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「手のひらの京」 綿矢りさ氏著

暑い日が続きます。
少々お疲れ気味の週末、ほっこりとした優しい空気感のある(と想像した)本を読もうと、故郷の京都を舞台としたこちらの本を手に取りました。
しかし、時にほっこりしはするものの、予想外に(失礼)深みがあり、情念に捉えられ、時に考えさせられる、でも読後感はやはり静かに穏やかな作品でした。
Kindle本で一度読了したのですが、再読したり京都の友人に貸したくて改めて紙の本も買い求めたのでした。Kindleは貸し借りができないのが欠点ですね。

物語は、現代の京都に住む三姉妹とその家族、身近な周囲の人々のお話です。京都が舞台になるとありがちな伝統工芸や芸能、花柳界とは無縁の、普通の家庭で生まれ育った姉妹。
しかし平凡ではありつつも三人三様に個性が豊かで魅力的。
関連し合いながらも三人それぞれの物語を縦軸に、京都の街や行事、独特の価値観や風習ももちろん織り込まれています。

綿矢氏がWikipediaによると鹿苑寺近くのご出身ということもあるのでしょうか、三姉妹の住まいも左大文字の近くの設定です。
私自身の生活圏はどちらかと言うと五条より上の北山まで、堀川から東山まで方のエリアが生活圏で、同じ京都でも若干異なるのですが、そこは狭い盆地の京都。勝手知ったるエリアも登場し、情景を思い浮かべながら楽しむことができました。


府立植物園、琵琶湖、河原町、ホテルオークラ、マンガミュージアムに八坂神社、左大文字。。
左大文字は大徳寺から船岡山経由で散策した際に登ろうとして登り口が見つからず、確かに学校の私有地で普段は登れなかったのだよな。。
送り火を大文字焼きと言うのは意図的?それとも右京の辺りでは実際にそう呼んでいるのかな?

地名が明らかになっていない場所でも、登ったら展望台のあるのは船岡山かな?行ったらあかん川の方とは天神川のあの辺り?イルミネーションは西大路五条のあそこかな?
読み進めながら頭の中で想像が巡り楽しめます。

祇園祭の表現も、観光客視点ではなく、まさに地元民の視点から見た祇園祭。巻末の解説でも触れられていた「いけず」に関する記述などは、カフェで読みながら、その絶妙さに思わず笑ってしまい危ない人になってしまいました。

時おり、三姉妹の言葉に標準語が混じるのは、京都に生まれ育った綿矢氏が書かれること、TVの影響などで現代の若い女性の話す京言葉が実際にこの通りなのだろうななどと想像したり。

もちろん、主たる縦軸たる三人の個性は全くバラバラながらも艶やかに輝いており、文学作品として強く惹きつけられる磁力となっています。
私としては、三女の個性、キャラクター設定に一番惹かれました。
料理に対する捉え方と一見相反するような夢見がちな感性、京都という街に抱く心情。。

是非とも続編を期待したいところですが、見事なまでに余韻を残しつつ収束した終わり方からして、編集者に求められたとしても著者の中で既に完結した作品なのかもしれませんね。

京都に住む友人の感想を聞くのが楽しみです。


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