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冬を感じる

手の甲に君のスマホが触れる。
ヒヤッとした感触が『もう秋が来てるんだ』って気づかせてくれる。

「そろそろ起きない?」
まだ頭がぼんやりする中で君にたずねた。

「もう少しこのままで」

「起きないとそろそろ昼だよ」

柑橘系の匂いがするシーツにくるまりながら、ぼくにこう聞く。
「あなたの生きる目的は?」

思いがけないことを聞かれて戸惑ったけど、すんなりと答えが口からこぼれる。
「君のために生きる」

「じゃあ、私のために死ねるの?」

「それはできない。一緒に生きる道を探す」

「あなたって変わってるって言われるでしょ?」

「そんなふうに言ってくる人はだいたい友だちになれる」

「あなたって変な人」

困惑したような嬉しそうな、あいまいな表情を君は浮かべる。

「やっぱりまだ起きないでおこう」

「そうね、今日は文化の日。国民の祝日よ」

「ぼくたちって国民なのかな」

「ある意味ではね」

「ある意味ってどういうこと?」

「映画を見て涙を流しても、コンビニに行って税金を納めるってことよ」

「君もじゅうぶん変わってるね」

「そう言ってくれる男性とは仲良くなれる気がするわ」

「ぼくたちって気が合いそうだね」

「ある意味ではね」

ぼくたちはまた一緒の布団にくるまった。
君のぬくもりがぼくのぬくもりと合わさり、ゆっくりとバターのように溶けていく。

まだ秋は始まったばかり。
冬はこれからやってくる。

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