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【読書録】ここ最近のベストヒットは『群青ロードショー』 - 2019年4月&5月号

4月と5月はヤバかった。なんか色々とタイミングが重なって、3月の末に職場の人が半分も辞めちった。離職率50%とか全然嬉しくないぞ。

そのフォローで毎日しんどいし、すぐさま地獄のGW10連休。正直、生きた心地がしなかったですね。連休が続けばそれだけ仕事は増えるし、別に平日お店が休みになるわけでもないので、疲労だけがたまっていく。おかげさまでGW終わってから風邪で体調を崩してしまいました。これだからサービス業は。ぐえー、温泉行きたいーッ!

そんなわけで2ヶ月分の読書録です。買ったはいいけどまだ読んでいない本もだいぶあるし、冊数は少なめ。そんな中でも『群青ロードショー』がとても面白かった小説で、すごくおすすめしたい一冊です。


『麦本三歩の好きなもの』/ 著・住野よる

麦本三歩は歩くことが好きな人間。さらには本が好きで大学図書館で司書をしている。休日は一人で過ごすことが多く、彼氏は今はいない。甘いお菓子に目がなく、脳天気に日々を過ごしている。

職場の優しい先輩や怖い先輩、おかしな先輩、そして大学時代の友人の彼や麗しき友人たちに囲まれて、三歩は今日も気ままに……三歩として生きている。

住野よるさんの新作小説。これまでの作品とはだいぶテイストが違い、表紙もがらりと雰囲気を変えてきました。最初は住野さんの本だと思わなかったくらいです。

日常生活を通して主人公の人間性が描かれていくも、ストーリーに起伏はほとんど存在せず、大きな事件が起こることもありません。正直、あらすじもあってないようなもの。脳天気で底抜けに明るい、けれど少しは悩みも抱えて生きる三歩のキャラクター性こそが、この作品の肝となります。

何もない日常だけれど、小さな何かが毎日起きている。そんな些細な発見や喜びに気づくことが楽しい作品。


『菜の花工房の書籍修復家 大切な本と想い出、修復します』/ 著・日野祐希

進路に悩む高校三年生の三峰菜月は、ボランティアをしている市立図書館の紹介で図書修復入門講座へ参加することになりました。講師として呼ばれたのは書籍修復家の豊崎俊彦。年老いた彼こそ、かつて菜月が幼い頃に大切な絵本を修理してくれた、優しいおじいさんその人だったのです。

運命的な出会いを感じた菜月は書籍修復家を目指し、豊崎の弟子になるべく『菜の花工房』の門を叩きます。けれど、豊崎は「弟子を取る気はない」の一点張りで……。

書籍修復家という職業を題材にしたお仕事小説。書籍修復家が実際にどんな仕事をしているのか詳しくは知らなかったので、興味深く読むことができました。修復手順が分かりやすいように図解が掲載されていたのも良かったです。

頑なに弟子入りを拒む職人の豊崎、弟子入りを絶対に諦めない猪突猛進の菜月、ふたりの人間ドラマも面白く魅力的。登場する本は和書、それも古書が中心でしたので、ぜひ洋書についての物語も読んでみたいところです。


『気障でけっこうです』/ 著・小嶋陽太郎

きよ子が公園で見つけたのは首まで地面に埋まった変なおじさん。人生の小路に潜む落とし穴にはまったと言うおじさんをきよ子は助けようとするも、車にはねられて気がつけば病院のベッドの上。そんな入院中のきよ子の前に現れたのは、幽霊になった変なおじさんでした。

「あなたのせいで私、死んだんですよ」

女子校生のきよ子と変な幽霊おじさんのどこか変な物語。第16回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した、小嶋陽太郎さんのデビュー作です。

これがデビュー作とか天才かッ!? すっごい面白かったです! この小説を読んで、ますます小嶋陽太郎さんの作品が好きになりました。ヘンテコな展開から始まる物語ですが不思議と先を読ませる魅力があり、気がつけば最後まで楽しく読んでしまう面白さがあります。

奇抜な設定、いつの間にか引き込まれる文章、そして気持ちの良い読後感。この辺りが小嶋陽太郎作品を好きになった私の理由でしょうか。読んでいるとすごくワクワクするけれど時々悲しくて、でもやっぱり楽しい。さあ、次はどの小説を読もうか!


『デザインノート No.83』/ 誠文堂新光社

デザインノートによる「色彩」特集号。デザイナーを目指している、色彩に興味がある、そういう人は絶対に買うべきな一冊です。私自身、色彩に興味があって買った本ですが、めちゃくちゃ参考になりました。

色彩の基礎知識、配色のアイデア、実作の参考例などが豊富で、誌面のデザインもすごく見やすく作られています。この本の全てがデザインを学ぶ上で参考になる一冊です。「完全保存版!」を謳うだけはあります。


『桜風堂ものがたり 上下』/ 著・村山早紀

書店員の月原一整は学生時代から10年働いた書店を退職することになりました。万引き犯の少年が交通事故に遭い、直前まで追いかけていた一整が謂われの無い糾弾を浴びたことが原因です。顔写真がSNSで拡散され、書店にはクレームの電話が鳴り響く。同僚たちは庇ってくれたけれど、そのすべての責任をひとりで背負い、一整は書店を立ち去ります。

一整にはひとつだけ心残りがありました。それは近いうちに発売される予定だった一冊の文庫本。この本は売れる。きちんと売れば必ず売れる。でも、書店員を辞めた一整にはその願いを叶えることは、もうできません。

2017年本屋大賞の5位入賞作、村山早紀さんの『桜風堂ものがたり』の文庫版。上下巻で繋がる表紙が素晴らしい。

書店員の矜持を描いたこの小説が私は大好き。自分自身は書店員ではないけれど、読書好きなひとりとして「書店を応援したい」と強く感じた作品です。単行本持ってるけど文庫本も買っちゃった。しかもサイン本。やったぜ!


