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やけ酒で忘れる?まさか!

(これが飲まずにやっていられるか!)
玄関から冷蔵庫に直行して第三のビールを取り出し、蓋を開けるや否や口をつけて、缶のまま煽った。
ゴクッ、ゴクッ、と喉を鳴らして、缶を置く頃には中身は半分ほどになっていた。
500ml入りの缶である。
「んんぁぁぁあああー!」
手足の先まで染みわたっていく、しびれのような感覚が脳に達したときに、思わず絞り出すような声が漏れた。
(美味い!だが、しかし・・・・)
ただ、美味いだけではなく、苦いものだともいえる。
そう、これは楽しいお酒ではなくやけ酒なのだから。
ふと視線を感じてそちらを見ると、うちの猫が真っすぐにこちらを見ていた。

「何してるの?」
「やけ酒さ。嫌なことがあってね。それを忘れるために飲んでいるんだ」
「そう。昨日は祝杯だったわね。あれとは違うの?」
「ぜんっ、ぜん違うよ!昨日はパチンコで勝ったお祝いだったの!」
「ふーん。私には同じに見えるわ」
「そりゃあ、君にはただお酒を飲んでいる様にしか見えないんだろうけど」
「お正月にも飲んでたわね」
「新年のお祝いだよ」
「桜を見ながらも、そうだったわよね」
「花見酒というんだ」
「夏にベランダで飲んでいたのは?」
「自宅でビヤガーデンだよ」
「お月様が真ん丸とか言ってたわ」
「月見酒だね」
「雪が降っていたときはこたつに入っていたっけ?」
「うん、雪見酒だよ」

「今日は、忘れるために飲んでいるのよね?」
「そうだよ」
「バカね」
「何がだよ」
「お酒を飲んだ時のこと、みんな覚えているじゃないの」

(・・・・・!)

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