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コロナウイルス・養鶏場~動物病院のカルテ~

「コロナウイルス、怖いですよね」
「犬にも感染するんですか?」
「先生も大変ですね」

動物病院の診察室でも、最近流行しているウイルスの話題がよく出ます。
怖いですね、犬には今のところうつらないといわれていますよ、人のお医者さんほどではありません、とか、羽尾先生はそつなく答えています。
(ホントに怖いのは、そこでは無いんだけどな・・・)
ウイルスの話が出るたびに、学生時代のことが頭をよぎります。

当時の羽尾青年が衝撃をうけた考え方があります。
養鶏場のニワトリを全体で一羽と考える、というものです。
特定種のウイルスや細菌による伝染病が発生したときに、元気なニワトリも含めて、養鶏場全体のニワトリ数万羽を殺処分します。
普通は、何もそこまでしなくても、と思うかも知れません。
ひとえに、それ以上の蔓延を防ぐためです。
それくらい、感染力の強い伝染病の防ぐのは困難だということです。

現在ヒトの間でウイルスが流行しています。
ある部分では考え方は同じです。
個々で身を守るだけではなく、周囲への拡散も防がなければなりません。
そうで無ければ、自覚がないうちに自身が人類にとって有害な行為をしてしまう可能性があるのです。
マスクを高値で転売する行為や、体調が悪いのに外出したり他人と接触する行為なども、これにあたります。
このようなニュースを聞いて、羽尾先生は心を痛めます。
「私はウイルスに感染しない自信があるから」
などと嘯いて、予防に気を配らない人。
この人は、知らないうちにウイルスをばら撒いている・・・、かも知れないのです。

「ちゃんとやろうよ!」
羽尾先生は、叫びたくなることがあります。
ニュースを見ていて。
町で人々が話しているのを聞いて。
知人との会話で。
わたしたちには、人として人類全体のためを考える必要がある、羽尾先生はそう考えます。
当たり前だけど、人は一人では生きていけない。多くの人の支えによって生かされている。それなのに、他者の安全を考えた行動が出来ないなんて!!

そして今、学生の時に感じたのと同じくらいの強さで、伝染病を防ぐ仕事に進みたい、という欲求が出てきているのです。
ともあれ、動物病院で個々と向き合いながら治療をしていく、という仕事を選びました。
そちらに対する思いも、同じように強いのです。
伝染病を救う仕事に比べると、救える命の数は到底少ないかも知れません。
しかし、ただただ愚直に真摯に可能な限りの知恵とちからを使い、少しずつでも命を助けられる仕事です。

「今、この子に出来る最善の努力をしよう」

羽尾先生は、新たに決意をしました。

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