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【読書録】健康って素晴らしい - 2019年7月&8月号

ここだけの話。夏の初め頃に左手の肘を負傷してしまいました。おまけに神経を痛めたようで左手の指にも軽度の痺れが残っています。日常生活に大きな支障はないけれど、PCのキーボードをカタカタするにはコレがもの凄いストレスで、記事を書くのに集中できない日々が続きました。

今ではだいぶ回復したので、これからたくさん記事を書いていきたいと思っています。ストレスなく指が動かせるってほんと素晴らしい。

そんなわけで2ヶ月遅れですが、7月と8月の読書録です。夏は繁忙期で忙しかったから冊数も少なめ。秋はもっと本読みたいなあ。

『行きたくない』/ 著・加藤シゲアキ 他

「行きたくない」をテーマに、6人の作家さんが参加するアンソロジー小説短編集。小嶋陽太郎さん目当てに購入したのですが、その短編『シャイセ』が本当に素晴らしいの一言でした。

毎朝ベッドから落ちて目が覚めるくたびれたOLと、彼女が通うコンビニで働く女性店員、互いに名前も知らないふたりの友情物語。ストーリーの展開とか落としどころ、そして何よりも、「行きたくない」のテーマを見事に描いたキャラクターがすごく良くて、40ページ以下の短編とは思えない読み応えがあります。長編小説を夢中で読んだような満足感!

他の短編だと、渡辺優さんの『ピンポンツリースポンジ』も抜群に良かったです。家庭用ロボットが普及している近未来、いつも通りに主人公がロボットと会社に行こうとすると、ロボットは「行きたくありません」と出社を拒否。どうしてロボットは命令を無視したのか? というストーリー。ロボットたちがすごく可愛くて、登場人物たちの会話テンポも軽快で読みやすかったです。

渡辺優さんの作品は初めて読んだのですが、実に素晴らしい作品でした。ちょっと興味が沸いてきたかもしれません。


『きみを忘れないための5つの思い出』/ 著・半田畔

半田畔さんの4つの短編が収録された連作恋愛小説。人々の記憶から簡単に消えてしまう転校生と、絶対の記憶力を持つ少年の物語『きみを忘れないための5つの思い出』。彼女に恋した人間はなぜか視力を失っていく、だから他人を拒絶し続ける、『見る見るうちに』。両親の死がトラウマで学校から下校できない彼女、『教室姫』。事故が原因で眠り続ける彼を病院に見舞う彼女にある日、一通のメールが届く、『きみとつながるサテライト』。

それぞれの短編は「不思議な出来事」と「恋愛」のふたつを軸にストーリーが進んでいきますが、出来事そのものは重要ではなく、登場人物たちの行動にこそ面白さがあります。私的には『教室姫』がすごく良かったです。もうね、胸にグッときました。それと、『きみを忘れないための5つの思い出』に出てくる「セミのぬけがら族」のフレーズとか実に素晴らしい。こういう素敵な文章は一体どこから沸いてくるのでしょう。抜群の言葉選びのセンスに惚れ惚れしちゃいます。


『スズメバチの黄色』/ 著・ブラッドレー・ボンド 他

小説『ニンジャスレイヤー』のスピンオフ作品。ネオサイタマを舞台にヤクザ間の抗争に巻き込まれていく少年たちの運命が描かれていきます。

ニンジャスレイヤー本編を読んでいなくても楽しめる完結型のストーリー、本編よりも抑え気味にまとめ上げた良質な翻訳文章、アクション映画を思わせるスピーディーで迫力あるシーンの数々、そして何よりも魅力的なキャラクターたち。これまでニンジャスレイヤーを読んだことのない人にもオススメしたい最高の小説です。ここから、この魅力的な世界の作品を知って欲しい、そんな一冊。ソンケイを信じるんだ。

「ソンケイ」という概念が私はとにかく好き。だから『スズメバチの黄色』は『マグロ・サンダーボルト』に並ぶ名作だと言える。


『姿勢としてのデザイン 「デザインが変革の主体となるとき」』/ 著・アリス・ローソーン

デザイン評論家のコラム集。「デザインをすることは職業ではなく姿勢である」という言葉に惹かれて読んでみました。デザインの手法や技術ではなくて、その本質を探る一冊です。

技術革新や社会変革など、実際に世界中で果たされたデザインの実例が幅広く紹介されていて勉強になりますが、その内容は広く浅くな感じです。興味深い内容も多々あるけれど、固有名詞の羅列など退屈な文章も見受けられて、何かと読みにくいと感じてしまいました。

デザインについて学びたい方にはオススメの一冊。


『超図解 ぬまがさワタリのふしぎな昆虫大研究』/ 著・ぬまがさワタリ

ぬまがさワタリさんの最新作、今度は虫! また、本作はガイド役が全員女性というたいへん野心的な作品でもあります。著者の過去作を見れば納得の方針ですが、これがたいへん良いです。エピローグのひかりさんとかいと尊しです。ほたるさんカワイイヤッター!

昆虫大好きな男の子(もちろん女の子も)がこの本を読んで育つ、にほんのしょうらいはきっとあかるい。ぬまがさワタリさんはボルバキアみたいな人だよね。語弊があるけども。

もちろん昆虫紹介の内容も充実して大満足な一冊。中でも、フンコロガシさんが星空を見上げて移動するなんて驚きでした。


『ある一生』/ 著・ローベルト・ゼータ―ラー

20世紀の初頭、オーストリアの農場に引き取られた幼い子ども、エッガ―の一生を描いたフィクション小説。農場主の体罰が原因で一生付き合うことになる右脚の障害、雪山で出会った瀕死のヤギ飼い、生涯忘れ得ぬ最愛の人、そして、戦争の始まりを告げるラジオの音……。

ひとつの時代を歩き抜いた男の生涯はあまりにも過酷で、残酷で、けれど幸せに溢れ、切なく胸を打ちます。そこまで文章量のある小説ではありませんが、静かに吸い込まれるような文章は美しくて読み応えがありました。

とても素晴らしい小説です。


『きみの存在を意識する』/ 著・梨屋アリエ

ディスレクシアなどの学習障害を抱えて生きる子どもたちを描く連作短編小説。ディスレクシアとは、字を読むことに困難がある学習障害のことです。恥ずかしながら本書を読むまでその名称を知りませんでした。その他にも書字障害(字を書くことが困難)や化学物質過敏症など、何かしらの困難を抱えた「普通ではない」子どもたちが登場しますが、そもそも「普通」とは何なのかと考えずには、いられない作品でした。

ネタばれは控えますが、ハッとさせられる物語構成が実に素晴らしい。ひとりでも多くの子どもたちと、そして大人たちにこそ読んでもらいたい傑作小説。


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