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“たたかう本屋” No.2 いろは書店(石川県珠洲市)[その3] ~ 書店再開へ! 「人が住むには、文化もあった方が絶対いい」

少年ジャンプで連載されていた『暗号学園のいろは』の作者・岩崎優次さんの作品。タイトルは「ゴール・いろは書店で待ついろは」。偶然、同じ「いろは」という名称だったことから、「いろは書店」と『暗号学園のいろは』の間には、震災前から、いろいろな縁が生まれていた。詳しくは、「いろは書店」のFACEBOOKやX(旧Twitter)をご覧ください。[※1]

“さいはての地”の本屋 ~ 震災で ぺしゃんこに

能登半島の北端・石川県珠洲市にある『いろは書店』。
元日の大地震で、1階部分が潰れてしまった。

「地域の文化を守るためには、書店がないと駄目だ」 ━━━━

地震のわずか2か月あまり前、偶然、お会いした時に、熱い思いを語ってくれた店主の八木久(ひさし)さん。

先日、電話ではあったが、懐かしいお声を聴くことができた。

「いろは書店」店主 八木久さん

あの日 奇跡が起きた

━━ 地震当日の話なんですけれども、少し伺っても大丈夫ですか?

八木久さん) はいはい、どんなことでしょうか?

━━ 淳成さん[※2]が、ラジオでサンドウィッチマンさんにお話しているのを聞いたんですけれども[※3]、それによると、地震発生直後、久さんが、1階奥の物置に、懐中電灯を取りに行った。「そっちに行っちゃダメだ」と、皆さん、久さんを追いかけて物置に行った。かえってそれで、皆、助かった…という、お話だったんですけど。

久さん ) そうそう、そうですね。
もう午後4時10分ですから、薄暗くはなっていたんですけども、暗くはなってないんですよ。
ほんでまあ、外へ逃げ出さなきゃならないってことで、とっさに懐中電灯がいると思ったんでしょうね、私は。
懐中電灯が、いちばん奥の方に吊ってあったもんだから、それを取りに行ったってことでしょうね。

本が並ぶ1階フロアが崩れ落ちたのは、その直後だった。

━━ 奥の物置は無事だったんですか?
久さん) その部分だけ無事だったんです。今も無事なんです。
だから奇跡ですよね。
その部分だけは、ちょっと柱が余分に立っていたのか、壊れずに残っているんですね。

キッズ・コーナーの絵本を助け出してあげたい

━━ 1階の奥はキッズ・コーナーになってたじゃないですか?

久さん) はいはい。

1階奥の「キッズ・コーナー」。上の写真は、地震の2か月半前(2023年10月15日)の様子。
キッズ・コーナーは、書店(=本を売る店)にも関わらず、絵本も児童書も読み放題。子育て中の親御さんらの強い味方だった。

━ キッズ・コーナーと物置の位置関係って、どんな感じなんですか?

久さん) 横ですね。

━━ えぇっと、じゃあキッズ・コーナーの…

久さん) 隣ですね。コミック・コーナーがありましたでしょう?

━━ はい。

久さん) コミック・コーナーの奥の方が物置です。

━━ キッズ・コーナーの方はどんな感じなんですか?

久さん) 入り口が塞がってしまっているんです。
中に絵本が残っているんですが、なんとか助け出してやりたいと思ってるんですけどね。

「なんとか助け出してやりたい」 ━━ その言い回しに、久さんの、本への限りない愛情が感じられる。

久さん) まあ書籍ですから、腐ることはないからね。水にも、今のところそんなに当たってないんで、拾い出せると思ってるんですけどね。

市役所に避難

九死に一生を得た久さんたちは、市役所へ向かう。

久さん ) たまたま逃げたところが市役所だったんですね。
「津波が来るぞ!」ってことだったから、高いところへ上がらなきゃならんと思って、市役所の4階まで上がったんです。

それから2か月 ~ 書店再開へ

3月7日、NHKの昼の全国ニュースに、久さんと敦成さんの姿が映し出された。
行っていたのは、真新しい教科書を並べる作業。
まもなく新年度を迎える、珠洲の子どもたちのためだった。

久さんは言う。
「とにかく学校のために教科書を販売しなきゃならん。3月中にやってしまわんとね。やっぱり子どもたちは、新学期に新しい教科書をもらって、勉強するってことが楽しみになるからね。この時期に地元の本屋さんがいないと、大変、困るだろうと思って」[※4]  

久さんと敦成さんが準備に追われていた場所 ━━ そこは、長らく店を構えていた所ではない。

久さん ) 仮店舗を借りたもんですから、そこで教科書販売だけ、やり遂げてしまおうと思ってるんです。

━━ なるほど。

久さん ) それが終わったら、その仮店舗の中で、今までのような規模ではないですけど、書店らしきものを作っていこうと思っているんです。

━━ 仮店舗は、お店から近い場所なんですか?

久さん ) 覚えておいでますか? あの時、ほら…

━━ 「奥能登国際芸術祭」の関係ですか?  [※5]

久さん ) 芸術祭の時に、2階が会場になったところです。

━━ 能登半島の大きな地図が、床に描かれていた…? 

