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君と語りたい本がある。四冊目『群青ロードショー』/ 著・半田畔

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個人的な2019年のベスト小説に推したいのが、半田畔さんの『群青ロードショー』。4人の映画好き女子高生たちがオリジナル映画の撮影に挑む青春小説です。

主人公で語り部の朝宮陽は、「視聴覚文化歴史資料研究同好会」という活動内容の分かりづらい同好会を隠れ蓑に、友人たちと映画鑑賞を楽しむ高校生活を過ごしていました。

恋愛や青春ものが好きな。お嬢様なのにホラーが好きなミーコ。サスペンスや深いテーマ性のある作品が好きないおり。ど派手なアクションが好きな学校一の問題児ナツ

メインキャラクターの女子高生4人は映画の好みも性格もバラバラですが、「映画が好き」という点でとても仲の良い、愛すべき映画ジャンキーたちです。彼女たちの映画談義を読んでいるだけでも面白いのがこの作品の良いところ。序盤の『ゼロ・グラビティ』や『タイタニック』の話題など、映画を観ていなくとも情景が目に浮かぶ会話はとても楽しく、彼女たちの感性や個性が光ります。

ただ、この小説は単なる映画談義では終わらず、オリジナル映画の撮影を始めるところから加速度的に面白くなるのです。

気の合う友人たちと楽しい日々を過ごす一方、大学受験を前にして皆の進路が別れることに不安と寂しさを感じていた陽は、ある日『シング・ストリート 未来へのうた』という80年代のダブリンを舞台にした青春映画を観て、自分たちだけの映画を撮りたいと決意します。映画の撮影という行為を通じて、二度と忘れられない思い出を作り、友人たちとの関係性を確かなものにしたいと願ったのです。

普段は消極的で臆病な性格だけれど、後悔だけはしたくなかったから、陽は勇気を振り絞って皆に問いかけます。

みんなで映画を撮らない?

そして始まる、高校生活最後の1年をかけた映画撮影。これが本当に面白いのです。どんな映画を撮る? 脚本はどうする? カメラが高すぎて買えない! 受験勉強もしなくちゃ! 問題は山のようにあるけれど、そのひとつひとつを皆で乗り越えていく達成感、そして映画のシーンが完成して初めて味わう喜び。そんな毎日がすごく楽しくて、読んでいてもワクワクする気持ちが抑えられません。

また、映画撮影を始めたことで友人たちの意外な一面も見えてきます。やりたい事とか、将来の夢とか、話したくない過去の出来事とか、たとえ仲の良い関係でも人はどこかで一線を引いているものです。でも、陽の勇気ある一歩が次第に友人たちとの距離を変えていきます。仲の良い友人から、心から信頼し合える親友へと。その友情がとても美しく、私の胸を心地良く震わせました。


映画とは何なのか」「友だちとは何なのか


『群青ロードショー』の根底にあるテーマは、この大きな二つの柱だと私は感じています。そして、これらを見事に描き切った著者の半田畔さんに、私はすっかり一目惚れしてしまいました。本当に2019年のベスト小説に推したい一冊です。

キャラクター同士の関係性、映画の撮影を通じて成長していく心、そして最後には自分たちなりの答えを導き出せた達成感や充実感。まさに青春小説の面白いところを見事に重ね合わせた王道的な傑作小説と言えるでしょう。本当に、物語のクライマックスは最高の一言です。あのシーンをとにかく読んで欲しい! 味わって欲しい! 拍手喝采を送りたくなるからッ!!

映画が好きな人も、あるいは私のようにこれまで映画をあまり観て来なかった人にも、ぜひ読んでいただきたいオススメの小説です。きっと映画を観たくなることと思います。私のように。


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