福祉屋として2

福祉屋として2。

この2ヶ月以上にわたる面会制限。制限とは言っても実質「禁止」なんだよね。全く会えないんだ。例外はほぼない。


それにもかかわらずほとんどの家族が週1で施設には来てくれる。うちはケアハウスという形態の施設で生活物品の補充や洗濯物などは家族にお願いすることになっているからさ。ほとんどの家族は週1回のペースで洗濯物を届け汚れものを引き取りに来る。その時も居室フロアには上がらず、事務所玄関前で職員による受け渡し。

僕は家族の顔が見えたら必ず出て言って声をかける。

まず謝る。不便をかけてすみません。オジィオバァの顔を見せてあげることができなくてすみません。って。すると全ての家族が言ってくれるのね。「いえいえ、こうやって守って貰って本当にありがたい」って。中には「職員の皆さんは元気ですか?疲れてませんか?」って我々を労ってくれる方もたくさんいる。一人として「いつになったら会えるんですか?」なんて聞いて来る家族はいないんだよね。

三日に一回は訪れる家族。入居しているオバァの年齢は109歳。その家族も80歳以上。会いたいはずなんだよね。家族自身も高齢で、いつ何かがあっても不思議じゃないんだ。会いたくないはず、ないんだよ。それでも毎回笑顔で「オバァが元気ならそれでいいよ」って言ってくれる。玄関先で汚れた洗濯物を受け取って「あんたがたが頼りだよ」って激励してくれる。

心が締め付けられるよ。



今週、一人のオジィが「御見送り」の段階に入った。訪問診療のS先生と相談して面会制限を一部解除し、家族に居室での面会をして貰った。

家族は妹。オジィは生涯独身で妹夫婦と家を隣り合わせて暮らしていた。妹夫婦の子供を自分の子供のように可愛がっていた。

これまでの面会制限の間も妹は子供や孫を連れて洗濯物を取りに来たり、好物の差し入れなんかに度々来た。もちろん玄関前での受け渡し。
いつも朗らかで明るい彼女はコロナ以前も面会の度にオジィに憎まれ口ばかり言ってた。面会制限に入り玄関での我々とのやりとりの際も「オジィがいうこと聞かなかったら叱ってくださいね〜」なんていう女性。我々も「そうですね、その時は『妹さん呼びますよ』って言いますよ」なんて答える。

昨日、彼女をオジィの部屋に通した。

彼女の第一声は「・・・にぃさん、久しぶりだね」。

オジィはね、もう答えられないんだ。瞼を薄く閉じて浅く短い呼吸を繰り返しているだけ。

彼女がオジィの顔を覗き込みながら何かを話し始めたのをきっかけに僕は部屋を出た。

高齢の兄妹。詳しい理由は知らないが結婚してない兄。その兄と家族同然に暮らして来た妹。きっと90年近く寄り添って生きて来たんだ。

さっき2ヶ月以上って一言に言ったけど、妹の「・・・にぃさん、久しぶりだね」の言葉に僕はただただ申し訳なくなった。

事前に告げていた面会時間を数分オーバーして彼女は部屋から出て来た。僕が次は電話で呼び出しになるかもしれないことを告げると彼女は「お願いします」いうように無言で頭を下げ、そして閉めたばかりのドアを少し開けて、小さく呼吸する兄に「にぃさん、またね」とだけ言った。

会いたい人に簡単に会いに行けない。この兄妹にとって今の状況の切なさは、僕たちのそれとは比べ物にならない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?