超主観的ボカロ史 電脳世界を彩る音楽たち 番外(2017~2020)編

こんがお!

どうも、苗輪和音です!

さて、今回は【超主観的ボカロ史】番外編です!

2017年~2020年までのボカロ作品を各年3作品ずつ紹介していきます!


それではどうぞ!

※記事上部に「新型コロナウイルスに関する記事です」と出ておりますが、とあるボカロ作品が登場した時の世相の説明として名前を出しているだけで、その他の大部分では全く触れておりませんのでよろしくお願いします。



【超主観的ボカロ史 番外編】


ハチ MV「砂の惑星 feat.初音ミク」


2017/7/21

 ハチ氏の作品。
 これまで数々の名だたるボカロPが務めてきた「マジカルミライ」のテーマソング。
 その中でも初音ミク「マジカルミライ2017」初音ミク誕生10周年という記念すべきイベントであり、そのテーマソングとして製作されたのがこの『砂の惑星』という作品である。
 2013年の『ドーナツホール』から4年の月日を経て世に送り出された本作にはハチ氏がボカロPとして、また一ボカロリスナーとして見てきた「VOCALOID文化」が描かれている。
 その実例として挙げるならば2番の歌詞であろうか。「メルトショック」「ねえねえねえ あなたと私でランデブー?」「光線銃でバンババンバン」などこれまでのボカロ文化に多大な影響を与えた作品たちを想起させる言葉たちが立て続けに登場する。
 上記の例以外にも沢山登場するので興味がある人は実際に聴いてみるといいだろう。
 歌詞全体の意味やハチ氏の作品にはお馴染みである南方研究所の製作したMVの意味の解釈など、そう言った事は誰かが勝手にどうぞされているのでここで多くを語る事はしないが、この作品が『VOCALOID』とその周囲に発生した文化が進んでいく為の新たな旗印となった事は間違いないだろう。





命に嫌われている。/初音ミク


2017/8/6

 カンザキイオリ氏の作品。
 現在、音楽家としてだけでなく作家としても活動する氏が広く世に知られる事になった作品であり、ドラマチックなメロディー死生観などをテーマとして描かれた歌詞が特徴である。
 こういった内容の作品は他のタイプの作品に比べて好みが聴く人の感性に委ねられやすい。
 もちろんそれは当たり前なのだ。「自分へ向けて歌ってくれているみたいで好き」や「暗くて辛くなるから嫌い」などいろんな感想を抱くだろう。もしかすると「自分に向けられて歌われているようで気持ち悪くて嫌い」という意見もあるかもしれないし「一つの音楽という観点で純粋にメロディーや歌詞のリズムを楽しんでいる」という意見もあるだろう。
 そういった多様な意見が出てくるのは本作をそれだけ多様な人が聴いているという事の証であり、健全なのだ。そんな意見に勝手に一喜一憂するのも自身の心を育む過程の一つだろう。
 よく聴くとこの作品のメロディーラインは感動的ではあるものの物悲しさが感動を生んでいるのではなく、澄んだ空気の中の朝焼けの様な美しい明るさで感動を生んでいるのである。
 この作品が持つそんな美しさに救われた人も多いのではないだろうか。




ドラマツルギー / 初音ミク


2017/10/10

 Eve氏の作品。
 現在シンガーソングライターとして飛ぶ鳥を落とす勢いのEve氏がボカロ作品を製作していた時代の代表作の一つ。
 その独特な空気感とメロディーやリズムのハイセンスさなどがボカロメインリスナー層である若年層に大きく支持され、SNSを中心としたインターネットでの爆発的な広まりを見せた。
 結果、幅広い層から支持を受けEve氏がソングライターとして絶大な人気を博すきっかけとなった。
 流行の移り変わりが激しいボカロ文化の中にあっても本作は未だに人気が衰える事はなく、むしろ普遍的な評価を得ている作品だと言えるだろう。




