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あなたの英語学習法は間違っていませんか? 言語学習の科学にもとづく学習法

「英語を勉強しよう!」
と思い立ったとき、どんな勉強方法を思いつくでしょうか。

・英会話レッスン
・ポッドキャストやTEDを聴く
・TOEICの問題集に取り組む
・語学留学
….

実は、よくあるこうした学習法は効果的ではありません。ムダではありませんが、非常に効率の悪い学習法です。たとえば、英会話レッスンだけで仕事で使える英語力を身に付けようと思えば、10年くらいかかると思っていたほうがいいです。徒歩で大阪から東京に行くようなものです。方法を間違えれば、いくら努力しても習得には時間がかかってしまいます。

この記事では、みなさんの貴重な時間やお金を誤った学習方法に投じてしまうことがないよう、外国語学習の科学や脳科学に基づいた効果的な英語学習の方法をお伝えしていきます。


インプット学習がなにより大事

第二言語習得論(Second Language Acquisition)などの研究によって、ヒトが外国語を効果的に習得する方法が明らかになりつつあります。
効果的な英語学習に必要なのは、つきつめると以下の2つです。

理解可能なインプットの反復 + アウトプットの必要性

これです。これに尽きます。特に左側のインプット学習が重要です。この原則さえきちんと理解して憶えておけば、語学学習の方法を大きく誤ることはありません。次でより詳しく説明していきます。

「理解可能なインプットの反復」とは何か

まずはインプットの方から細かく説明していきましょう。

理解可能な=
現状の自分の英語力で理解できる教材を選ぶのがよいです。難しすぎる教材は避けましょう。目安としては、辞書を引かなくてもだいたい何の話をしているのかが分かるレベルが最適です。

インプットの=
「話す」「書く」といったアウトプットではなく、「読む」「聴く」といったインプットを中心にしましょう。ちなみに音読練習は、音読する内容を自分で考えているわけではないので、インプット学習に分類されます。

反復=
同じ教材のインプット学習を何度も反復しましょう。ヒトの脳は、一度聞いただけで憶えられるような設計にはなっていません。長期的な記憶として定着するまで同じものを何度も繰り返す必要があります。

この「理解可能なインプットの反復」学習をコツコツ続けていくことでしか英語力は伸びません。
具体的なインプット学習の取り組み方は別の記事で紹介しています。合わせてお読みください。

なぜ英会話がダメなのか

英会話レッスンが非効率である最大の理由は、この「理解可能なインプットの反復」が得られにくい点です。

たとえるなら、初学者が英会話レッスンをするのは、サッカーの初心者が練習せず試合だけ出ているようなものです。
「試合の中でも成長できるだろ!」なんてお願いですから言わないでください。ボールを蹴る機会は22分の1しかありません。そもそも基礎が備わってない状態で試合に出たところで、プレーに関わることができず、何もできないまま試合が終わってしまいます。

ボールの蹴りかた、止めかた、ドリブルのしかたなど、基礎となる1つ1つの技術を磨いた上で試合に出ることで、はじめて実践の機会が活かされます。同じように、十分なリスニング力やインプットの蓄積があった上で、はじめて英会話の時間が有効な学習になります

"How's it going? "(調子はどう?)と聞かれたところで、そもそも"How's it going?"を聞き取れるだけのリスニング力がなかったり、自分の体調や気分を伝える表現を知らなければ、何の練習にもなりません。

自分が聞き取れない、話せないことを自覚しただけです。現状の確認ができただけで、何の習得も成長もありません。

また、その場で何か表現を教わって使ってみたとしても、ムダに終わることが多いです。たとえば、

"I'm sleep-deprived and feel really bad."(睡眠不足で気分が悪い)

という表現を教えてもらったところで、復習しなければ翌週のレッスンのときにはほぼ忘れています。頻繁に使うような表現でもないので、翌週のレッスンで再びこの表現を使う可能性も低いです。使わなければ、1、2ヶ月経ったころには完全に記憶から消えています。

忘れてしまうのは、みなさんの記憶力が悪いからではありません。反復しなければ忘れるようにヒトの脳はできているので、忘れるのは当然です。結果、気づいたら何の練習にもなっておらず、ムダな努力に終わってしまいます。

これは英語の勉強に限ったことではありません。何かを勉強したり、本を読んだり、講演を聞いたりしたら、2ヶ月後や3ヶ月後の自分に何が残っているのかを冷静に振り返ってみてください。行動や考え方やスキルに変化がなく、記憶からも消え去り、自分の中に何も残っていないのであれば、その学習法は見直さなければなりません。

その学習に意味はあるか

インプット学習が大事であるということをお伝えしました。読者のみなさんの中には疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。私は冒頭で、

