階が必要であり、慣れも必要です。一人の振り返りで得られるものには限界があります。

他者から振り返りとして問われる機会、他者と共に対話的に振り返る「グループリフレクション」も、主観と客観を行き来する際のガイドになるでしょう。

③教訓化


教訓とは「良い悪いに限らず、経験を通して今後の人生に活かせる糧とすること」です。

加えていうと、リフレクションを行うことで特定場面で機能する自分なりの概念を作り出すことに繋がります。

子どもの例でいえば「何か物を壊してしまったときは、黙っているよりも先に自分から謝った方があまり叱られない」といったものです。

本人にとって苦い経験から得られた教訓であり、こうした教訓がその後も経験を経て集まっていくなかで分類・統合され、やがて「失敗に対する対処の概念」と呼べるものがつくられていきます。

これは失敗だけでなく、他にも人付き合い、勉強、新しい環境など、様々な場面の概念をがあります。その概念も一人ひとり違うのです。

概念化

振り返りをせずともほとんどの人が無自覚・無意識的にこれを行っているのですが、言語化し意識化することでより効果的に扱えるようになります。

こうした概念は人の行動特性ともいえますが、時間と共にメンタルモデルを生み出す場合もあります。

メンタルモデルとは固定観念や先入観、常識など経験からつくられた価値観や信念と一体化した思考の特性です。

たとえば、

「リーダーは弱みを見せてはならない」
「お金を貯めるには貯金が一番である」
「人を頼るのは弱い人がすることだ」

などが挙げられます。

メンタルモデルには良い・悪いというものはなく、気づいて必要に応じて修正していくことが必要です。

振り返りには経験から教訓を生み出し、教訓から概念化を促す効果があります。

④アクションへの反映


未来に資するものが振り返りですので、帰結するところはやはり次どうするか?という話になります。

振り返りをせずとも無自覚・無意識に教訓がつくられている場合もあるとお伝えしましたが、人は意識していないものを変えることはできません。

先ほどの「何か物を壊してしまったときは、黙っているよりも先に自分から謝った方があまり叱られない」といった教訓を子どもが意識化するとどんな変化が望めるでしょうか。

自分に過失がある時には先に謝るというのもそうですが、周囲に壊れやすいものがないか注意を払うようにもなるかもしれません。
あるいは遊ぶ場所や遊び方も工夫したり、自分だけでなく友達に「危ないよ」と注意をするかもしれません。

大小様々な経験から学び、立ち居振る舞いを変えることで私たちは社会化してきました。

大人であれば教訓を何かチャレンジする際にも活かせるでしょう。

人の成長を捉える際の心理的空間としてコンフォート・パニック・ストレッチ(ラーニング)の3つのゾーンがあるといわれます。

ストレッチゾーン

コンフォートゾーンは、課題よりも能力が上回り、こなしているような感覚の状態です。
快適で安心することはできますが、ここでの成長はあまり望めません。

パニックゾーンは、逆に能力よりも課題が大きく上回り、混乱している状態です。
許容限界を超えているので、目の前のものに対応することもやっと。ストレスフルで学ぶ余裕はありません。

ストレッチゾーン(ラーニングゾーン)は、現在の能力よりも少しだけ難しい挑戦的課題と向き合っている状態です。
適度な緊張感があり、集中して取組めます。最も学びが大きく成長も期待できます。

難しい課題には単純な難易度だけでなく、やったことがないという新規性や、複数の要素が絡んだ複雑性、容易に白黒つけられないような矛盾・葛藤性、相反する要素が伴う対立性なども含まれます。

人が学び成長し続けるには一人ひとり違う能力と課題の調節が重要です。

振り返りによるアクションの変化は、まさにこのコンフォートゾーンからストレッチゾーンへの移行の際にも活用できるでしょう。

成長の糧となる経験を識別し、自己認識を深め、つくられた教訓や概念を資源とすることで少し難しい課題にも自信をもって取組むことができるのです。

この4つの要素が振り返りによる人の成長メカニズムといえるのではないでしょうか。


最後に:振り返りで何が身につくのか?

先述の要素が含まれた振り返りによってどのようなものが育まれるかを、先行研究や実践知も交えて考えてみます。

1.メタ認知力と自己認識

メタ認知とは、自分自身を俯瞰的に捉える力です。自分が何を知っていて何を知らないのかといった無知の知なども含まれるでしょう。

行為に没頭している時には気が付かなかった当時の自分の思考や感情を思い返し、経験を識別していくなかで事物を抽象化し、意味づけや価値づけをすることで身についていきます。

こうした力は個人差はあれど後天的なものなので、何度も振り返りを繰り返すことでコツが掴めてくるはずです。
個人的には学校教育や人材育成の現場においては、逐一指導しなくても勝手に学習者が振り返る習慣化が必要だと考えます。

多くの方は経験を思い出すまではしても、それを自ら批評したりすることは少ないでしょう。子どもだけなく、大人もこれからの時代を生きる社会人に必要な素養として身につけたいものです。

