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“たたかう本屋” No.2 いろは書店・八木久さん(石川県珠洲市)[その1]        ~ なぜ、“さいはての地”で本屋を続けるのか?


“さいはての地”で出会った本屋

今、全国で毎日のように、書店や出版社が姿を消している。
そんな中、今も残る本屋は、どんな人が、どんな思いで営んでいるのか?

この秋、石川県珠洲市を訪ねた。
金沢から公共交通機関を乗り継げば、3時間半。
同じ県内であっても、この時間。

「さいはての地」と揶揄されることもあるこの街で、素敵な本屋に出会った。

いろは書店[石川県珠洲市飯田町]

木を上手に使った、人目を惹く外観。
そして、広くて明るい店内。

大地震にも耐えた

2023年5月5日、震度6強の地震が珠洲市を襲った。翌日、店の公式SNSにUPされた写真。幸い、大きな被害はなかった。

地元に根差した本屋

地元本のコーナー。雑誌「能登」はバックナンバーも揃えている。

どんな想いで、こんな素敵な本屋をつくりあげたのか?
店主の八木久さんに、お話を伺った。

儲けようとは思わない

店主の八木久(ひさし)さん。現在82歳。

━━  僕は旅が好きで、全国いろいろ行くんですが、地方の本屋さんって、正直、結構、寂れた感じのところが多いんですけど、ここはすごく明るいですね。

店主・八木久さん) 遊びでやってるからですよ。道楽でやるしかない。
これで一儲けしてやりましょう、なんて時代じゃない。

朝8時半に開くカフェスペース 

画面手前がカフェスペース。朝8時半の開店と共に営業開始。
この日は、地元小学校の課外授業で、子どもたちが来店。書店の歴史などやカフェのことなど、多くの質問があったとか。
カフェスペースの名物は、書店主・久さんの妻・留美子さんが手作りしたサンドウィッチ。ボリューム満点で美味!!

子育ての味方 キッズコーナー 

キッズコーナー。もとは絵本の読み聞かせ用のスペースとしてオープン。絵本や児童書などを自由に読むことが出来る。
久さんの娘さんのお子さんがかつて遊んでいたオモチャ。大きくなって使わなくなったものなどをいつの頃からか置くようになり、訪れた親子の憩いの場所になっている。

渋々、継いだ本屋

「いろは書店」の発端は、昭和24年に始めた貸本業。
久さんの父親・助一(すけいち)さんが実質的な店主だったが、当時、現職の高校教師だったため、妻の名義で営業。
昭和27年、教科書の販売をすることになり、助一さんは教師の職を辞し、名実ともに、書店主となった。

久さんは昭和16年生まれ。書店の2代目になる気は無く、理系の大学に進学。昭和38年10月、大学4年の時、三菱電機の子会社への就職が内定した。しかし、その一か月後、母親が亡くなったことで、状況が一変する。

八木久さん) 父親が「どうしても継いでくれ」って言うから、仕方なし(笑)。
ほんで、やるからには、なんとかかんとか本屋らしい本屋をやりたい、というのが若い自分の夢でしたね。

跡を継いで、およそ60年。
前述のように、カフェスペースやキッズコーナーを設けるなど、様々なアイデアで、店を活性化させている。

店には、久さんや妻の留美子さんとのおしゃべりを楽しみにやってくるお客さんも少なくない。

地域の交流の場となっているのだ。

「地域の文化を守るためには、書店がないと駄目だ」


八木久さん) 私がなんで本屋さんを続けているかっていったら、やっぱり

「本屋っていう商売は地域に大事なものだ」っていう思いがあるんですね。

損得じゃなくて
「その地域の文化を守るためには、書店がないと駄目だ」と。

まあ、このごろはネットで買える時代になりましたけどね。
でも、それはまた別のもので、

店で並んでるものを眺めて買っていく…というのは、やっぱり絶対、必要だと思うんですよ。

それで続けなきゃならん、っていう思いがあって…。

雑誌「能登」のバックナンバーが置かれるなど、地元関係の本は充実している。

にぎやかだった昭和時代、 現在の人口は最盛期の3分の1

昭和30年ごろの「いろは書店」

八木久さん) 高校生の多い時分は、ここ、毎日いっぱいでしたよ(笑)。毎日のように警察に叱られてね(笑)、自転車がよう置いてあって…。

そんな時代もありました(笑)。

いろは書店のある飯田町。昭和30年の風景。
街を人が埋め尽くす ━━ そんな時代もあった

珠洲市の人口は、昭和25年がピークで約 38,000 人。
令和4年の人口は約13,000人。
ピーク時に比べ、3分の1にまで激減した。

人口減少時代 これから先の本屋像 ~図書館の中に本屋

八木久さん) いやあ、長いことやってると、いろんなドラマがあったなって思い出すけど、

今、私が考えているのは…、これから先のこととして考えているのは…、

本屋っていう職業がもし無くなったとしても、
公設の図書館があって、
その図書館の中に本を買える場所があればいいなと。

この前、珠洲市に新しい図書館が出来たんですけども、
その時に、行政に私が提案したのは…、ぜひ考えてほしいと言ったのは…

【おそらくこのままで行くと、本屋は無くなる可能性がある。

だから先々のことを考えたら、図書館の中に本が買えるコーナー

要するに、
図書館にある本を手に入れたいと思う人がおいでたら、
すぐそこで注文すれば買えるような、そんな仕組みを作れんか?
それを、今まで本屋をやっておいでる人の中から残った人にお願いする ━━
そんな仕組みを作ったらどうですか?】

という提案をしたんですけど、行政側は「それは先の話だ」と(笑)。
「そんなの、もっともっと先の話だ」、
「その時に考えればええがやないか」というような話でしたけどね(笑)。

でもまあ、実際、そうなっていくだろうと思います。

ここだけじゃなくて、どこの田舎に行っても、そういう形で、
本屋と図書館が両立できる関係を作っていけば、まだまだ役に立つかなと?

考えてみればね、コンビニがあれだけ発達したのが、今、行きづまって、ドラッグストアがまた増えて、っていう時代になってきましたからね。

いずれ、どんどんどんどん、また新陳代謝が起こるだろうと思いますよ。

本屋で良かった

まあ、私は渋々、本屋を継いだけども、
今にして思うたら、本屋にしてよかったなと(笑)。

自分が好きな本をいつでも見られますからね(笑)。

それだけが役得かなと思います。

そんな感じに思ってますね。



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