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地域の中小企業の人手不足問題が解消しない「3つの根本的要因」

社外CHROとして中小企業の経営支援をしていると、採用課題について相談を受けることがよくあります。

一般的な採用エージェント、広告代理店では媒体や求人条件を中心に提案をしていきますが、コロナ禍からの揺り戻しも手伝い昨今の新卒/転職は超売り手市場。最低賃金の引き上げなどの待遇改善も進み、これまで採れていた条件でも採れないような人材の争奪合戦となっています。

そうするともっと採用広報に予算を使わねばという思考が働くかもしれませんが、予算を増やして解決するかどうかを判断するために以下の3つを考えてみるとよいかもしれません。

①既存社員のなかで、市場性※ 高い社員はどれくらいいるか
②既存社員のなかで、求人情報を口コミで広めてくれる人はどれくらいいるか
③採用できた後に育成担当するリーダーやマネージャーは決まっているか

※市場性…転職しようと思ったら直ぐに決まる、よい条件で転職が可能、引く手数多か否か。エンプロイアビリティを指す。

以下、順番に解説します。

①既存社員のなかで、市場性高い社員はどれくらいいるか

①が少ない場合、よそに行く場所がないため残っているぶら下がり社員が多い可能性があります。

ぶら下がり社員は言われたことはやりますが(時にやらない問題社員もいますが)、それ以上は基本やりません。

自律とは無縁でモチベーションは自分の快・不快を中心に判断。労働集約型の業種や組織の状況によってはこういう人材も一定数入れないと回らないですが、在籍が長くなり社内でポジションを見出すと幅を利かせてお局や無能上司、働かないおじさんになり得ることもあるでしょう。
そうなると自分たちにとって脅威となるような若手や成長意欲ある人材に悪影響を及ぼし、市場性の高い社員から抜けていきます。
その結果どんどん職場が硬直、変化に弱く現状維持をよしとして、人を育てられない職場が出来上がっていきます。まさにピーターの法則ですね。

出典:ピーターの法則とは メカニズム・組織にもたらす影響・回避方法を紹介

入社時から皆こういう存在な訳ではなく、学ばなくても許される環境へ適応した結果ぶら下がり社員になってしまっているので、これはシステム的な問題ともいえます。

②既存社員のなかで、求人情報を口コミで広めてくれる人はどれくらいいるか

②は端的にいえばエンゲージメントです。リファラルの発生とも繋がります。自分が勤める会社に将来性を感じる、ある程度満足している時には自分の身近な友人や家族に口コミしてくれます。これまでも改革を断行してきた支援先では、特にリファラルに力を入れたわけでもなく1年間に同業他社から3人の紹介による応募がありました。

逆にここはヤバいと思われてたら親しい間柄の人には絶対に紹介はしません。社員は社外で友人や家族にどんな評判を広めてくれているでしょうか。

大手と違って炎上でもしない限り名指しでSNSに書き込まれることは稀ですが、クローズな空間では社員は多かれ少なかれ必ず自社のことを語っています。

ここは衛生要因としての働き方改革や福利厚生だけでなく、動機づけ要因への介入も必要になるでしょう。

出典:「ハーズバーグの二要因理論」とは?注目される理由と活用事例を紹介


③採用できた後に育成担当するリーダーやマネージャーは決まっているか

③は採用活動や人材育成が計画的かどうか、採用した人を育てられる存在の有無に繋がります。

新規採用をするということは、本来経営戦略や事業戦略に基づき現在から未来の時間軸で必要となる人材を定義して求めるということです。例えば3年後に定性定量で実現したい姿があり、そこに辿り着くために必要な仲間はどんな人か。入ってもらった人に、どのように活躍してほしいかを考えていきます。

意図的にリーダー、マネージャー育成をして来なかった会社は抜擢人事などもないため上司の平均年齢が高くなったり、管理職になりたがる社員が少ない傾向があります。採用してもすぐに人が辞めるというケースは、人材育成を軽視している可能性が高い。採用したらあとは現場任せ・その人次第といった釣った魚に餌をやらない環境は人余りの時代の悪習であり、採用単体で人事戦略を考えている証左でもあります。

管理職が育成に対して前向きではないという場合、人を育てる・学び成長するという文化が形成されてないばかりか目標設定と評価に連動していないことも要因でしょう。面倒見がよく人材育成に親和性の高い方ならよいですが、職人気質な方や自分一人で成果を上げることにやりがいを持って働いてきたプレイングマネージャーだと、仕組みとして作らなければうまく機能しません。

これらが考えられてなければ過去からの惰性で穴埋め採用、人手の補充採用になっている可能性が高く、広報予算を闇雲に増やしても成果は期待できないでしょう。

採用の問題を根本的に解決するのならば、実は採用単体では解決できず経営戦略、事業戦略、育成や評価、組織編成と一体的に考えなければ解決は困難です。
手っ取り早くSNSによる発信や媒体への出稿などの手段を取りがちですが、その前に社員の声に耳を傾けてみると解決策の糸口が見えるかもしれません。
社員の本音を聞かず、総論「よい組織をつくりたい」と言いつつも、各論の具体策や根本的な要因と向き合おうとしないのがとても残念です。

個人的な思いとしては、手を動かしてさえくれれば誰でもよい、人格・心・頭を無視した採用(=人手不足採用)はそろそろ止めにして、人は価値を生み出すあらゆる可能性を秘めた資本として捉える全人格的採用(=人財採用)に取り組んでいきたいものです。

引き続き「人の健全な発達と後世に残したい組織を支援し、社会を真に持続可能にする」というビジョンを心掛け、組織の支援をしていきます。

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