また、振り返りは自己認識を高める効果も期待できるでしょう。

自己認識の重要性ついては『insight いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』(ターシャ・ユーリック著)が参考になります。

本書では自己認識を「自分自身と他人からどう見られているかを理解しようとする意志とスキル」と定義しており、自己認識が高い人は自己認識が欠けた人たちと比べると、自らを導く行動指針といえる「価値観」、これから経験し達成したい「願望」、自分が幸せを感じ存分に力出すために必要な場所が分かる「フィット」など、7つの特徴を有していることを明らかにしています。

また、自己認識は内的自己認識(自らに対する認識、セルフイメージ)と外的自己認識(他者から自分はこう思われているだろうという自己認識)に分けられ、これらは独立したものであり、一方が高いからといってもう一方も高いとは限らないことも分かっています。

スタンフォード大学の心理学者デイヴィッド・ダニングらの調査によると、能力の低い人ほど自分の能力は平均よりも上位にあると考える傾向があるということも分かっています。これをダニング=クルーガー効果として発表しています。

社会的な成功を収めている人や高いパフォーマンスを発揮している人ほど、適切な自己認識を有していることも多くの調査をもとに証明されています。

振り返りによって自分の中にある盲目だった部分に光が当たり、得られた気づきは活用することで対人関係や進路選択、仕事など実に様々な場面でプラスに働くことが期待できるでしょう。

2.自己肯定感

振り返りは自己肯定感を高めることも分かっています。

人はその進化の過程で、危機管理のため悪いことや嫌なことほどよく覚えている、長期記憶に残りやすいといわれています。

振り返りの識別の過程を経ることで良いところを見出し、意識的に向き合うことで”意外と自分は上手くやれている”ということが認識できます。

心理学者のクロード・スティールとジョシュア・アロンソンによると、人には自分自身や自分がどう見られているかについて、実際によりも低く見積もって思い込んでしまうステレオタイプ脅威があることを立証しています。

研究ではアフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリカ人の2つのグループの学生に「知性を測るテスト」と予め伝えた上で試験に臨んでもらったところ、アフリカ系アメリカ人のグループの方のスコアが低く出たが、知性を測るものだといわれなかった場合にはどちらのグループも同じような点数を示したそうです。
この結果にはヨーロッパ系アメリカ人たちよりもアフリカ系アメリカ人の方が知性が劣るというステレオタイプが広まっており、それが作用したからだと考えられています。

テストの背景にあったステレオタイプのように、私たち日本人にもスクールカーストと呼ばれるような学歴ステレオタイプ、一流企業と地方企業のような職歴ステレオタイプ、男女の違いという性別ステレオタイプ、出身や集落など地域ステレオタイプなど、無意識のうちに抱いている思い込みはないでしょうか。

ステレオタイプは、先述の主観のレンズの裏に知らず知らずのうちに差し込まれているフィルターといえるかもしれません。

すべて払拭していくことは容易ではありませんが、振り返りを経ていくことでこうしたステレオタイプ脅威の影響を弱めることができ、経験によって本来獲得すべき自信を育むことができると考えられます。

その他、先行研究を見ていくと、振り返りが未来の構想や現在の行動に及ぼす影響を調査したところ、学生の授業参加や進路選択、自己肯定感とも関連があることが分かっています。

青年期は否定的回想やネガティブな出来事を前向きなものに再評価する傾向が高いことも分かっており、振り返りによって「過去ー現在ー未来」の時間軸で自身の経験を振り返ることで得られる自己肯定感への効果は若者ほど有効です。

参考:過去ー現在ー未来にみられる青年の自己形成と可視化によるリフレクション効果-ライフヒストリーグラフによる青年理解の試み(山田剛史)

また、国際的な調査から日本の若者の自己肯定感は諸外国の若者と比べても著しく低いことが報告されています。

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18歳意識 調査「第 20 回 社会や国に対する意識調査 」要約版

この結果から、これまでの日本の学校教育には振り返りの文化・慣習がなかったといっても過言ではないかもしれません。

また、私が同時に浮かんだ問いは、日本の若者の自己肯定感が低いのは分かるが、大人になるとそれは勝手に高まるのだろうか?というものです。

前回も冒頭に触れましたが、学生から社会人になるまで私たちはリフレクションを習ってきたでしょうか。企業内部で社員の成長のためにリフレクションを習慣化しているでしょうか。

大人の背中を見て子どもは育つといいますが、日本財団の調査の結果が物語っているのは”自己肯定感の低い大人たちに囲まれた、国と自分の未来に希望を持つことができない日本の若者たち”なのかもしれません。

振り返る力は学びの深さや成長速度、そして仕事の成果にも影響を与えるものとしてリフレクションの意義と効果について論じてきました。重要だと感じた皆さんは、ぜひリフレクションを出来るところから習慣的にやってみてください。

次回は具体的にどのようにリフレクションに取り組めば良いか、効果的なリフレクションについて探究していきたいと思います。

数多あるnoteのなか、お読みいただきありがとうございました。いただいたご支援を糧に、皆さんの生き方や働き方を見直すヒントになるような記事を書いていきたいと思います。