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異邦人(いりびと) 原田マハさん著

本を読むのが好きで、ジャンルを問わずゆっくりと乱読をしています。
そんな中でも、自身が生まれ育ち、地名や風物をよく知っている街が舞台になっている本には親しみが湧くもの。幸にして京都は、歴史小説や学術本でも舞台になることが多く、心惹かれる作品は尽きません。そんな中でも、最近読んだ中で特に印象に残っているのが原田マハさん著の「異邦人(いりびと)」。時間軸としては東日本大震災直後の京都を舞台にした小説です。
原田マハさんは、私が説明するまでもなく美術館のキュレーターもされている、美術作品や作家をテーマにした作品を多く書かれている方ですね。特に知識が無いなりに美術作品の鑑賞が好きなこともあり、また、原田マハさんの作品に通底する著者の心温かさによる読後感の心地良さもあり、「楽園のカンバス」や「生きるぼくら」「暗幕のゲルニカ」「ジヴェルニーの食卓」など好んで読んでいました。
そんな著者が京都を舞台にされた作品があることを知り、出版から6年を経て、遅まきながら手に取りました。
結果、最初kindleで読んだものを、書架が溢れているにもかかわらず単行本も買い求めるほど私には強く印象に残る作品となりました。
著者の作品らしくパウル・クレーやモネ、杉本博司やアンセル・アダムスは出てきます。それで、アーティゾン美術館に収蔵されたパウル・クレー作品を再度愛でに行きたくなったのも事実。ただ、それは主題ではなく、主題はあくまでも古都。現代も残る街としての古都と、有名な川端康成の「古都」からのインスピレーションのように思います。
今までの著者の作品にはあまり感じなかった情念や業の深さに吸い込まれてしまいました。ただ、僅かに違和感を覚えたのが、主人公の冒頭の人格の幼なさと、書きおろしではなく連載作品であったせいなのか説明の冗長さでしょうか。
二次元の地図上の軸では平安神宮、新門前、フォーシーズンズ、京セラ美術館、吉田の界隈、嵯峨野など。季節は紅枝垂れから、屏風祭としての祇園祭、送り火など四季全般、文化としての華道や香道など。そして京ことば。よくもこれだけ多くの京都のエッセンスを破綻なく自然にこのページ数の中で詰め込めたと感心することしきりです。京都が好きな方以外の方にも是非とも読んでみて頂きたい作品です。


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