メルティランドナイトメア / 初音ミク アニメMV


2018/2/16

 はるまきごはん氏の作品。
 2014年から活動を始めた氏の16作目の作品であり氏の代表作の一つである。
 淡々と爪弾かれるギター歪んだ音が特徴的な所謂“泣き”のギターの両者がイントロに入ってきたりスラップベースになったり、メルヘンながらもロックの要素が根底に見える世界観示唆に富んだ多くを語らない歌詞はるまきごはん氏自身が描いているMVの可愛らしいアニメーションなど、様々な魅力がある本作は海外からの評価も高く、公式YouTubeチャンネルに投稿されている『メルティランドナイトメア』には英語やスペイン語など様々な言語で本作を評価するコメントが見られる。
 そして本作は一般の人々からだけでなくロックバンド・ポルカドットスティングレイのギタリスト・エジマハルシ氏やバンド・Miliのギタリスト・Yamato Kasai氏らも本作が投稿された際に自身のTwitterにて評価を記している。
 まだ投稿から3年ほどしか経っていないので確証はないが、恐らく10年や20年、50年経っても評価される作品なのではないだろうか。




ロキ/鏡音リン・みきとP


2018/2/27

 みきとP氏の作品。
 個人的に「ボカロック(VOCALOID作品の中でも特にロック作品を指す言葉)」という黎明期からあるジャンルの一つの到達点だと思っている。
 Oldiesのアメリカンロックを感じさせるギターの音色やひたすらスラップ奏法をかますベース、コンガと思われるパーカッションの音色などそれらの音の持つ本質をしっかりと捉え現代のロックとして完成させている事はまず凄い。
 更に鏡音リン&みきとPという「ボカロ」と「人間」のデュエットが全編で行われていたり、ボカロ作品全体を見ても中々ない「ボカロのがなり」が効果的に用いられていたりなど新たな表現を模索するボカロ作品として見ても完成されている。
 そもそも「ボカロのがなり」の話題に持っていかれがちだが、みきとP氏のがなりも中々のものであると思う。
 上記のように様々な視点から見ても非常にハイレベルなロックナンバーであり『VOCALOID』といういちジャンルだけでなく『ロック』という大きなジャンルという広い範囲で評価されるべき作品ではないだろうか。





ベノム / flower

 

2018/8/2

 かいりきベア氏の作品。
 2018年8月5日に開催されたv flowerオンリーのDJ・ライブイベント『v flower DJ NIGHT』のテーマソングとなった本作は、カッティングが気持ちいいポップなギターが特徴。
 2012年大ヒット作『完全懲悪ロリィタコンプレックス』を送り出してから人気ボカロPとして現在に至るまで活躍し続けているかいりきベア氏の作品の中でも特に人気の高い本作は、2015年頃からの氏の作品に共通する所謂「メンヘラ的」な内容であり、「ベノム」や「オーバードース」や「ジャンキー」などの語句を盛り込んだ歌詞やずっと不安定さが残るメロディーラインなどが例として挙げられる。
 同時代のボカロ作品と同様に本作もYouTubeで公開された事で多大な支持を獲得しただけでなくTikTokにて本作の「歌ってみた作品」を使用したダンス動画が多数投稿されるなどしている為、単純な楽曲認知度はかなり高いのではないだろうか。
 ここまでにも世間のトレンドを取り入れた多数のヒット作を世に送り出しているかいりきベア氏だが、本作以降もそのセンスが衰える事はなく、現在に至るまで100万回再生以上は当たり前の超有名人気ボカロPとして活躍している。




【初音ミク】ビターチョコデコレーション【syudou】


2019/1/4

 syudou氏の作品。
 今や押しも押されもせぬ絶大な支持を受けている作品『うっせえわ』を制作したsyudou氏の確かな人気を確立させたのが本作『ビターチョコデコレーション』である。
 氏が社会人として仕事をしながら創りあげた本作は、現代社会特有の鬱屈とした暗い感情がマイナー調のメロディーに乗せて語られる。そういった「社会に対する鬱屈とした感情」をテーマとしている所は後の氏の代表作『うっせえわ』に共通している。
 2012年からボカロPとしての活動を開始したsyudou氏だが、2018年に『邪魔』を投稿するまではそこまで名前の知られた人物ではなかった。しかし『邪魔』で初の殿堂入りを果たし、2019年に本作『ビターチョコデコレーション』で自身初の100万回再生を突破した事をきっかけに広く知られ始める事となり、現在に至る。まさに「継続は力なり」である。