『やがて君になる 7』/ 著・仲谷鳰

燈子に想いを伝えた侑だけれど互いの気持ちはすれ違ったまま、燈子と沙弥香は修学旅行へ旅立ってしまいます。心が麻痺したように涙も流れなかったい侑は、ただひとりで燈子たちのいない学校に残されてしまいました。

一方、修学旅行で燈子と向き合う決意を固めた沙弥香。これまで隠し続けてきた自分の想いを、ようやく口にする時がやってきます。

待ちに待った仲谷鳰さんのやが君第7巻。あ゛ーッ! あ゛あ゛ァーッ! 第8巻が待ち遠しい!!!

もうね、言葉はいらないね、もう、全てが素晴らしい。

この感想上手く伝わるかわっかんねーのですが、39話のラストのラスト、一枚の紙の表と裏で同時に駆け出す侑と燈子がめっちゃ好きです。紙の本だから、うっすらと次のページが透けて見えるのが本当にたまらない。


『やがて君になる 佐伯沙弥香について 2』/ 著・入間人間

もう人を好きになることはない。そう思っていたはずなのに、彼女を一目見た瞬間、恋に落ちてしまった。高校に入学したあの日から、燈子にどうしようもなく惹かれていく沙弥香。同じクラスで、同じ生徒会で、同じ日々を過ごす内に親しくなっていくふたり。けれど本当の気持ちはいつまでも伝えられないままで。

入間人間さんによる『やがて君になる』のスピンオフ小説。あ゛ーッ! あ゛あ゛ァーッ! 沙弥香ーッ! さ゛ぁややぁぁか゛ぁぁぁぁああ゛ーーッ!!

沙弥香は本当に良いキャラ。マンガとは違う小説という媒体だからこそ、より深くその心情を掘り下げることができて、その魅力が何倍にも増していくようです。こんなに素晴らしいスピンオフ作品はなかなかお目にかかれません。3巻の発売も決定しているとのことなので、ただただ感謝感謝。


『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』/ 著・武田綾乃

北宇治高校吹奏楽部の部長として高校3年生に進級した黄前久美子。新入生たちも迎えて新たな体制で挑む高校最後の1年間、もちろん目指すは全国大会金賞。

そんな折、久美子のクラスに転入生がやってきます。吹奏楽の強豪、清良女子高校からやってきた黒江真由。久美子と同じユーフォニアム奏者の彼女は即戦力であると同時に、オーディションを競い合うライバルでした。

武田綾乃さんのユーフォシリーズ最新作。いよいよ3年生になった久美子の最終楽章が始まりました。第二楽章の映画も公開されて、しかも最終楽章の映像化も決定して、いよいよユーフォシリーズもクライマックス。

久美子も最終学年ということでストーリーは比較的安定しているものの、まだまだ何か起こりそうで胃がキリキリしてしまいます。オーディションの緊張感とか冷や汗が出てくるくらい。

ユーフォシリーズの結末を迎える後編は6月22日発売。もうすぐです。どんな展開になるのか、今からすごく楽しみ。


『群青ロードショー』/ 著・半田畔

朝宮陽は映画好きの仲間たちと一緒に映画三昧の生活を送る高校3年生。これまでの人生、引っ越しや進学で3年ごとに親しい友人と別れてきた陽は、高校卒業で皆の進路が別れることに不安と寂しさを感じていました。

高校を卒業する前に皆で思い出に残ることをしたい。そう願った陽は、皆で自分たちだけの映画を撮ることを提案します。

映画好きの女子校生たちが自作映画の撮影に挑む、そんなど真ん中ストレートの青春小説。これがすっごい面白い作品でした。個人的な2019年ベスト本10冊に入りそうな予感です。

物語自体はストレートな青春小説ですが、登場人物たちのキャラが立っているところがすごく良い作品。4人の女子校生たちの送る青春が本当に楽しそうで、キラキラしていて、羨ましくて、ただただ眩しくて仕方がありません。

そして映画がテーマということで、実在する映画の話題もたくさん登場します。観たことのある映画が出てくればどこか嬉しくなるし、知らない映画でも話を読んでいるだけで楽しくなってくる。そんなワクワクする映画の面白さに満ちたところもこの作品の良いところ。さっそく触発されて『ゼロ・グラビティ』観ちゃったよ。めっちゃ面白かった。

著者の半田畔さんは今作で初めて読んだ作家さんですが、文章がすごく良いと感じました。テンポが良く、読んでいて心地良かったですし、グッとくる文章がいくつもあります。主人公の陽が想いをぶちまけるシーンとか本当に素晴らしい。

半田畔さん、これから注目していきたいと思います。

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