パンサー1

【掌編小説】パンサー

(一)

そのおじいさん原型師は「むつごろうさん」なんてのがあだ名で、いつも動物のキーホルダーの型をつくっていた。
彼はとにかく動物がだいすきで、もちろん家には猫二匹と、犬を一匹、金魚を一匹飼ってみんな家族のように大事にあつかっていたし、休日には動物園に赴いて、フィルムカメラで動物の写真を撮ったりする。
ゾウやキリンや、オランウータンや、孔雀やニシキヘビは、人間よりももっと素直でめんどうがなくて、彼は動物たちとずっと一緒にいることが、何よりも幸せだった。

そんなぐあいで動物に愛を注ぎ込んで生きているものだから、そのおじいさん原型師がとにかくこだわりぬいてつくる動物たちの型は、まるで芸術品のような出来栄えだった。
彼がひとたび型を取れば、肉食動物たちの牙は鋭くとがって迫力をみせていたし、草食動物たちの足筋は隆々と美しかった。
愛が、生きものたちに命を吹き込むのだ。

いまおじいさん原型師は、パンサーの型づくりに心血を注いでいる。
彼はパンサーを、動物界いちの美男子だと思っているから、そのようにつくる。
体の流線型を彫刻刀でていねいに削りだし、毛並みを一本一本、電動ばりでまるで梳かしつけるように彫りだしていく。

彼の手のひらの中で、パンサーは確実にこの世界で息をするものとして生を受けていく。
その仕事をしているとき、彼はいたって真剣な表情をしている。
鬼気迫るそのようすに、工場の同僚も気を遣って話しかけるのを躊躇うくらいだ。
しかし、そんな彼の頭の中では、目先の作業の段取りなど考えているわけではない。
いたって真剣な表情で、彼は若いときに一度だけ旅をしたことがあるアフリカのサバンナを、悠然と頭の中に想い描いているのだ。

そして、彼の想像のサバンナで、パンサーは獰猛に吠えているのだ!

***

(二)

ぼくのたからもの

ぼくのけいたいでんわには、パンサーというどうぶつのストラップがついています。さいしょはすごくやせたトラだとおもったけど、おかあさんにきいたら、これはパンサーっていうどうぶつなんだよっておしえてくれました。なまえがかっこいいから、すぐになまえをおぼえられました。

このストラップはおにいちゃんにもらいました。おにいちゃんは5ねんせいだから、どうぶつえんにえんそくにいきました。そのおみやげでパンサーをもらいました。おにいちゃんはいつもいじわるをするからきらいだけど、パンサーはかっこよかったから、いいおにいちゃんだなあとおもいました。

ぼくがこのストラップをすきなりゆうは、ほんとうのいきものみたいに、はしったり、ほえたり、かみついたりしそうだからです。ぼくはこのまえテレビでほんとうのパンサーをみましたが、このストラップとすごくそっくりでした。

ぼくはこのストラップをけいたいでんわからはずして、たまにじぶんのかいじゅうとたたかわせることがあります。かいじゅうはおおきいからパンサーよりつよいとおもうかもしれませんが、パンサーはもっとつよいので、いつもパンサーがかちます。

これで、このさくぶんをおわります。

***

(三)

【結論】パンサーは男のヒーローである。



読んでくださる方がまいにち増えていて、作者として、とてもしあわせです。 サポートされたお金は、書籍代に充てたいと思います。