DECO*27 - 乙女解剖 feat. 初音ミク


2019/1/18

 DECO*27氏の作品。
 毎年大ヒット作を世に送り出す氏が2019年に送り出した作品の一つであり、現在に至るまで『歌ってみた』や『踊ってみた』、『MMD』などおよそ1,838個もの作品が子作品としてコンテンツツリーに登録されている。恐らくコンテンツツリーに未登録の派生作品なども含めるとその数は更に増えるだろう。
 やや恋愛依存気味とも取れる少女を主人公とした少しグロテスクで背徳感のある歌詞や小気味よいギターフレーズがふんだんに取り入れられた不安定感のあるメロディー、氏の設立したクリエイターグループ・OTOIROの制作した漫画的なコマ割や吹き出しが特徴的なMVなどが魅力の本作は、国境を越え多くの人を惹きつけた結果、YouTubeでは約3080万回再生されるに至っている。
 また本作のアレンジver.として世界的人気を誇る音楽プロデューサー・TeddyLoid氏がリミックスした作品が公開されており、そちらの作品も絶大な人気を誇っている。
 2019年は『乙女解剖イヤー』と言って差し支えないと思えるほどにネット上でよく耳にした作品であり、間違いなくボカロ史全体を俯瞰してみても外せない作品だろう。




テレキャスタービーボーイ / すりぃ feat.鏡音レン


2019/4/13

 すりぃ氏の作品。
 たった「60秒」で瞬く間に絶大な人気を獲得した本作。
 その少ない時間の中でイントロ→Aメロ→Bメロ→サビという流れを完成させ、且つ詰め込みすぎで情報過多になりすぎないように計算された展開には恐ろしさすら覚えてしまう。
 跳ねるようなリズムとんでもなくキャッチーなメロディーに乗せられた、「DeDeDe」や「PaPaPa」、「パルラルラ」など一度聴くと中々離れない語句が要所要所に入っている歌詞が人々を惹きつける理由の一つなのではないかと思う。
 そしてやはりわずか60秒という短い時間が最大のポイントなのだろう。
 SNSが全盛の今の時代、短めで盛り上がりが分かりやすくノリの良い作品が拡散されやすい傾向にあり、それらを満たしている本作はヒットするべくしてヒットした作品であると言えよう。
 ちなみに本作のLong ver.も投稿されているので知らない人は聴いてみると良いだろう。





グッバイ宣言 / FloweR


2020/4/13

 Chinozo氏の作品。
 COVID-19が世界中で猛威を振るい始めた2020年の春、全国に緊急事態宣言が発令され人間が未曾有の出来事に戸惑いながらステイホームを余儀なくされていた中で本作は登場した。
 ポップでロックでノリが最高に良いメロディーに乗せ「引きこもり絶対ジャスティス」と高らかに歌い上げる内容は、なんだか分からんウイルスの蔓延によって強制的に家に引きこもらざるを得なくなった人々の重い心を少しなりとも軽くした事だろう。
 そうして世相に完璧に合致した本作はTikTokで本作の特徴的なポージングを取り入れたフィンガーダンス動画などが爆発的な広がりを見せ、瞬く間に若者を中心とした層に広く周知される事となった。
 本作も『テレキャスタービーボーイ』と同じく一般的な音楽作品に比べやや短い再生時間の中にイントロ→Aメロ→Bメロ→サビの構成を見事に詰め込んでいるだけでなく、二番で一番にはないギターソロがあったりラストのサビで転調したりなど飽きさせない展開をこれでもかと言うほど鑑賞できる作品である。
 そして2021年8月、本作はそれまでボカロ作品の中で再生回数一位を記録していたハチ氏の『砂の惑星』の記録を突破し「ボカロ作品の中で最も再生された作品」となった。





ボッカデラベリタ / 柊キライ feat.flower


2020/4/26

 柊キライ氏の作品。
 2019年からボカロPとしての活動を始めた氏の9作目となる本作は、氏の作品の中で2作目となる100万回再生突破作品である。
 ベースとピアノが前面に押し出されたロックサウンドトラップビート調のサウンドの融合とも言えるようなハイテンポでクールなメロディーといきなり「アイヘイチュー」(→I hate you)という歌詞から始まるまっすぐに嫉妬と憎悪をぶちまける歌詞、それを歌うボーカロイド『v flower』の調教などが魅力の作品。
 海外のリスナーにも馴染みやすい曲調のようでYouTubeで公開されている方では英語のコメントも多くみられる。
 全体的に重苦しいサウンドなのだが、本作のベースラインや二番サビ終了後のピアノソロパートからも分かるように全体的に尻上がりというか下がりきらない事で「オシャレ」や「カッコイイ」という言葉で形容できる内容になっているのだと思う。
 本記事において、柊キライ氏については当初2019年パートで書こうと思っていたのだが2019年パートで紹介した作品たちをどうしても外す事が出来なかった為、『オートファジー』ではなく『ボッカデラベリタ』となったという訳である。