久さん) そうそうそう!

「奥能登国際芸術祭2023」で発表された栗田宏一さんの作品『能登はやさしや土までも』。能登の280集落から集めた約1600もの土の中から、500近い土を選別、能登半島の地図に落としこんだ。
およそ500か所の土は採取場所によって色が異なり、カラフルな、多様な能登半島の姿が浮かび上がる。今は全国で土を採取する栗田さんが、初めて土の魅力・美しさに気づいたのは、まさに珠洲だった。30年ほど前、焼き物や仏教について調べる中、「珠洲焼」に興味を持ち、何度も珠洲へ通うようになる。そんなある時、虹色に輝く土と出会った。 「露頭(地層や岩石が露出したところ)を見ると、紫から赤まで7色、全部ある。『なんだ、これは!』と思いました。空に架かる虹は皆、知ってるけど、地面に虹があることは誰も知らない。『これだ!』 と思いました」。[※6]

芸術祭で、能登の多様性を伝えた場所が、再開の拠点に

━━ あそこは、元はタクシー会社の営業所でしたよね?

久さん ) そうです、そうです。

仮店舗は、いろは書店の斜め向かい。かつては、スズ交通というタクシー会社の車庫兼事務所だった場所を借りたそう。[写真は敦成さん提供]

久さん ) 1階と2階の両方を借りたんですけど、2階は、息子が何か利用法を考えているようです。本屋に付設するカフェのお客様のためのフリースペースとか、コワーキングスペースとか…。

あくまでも前向きな久さんと敦成さん。聞いているこちらが元気になる。

書店を再開する思い ~人が住むには、文化もあった方が絶対いい!

━━ 久さんが去年の秋、「地域の文化を守るためには書店がないと駄目だ」って仰ったことが、すごく印象に残っているんですけど、震災に遭われて、改めて今、どう感じてらっしゃいますか?

久さん ) どうって…、とにかくこれから、この珠洲市、能登半島を復活させていく…。今までとは違った形になっていくとは思うけど、まあ、やっていかなならん…人間が住めるような場所にしていかなきゃならんと思うんですよね。

そうした場合に、やはり文化的なものもあった方が絶対いいと思うんです、必要だと思うんですよね。

それがなくなると、本当になんていうか…、味気なくなってしまうんじゃないか、そう思うもんですから。
まあ、私自身が寂しくなるっていうか(笑)。

━━ 今回、こんな風に店が壊れてしまっても、「やめる」という選択肢は考えなかったですか?

久さん ) そうですね。まあ、私が生きてる限りは、私のできる範囲内で、なんかかんかやりたい、っていうふうに思っているんですけどね、はい。


━━ 僕も是非、近いうちに、また珠洲の方にお邪魔して、何らかの形で応援ができればと思います。

久さん ) ありがとうございます。まだまだ道路事情も結構、悪うございますが…

━━ 「のと里山空港」から、そちらに行く道、まだ塞がってる感じですか?

久さん ) それは大丈夫です。飛行機で来れば、割と簡単に来れるんですね。

━━ そうですか、分かりました。

まだまだ本当に大変だと思うんですけど、応援しています。

久さん ) はい、ありがとうございます。

いろは書店復活プロジェクト『Reborn』

「地域の文化を守るためには書店がないと駄目だ」という久さんの想いに、都市住民がどう応えるか? 

その答えの一つが、「 いろは書店復活プロジェクト『Reborn』 」への募金。詳しくは、「いろは書店」のFACEBOOKやX(旧Twitter)をご覧ください[※1」。

下記に、趣旨や振込先を添付した。

久さんのキャラからはずいぶん離れた、ぶっ飛んだデザインだな、と思われるかもしれないが、これは息子の敦成さんが中心になって展開されている模様。

絶対に、この書店をつぶしてはいけない

僕は、そう思う。

とはいえ、大切なお金を付託するわけですので、上記のFACEBOOKやXなどをよくご覧いただき、納得した上で、行動していただければと思います。

[※1」 いろは書店
FACEBOOK  https://www.facebook.com/profile.php?id=100077472221389

X(旧Twitter) https://twitter.com/bookcafeiroha

[※2] 敦成(あつなり)さん ~ 久さんの息子さん。祭りが大好き。

[※3」 詳しくは、「 “たたかう本屋” No.2 「いろは書店」その2)~ 能登半島地震からの再生 」 を参照のこと。https://note.com/kazunote1016/n/n0581e82716fa

[※4] 本文でも取り上げたが、3月7日のNHKニュースで「いろは書店」が取り上げられた。それより詳しい内容がNHKニュースのホームページに載っている、そこで紹介された、久さん の言葉(一部リライトあり)。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240307/k10014381921000.html

[※5」 去年の秋、「いろは書店」を訪ねたのは、「奥能登国際芸術祭」の道すがらだった。「いろは書店」がある飯田町でも、いくつか作品を見ることができた。「能登はやさしや土までも」は、その1つ。

[※6] 「奥能登国際芸術祭」のホームぺージ、栗田宏一「能登はやさしや土までも」の作品紹介の記事を参考にさせていただきました。https://www.oku-noto.jp/ja/report_kurita.html



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