#27 短編空想怪談「ドライブスルー」

私は地方の某ファストフード店で働いている。
元々は車が好きで、自動車整備士になりたかったが、「女に車の何が分かるのか?」という業界の風潮やパワハラやセクハラに耐えかね挫折。

ディーラーで働く事も考えたが結局同じような業界に居るとまた嘗ての同僚や嫌な上司に出会いそうで二の足を踏んで、結局近所のファストフード店でパートをしていた。
ただ、車が無いと生活ができないこの地方では、色んな人がドライブスルーを利用してくるから、その際に色んな車が見られるので気にはいっていた。

ある日、見慣れない高級車がウチの店に来た。
ドライバーの男は身なりが整っていて愛想もいい。
それ以降、この高級車に乗った男は度々ウチの店を利用するようになった。
だんだん顔なじみになり、ある日私から切り出した。
「いい車ですね。」
「ありがとう。」
他愛もない会話と挨拶で内容があった訳では無いがそれで満足だった。

後日、時間は22時になろうとしていた頃、あの高級車の男は店内へ赴いてきた。「今日はドライブスルーじゃないんですね」
「今日は休日だから偶には店内でと思いまして」
「よかったら私あと少しでシフトが終わるので、その後お食事でも如何ですか?」
「ええ、もちろん構いませんよ、ではそれまで待っていますね。」
私が男の人を食事に誘うなんて自分でも信じられなかった。
でもそれほど迄に彼は優しい雰囲気と誠実な雰囲気を醸し出していた。

シフトが終わり彼の元へ行き、店内で少し会話をした後、彼がこう言い出した。
「よかったらこのあとドライブに行きませんか?」
車好きの私からしたら願ってもない申し出だった。
「でも、今日はもう遅いですし…」
「良いじゃないですか、家までお送りしますよ。」
折角の誘いだったが結局私は断った。
次の日も出勤があること、何よりこの地方のファストフード店の周りは深夜は暗く、治安も良くない。
そんな所の駐車場になけなしの貯金をはたいて買った自分の愛車を置き去りにして、イタズラや車上荒らしには会いたくなかったからだ。
「そうですか、ではまた今度お誘いします。」
そう言って彼も引き下がった。
時間は深夜0時前、お店の同僚も早く帰れと言わんばかりに店内の締め作業をしていた。

それから彼は二度とウチの店には来なくなった。

一年ほど月日が経った頃、刑事が店に来た。
私への事情聴取だった。
刑事は私に二枚の紙を見せた。
一枚は車の写真、あの高級車だ。
2枚目は彼だった。
「この車に見覚えはありますか?」
「はい」
「では、この男にも見覚えはありますか?」
「はい、一年ほど前によくウチを利用していて少し仲良くなりました」
と言うと刑事は
「実はこの男、連続殺人犯で貴方はその生存者なんです」と教えてくれた。

手口は気に入った女性と親しくなり、懐柔できた頃を狙って殺害。

やっと手掛かりを掴んだらしく、その糸口を辿って私に会いに来たらしい。

一年ほど前、犯人の男は深夜に道路に面した林道で女性を殺害し解剖していた、その現場を見た目撃者が通報。
警察官が駆けつけた頃には跡形も無くなっていた上、只の血の一滴すら見付からなかった。
始めは通報者のイタズラかと思われたが、目撃者の証言で、高級車が一緒に止まっていた事、行方不明者の女性がこの高級車と関わりがあった事、小さな共通点だったが、一応念のために目撃者の証言から、犯人の顔を想定し似顔絵を作成。
車も割り出したが所有者は不明。
なにより謎なのは、犯人もだが、遺体が見付からない。
それまでも、この高級車に関わったであろう女性が行方不明になっている。
そして、恐らくもうこの世には居ない。

「もしまたこの店に来ることがあったらご連絡下さい」

刑事はそう言ってその場は去った。
「大変だったね、とにかく君が無事で良かったよ」そう店長が声を掛けてくれた。
その日も刑事が来たこと以外は特に何事もなかった。

「お疲れ様です」
シフトが終わり自分の車で自宅に帰る途中、見てしまった。
あの高級車だ。
近くの沿道に車を止め警察に通報した。
その後、あの高級車を見ることも、あの男に会うこともなかった。



あの男は何者なのか。
そして目撃者はなぜ殺害現場を見ただけでなく解剖していたと証言したのか。




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