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中森明菜「少女A」

1982年7月28日発売のシングル曲。
これがデビュー曲だと思われている人も多いが、2枚目のシングル。
中森明菜の名を日本全国に知らしめた、衝撃的な曲。

「少女A」 作詞:売野雅勇 作曲:芹澤廣明 編曲:萩田光雄

はっきり言って、「少女A」は「ロック」である。
イントロからウィンウィンとうなりまくるギターに、
小気味よくリズムを刻むドラム、そしてホーンセッション、
大体、タイトルが「少女A」だよ。なんて危なげで挑戦的なんだよ。

そして彼女のヴォーカルは、詩の世界を再現させるために、
吐き捨てるように滑舌よくキレキレで、
サビ最後の「ワ・タ・シ・少女A」では、ドスの効いた低い声。
その後名だたるヒットメーカーとなった作家陣と彼女の作り上げた、
隙のないロックナンバーだ。

そんな曲を、まだふっくらとして洗練されていなく、
あどけない風貌の彼女が、
アイドル然とした衣装で歌い切るという意外性。

デビューしてすぐの子にこの曲歌わせるなんて、
いくら相手が中森明菜であっても、なかなか思い切った決断ですよ、これ。

そのギャップが、単なるアイドルファンだけでなく、
ロック小僧や歌謡曲・演歌しか聞かない大人たちからも、
「中森明菜はただのアイドルとは何か違うぞ」と思わせた。

ここで、彼女は一気に、
日本全国の人々に一目置かれる存在となったといっても過言でないと思う。
そして、この後のシングルに、
彼女の一番のヒット曲となる名バラード「セカンドラブ」を持ってくる。
こうやって、振り幅の激しいシングル曲を
交互に出していくことができたのも、
まだまだ未完成ながらも、潜在的歌唱力と高いプロ意識が、
当時の中森明菜には既にあったからこそ、なのだと思う。

この曲での彼女のヴォーカルは、
後々の彼女の歌の代名詞となる、
ウィスパー唱法やロングビブラートなどはないのだが、
そんなテクニックなど使わなくても、
もう既に、似つかわしくなく背伸びした危うげな少女ならではの苛立ちや
理解してくれない大人への不満や寂しさといった感情移入の片鱗を、
ゴリゴリのロックナンバーという難しい楽曲の中で、極々ナチュラルに、
極めて真剣に、真摯な姿勢で見せてくれる。
確か公然と「この曲は嫌い」と言ってのけたはずなのに、
自分の作品としてここまで取り込める。
このプロ根性、お見事。

現在の音楽シーンと比べても、
類稀なその実力は改めて驚きを感じずにはいられない。
タイトル、アレンジ、曲そのもののインパクトも含め、
いやぁ、見事な曲だとの一言に尽きる。

歌番組では、曲が始まった途端、
生来の緊張する性格も相まって、アイドル特有の笑顔を一つも見せない。

一方で、カメラワークをしっかりと把握しながら、
視線で見栄を切ったり、あえて無視したり。
マイクも使ったリズム感抜群の振付を、
バレエ時代に身に着けた美しい足さばきと共に見せながら、
照れなど見せず、曲のイメージをあくまでも忠実に再現できる
度胸の良さを存分に見せてくる。

その見事なマイク捌きの振付と堂々とした歌いっぷりは、
彼女の代表曲「飾りじゃないのよ涙は」を生み出す
井上陽水をも魅了させたほどである。

そして、歌唱前、間奏中のリラックスした、
そして歌唱後に見せるホッとしたあどけない笑顔とのギャップも、
普通の17歳ならではで、なんとも魅力的なのである。

(※この文章は、作者本人が運営していたSSブログ(So-netブログ)から転記し加筆修正したものです。)


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