・ポッドキャストやTEDを聴く
・TOEICの問題集に取り組む…

といった学習法も効果が薄いとお伝えしました。「インプット学習になってるのになぜ?」と思われたかもしれません。
これらの学習法じたいは悪くありません。問題は取り組み方です。

たとえば、下のTEDの冒頭10秒ほどを視聴してみてください。

"confession(白状、懺悔)"という単語が2回使われています。
まず、この単語を知らない状態で1、2回聞いたところで、ただの「わからない箇所」のままで何も習得されません。「"confession"という耳慣れない単語を聞いた」という経験すら、時間が経てば忘れ去られます。

字幕を出しながら視聴したり、視聴後にスクリプトを見たりすることで、"confession"という単語やその意味を確認する方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、繰り返し復習しなければ、おそらく1ヶ月後には忘れているでしょう。「えーと、なんだっけ、、、そうだ”白状”という意味だ」と思い出せる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、リスニングにおいても、リーディングにおいても、スピーキングにおいても、瞬時に発音や意味を引き出せる単語でなければ活用できません。「意味をなんとか思い出せる」レベルでは意味がないのです。実践の場では「意味を瞬時に自動的に引き出せる」レベルで記憶していなければその語彙は使えません。

TEDやポッドキャストを聞いたり、TOEICの問題集を解いたりするのがムダな努力に終わりがちなのは、必要なレベルまで十分に定着するための反復学習を行っていないことが最大の原因です。これまでたくさんの方の相談に乗ってきましたが、学習の成果が上がらない一番の理由は、スクリプトや日本語訳を見て憶えた気になったり、答え合わせをして解説を読んで理解した気になっただけで、記憶に定着させるための反復を行っていないことです。キツい言い方で申し訳ないですが、「勉強した〜!」という満足感以外の何も得られていないのです。


アウトプットの動機や必要性

ここまで、
英語学習の成功には「理解可能なインプットの反復 + アウトプットの必要性」の2つが必要
ということをお伝えした上で、
特にインプットを記憶に定着するまで反復することが重要
という話をしてきました。

次に、「アウトプットの必要性」の部分をお話します。

くどいですが、大事なのはインプットです。十分なインプット学習がなければ習得はできません。しかし同時に、ただインプットするだけでは話せるようにはなりません。
外国語学習の科学では、アウトプットの動機や必要性を感じながらインプット学習を行うことで最大の学習効果が得られると言われています。

たとえば、読めるけど書けない漢字ってたくさんありますよね。読めること(インプット)と書けること(アウトプット)には大きな差があります。

ある漢字を、一度も見たことがないのに書けるようになる人はいません。そういう意味でインプットは必須なのですが、同時に、読めるようになるだけでは書けるようにはなりません。「書けるようになるぞ」という動機を持つことで、より漢字の形を詳細に眺めたりするなど、インプットの質や集中力が向上します。

同様に「読んで・聞いて理解できる語彙」と「話すときに使える語彙」の間にも差があります。ただインプットするだけではなく
「いま聞いている内容を自分で説明できるようになろう」
「今読んでいる内容をメモにまとめよう」

といったアウトプットの必要性を感じられる工夫をすることで、インプット学習の質が向上します。

語彙力は「知っている」「知らない」の0か100かではなく、グラデーション。より右側の語彙を増やすためには「インプットの反復」と「アウトプットの動機」が必須。

こうした「アウトプットの動機を感じる」ための工夫として英会話レッスンなどを取り入れるのは効果的です。英会話はあくまでインプット学習の動機や効果を高めるための調味料にしかなりません。しかし、多くの人はインプット学習なしに英会話だけやってしまっています。醤油とみりんだけで親子丼を作ろうとしているようなものです。


まとめ

長くなりましたが、今回の話を簡単にまとめると、

  1. インプット学習の反復がなにより大事。忘れるのがデフォルトなので、瞬時に引き出せる記憶として定着するまで、同じ教材のインプット学習を何度も繰り返すこと

  2. インプットで理解できる記憶と、アウトプットのときに引き出せる記憶には差がある。アウトプットの必要性を感じながらインプット学習をすることでインプット学習の質や効果が高まる

ということがお伝えできていれば幸いです。
具体的なインプット学習の取り組み方は、こちらの別の記事で詳しく書いています。ぜひ合わせてお読みください。

これまでたくさんの方の英語学習をサポートしてきた経験から思うのは、英語学習の効果が上がらないのは、みなさんの能力や適正の問題ではなく、学習方法の問題です。どれだけ能力やモチベーションが高くても、方法を間違えれば効果は上がりません。

みなさんが学習の方法を見直し、英語を身につけて人生の可能性を拡げるきっかけになれたら幸いです。
みなさんの貴重な時間を割いて最後まで読んでくださったことを心から感謝します。

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