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この仕事を選んだわけ

私の今の仕事は植木屋・庭師カットデザイナーだ。

仕事を初めてから、もうすぐ1年になる。新春の手がかじかむ寒さの中での植栽、蜂をはじめとした虫たちの攻撃や夏の暑さにあえぎながら草取りなど所々の局面では苦しいこともある。不思議なことにそれらを克服しながら、そして楽しみにしながら前に進もうとする自分がいる。

「今やっている仕事に対して幸せを感じるか?」と問われれば、「うん、感じるね」と返すだろうし、「仕事楽しい?」に対する答えは「うん、楽しい」だろうね。

前職までは全く別のことをしていた。だから前の会社の同僚や仲間とあったときに、庭師としての仕事を始めたことを報告すると、まず第一声は「えっ」という驚きの反応のあと、続いて「なぜ?」という問いが戻ってくる。

最初は説明を試みたが、いちいち説明をするのも長い話になってしまうのでとても疲れる。うまくいけば理解してもらえるが、どちらかというと理解されないことが多いかと思う。まあ自分でもどう説明するか悩ましい。そのため、最近では聞かれれば応えるが、あえて説明しなくなってきた。

「植木の仕事は自分でもやっていたの?」と聞かれるが、もともと植木、植物、造園などに興味があったというわけではない。今考えてみると実は悩みに悩んだ挙げ句に、結果として好きなことを追い求めこの仕事にたどり着いたのだと思う。そう本能にまかせて行動に移した結果、この仕事を選択したのだ。

自分の今まで半生を振り返ってみると、社会人としてやってきた多くのことは庭師の仕事とは全く異なることだ。

大学卒業して最初の12年間は、国際金融の最前線で米、欧、日の銀行、投資銀行を顧客に市場で各国の債券や金利の仲介する仕事をしていた。それこそ、『24時間働けますか?』の世界だ。90年代湾岸戦争のときは、数日家に帰れなかったし、通貨危機のときはロンドンに駐在していたが毎日2,3時間しか眠れなかったときもあった。

その後、2000年にその仕事を早期退職し、次に選んだ仕事は米国の金融情報メディアの会社だ。金融市場での経験や知識を活かしてのコンサルティングに始まり、アジア地域でのデータベースを支える管理職として約20年間従事した。この時 一年の半分以上が出張だった。アジア、欧州 アメリカ、オセアニア、果また南アフリカまで行かせられた。
この会社では本業以外の会社の価値向上にも奔走した。ボランティアリーダーとしてそれからダイバシティのグローバルリーダーとして会社から色々な会議にも出席した。

そして会社員としての最後の2年間は欧州に拠点を持つ広報戦略コンサル会社でシニアディレクターとして政府や顧客企業などのコミュニケーション戦略を支える仕事をしていた。

最後の会社を辞める時はこのまま会社員として転職するべきか悩んだ。その会社から考え直すように引き留められてはいたが、自分ではすでに結論として中途半端な会社員生活は継続しないで、これからは自分が好きだなと思うことをしてみようと考えたのだ。

問題は自分が何を好きなのか、ということだ。多くの人にとってこれは難問かもしれない。なぜなら、現代に生きる我々には生まれたときから情報は大変多くある。その中から自分の本当に好きなものを見つけるのは至難の業であり、もし見つけることができればとてもラッキーなことだ。

人は生まれてから、家庭生活や学校生活を通じて、親や親戚、学校の先生や友達、回りの人たちからいろいろなことを教わる。そしてそれは良いこともあるが、彼らの偏りバイアスがかかっていることもたいへん多くあるのもまた事実だ。そして多くの場合、仕事の選択肢が狭められ、自分の意図と真逆の方向にいってしまう。

時には家族や生活など、色々な問題やしがらみができ、それらが足かせになり、思い切ったことができなくなる。実は自分もそうだった。

振り返ると、自分が意欲を持って取り組んできたこと、不思議とそこには自然との接点があった。

学生時代のスキー、社会人になってからの登山、カヌー、キャンプ、自転車、そしてボランティア活動ではドングリを育む活動、河川敷の清掃、東日本大震災などいろいろな経験をした。そして現在もっとも精力的に取り組んでいるのは地元の森づくりボランティアだ。

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家内からは休みの日も木をっていると言われ、笑われている。ただ山や森を維持するタスクはとても面白い。今やっている庭の仕事にもたくさん応用できるので一石二鳥いっせきにちょう。それどころか、木工や社会貢献もできるし三鳥や四鳥にもなる(笑)。

庭師としては半人前はんにんまえどころか100万分一人前だ。勉強は続けていかなければいけないし、何よりも安全に長く続けるためにはどうしたらいいか。一人親方ひとりおやかたとしていかに無理をせずに自分が取り扱うできる仕事の範囲を拡げていくか、それが今とても試されているのだと考える。


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