【GUMI】KING【Kanaria】


2020/8/2

 kanaria氏の作品。
 本作を投稿した2020年よりボカロPとして活動を始めた新進気鋭のボカロPであるkanaria氏の2作目となる本作ニコニコ動画において同年10月に100万回再生を達成。そして2021年8月末現在、ニコニコ動画での再生回数は400万回再生を突破YouTubeでは約3,900万回再生を記録している。
 まさに破竹の勢いで再生回数を伸ばす本作は、韻を踏みまくった歌詞ゴシックホラーのようなフレーズ英語風の日本語発音をするGUMIの調教に最後の最後にいきなり転調する展開などが寸分の狂いもなく合わさった見事なキラーチューンとなっている。
 投稿からおよそ1年が経った今も多数の『歌ってみた』作品や『踊ってみた』作品が投稿されている本作を制作したkanaria氏は本作公開当時わずか18歳だったというのだから驚きである。
 これだけ世界に認められる作品を10代が制作したというのは本当に凄いし、これからどうなっていくのかが非常に楽しみである。




【総評】

 ここまで2017年から2020年までのボカロ作品の中で、特に今後ボカロ史を見ていく上で欠かせないものになると感じた作品を紹介させていただいた。

 ナユタン星人氏やバルーン氏らの台頭から始まったボカロ第二全盛期は衰える事を知らず、むしろ2021年現在に至るまでどんどん盛り上がりが大きくなっている事は今記事で分かっていただけるだろう。

 ボカロ黎明期やボカロ第一全盛期と比べても確実に現在の方がより大きなムーブメントとなっている事は間違いない。しかしそれは『VOCALOID』とそれを中心とした文化を築き上げてきた先達たちのたゆまぬ努力の結果であるという事は忘れてはならない。
 『VOCALOID文化』がここまで発展してくる中で、世間から「オタクの音楽」だとか「キモイ」だとか言われながらも自分たちのやりたい音楽や表現をVOCALOIDと共にやってきた彼らがいたからこそ、現在ボカロは市民権を得たのだ。

 今記事で紹介した作品は各年のボカロ作品の中でも特に視聴回数が多い作品であったりSNSなどで話題に上がる事の多かった作品であり、ほんの一例に過ぎない。
 そもそも、『超主観的ボカロ史』という本企画にて惜しくも紹介できなかった作品たちも他の人たちに影響を与えている事は間違いないと思うのだ。「誰かの好きは誰かの嫌い」という言葉があるように自分が良いと思わなかった作品にもそれを好きだと思う人はいて、その人がまた誰かに影響を与えていくという風にして音楽、ひいては芸術のエッセンスというものは繋がっていくのだと思う。

 そしてどこかで「誰かが好きだった音楽」と「誰かが嫌いだった音楽」のエッセンスが融合して新たな音楽を創りだし、それを聴いた誰かがまた新しい音楽を創っていくという風になっているのだと本企画を通して感じる事が出来た。それを感じられただけでも大成功である。

 ところで今回記事を執筆するにあたっていろんな作品を聴いたが、特にこの2年ほどの作品で人気があるものにはほぼ必ず「ソロ演奏パート」がある事に気づいた人はいるだろうか。まあ今時ソロパートなんて珍しくもないのだが、ボカロ作品における"それ"はアイドルソングにおける"それ"と意味が似ているような気がするのは筆者の気のせいだろうか。

 アイドルソングとボカロ作品が徐々に近い位置になっているのだとすれば、それはそれだけ音楽的な身近さが強くなったという事であり、歌唱しているVOCALOIDたちがアイドル視されているという事なのだろう。

 元々『電子の歌姫』や『電脳アイドル』という言われ方をする事もあったVOCALOIDが本格的に『アイドル』となっていく過程こそが『ボカロ史』なのかもしれない。

 そして、もしかするとこれから我々はVOCALOIDたちが『神』となっていく過程を目撃する事になるのかもしれない。それが良い事なのか悪い事なのかは分からない。

 まさしく「神のみぞ知る」歴史なのだろう。





 ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。

 今回を以て【超主観的ボカロ史】は終了とさせていただきます。もし今企画について何かご意見などがありましたら謹んで受け取らせていただきます。

 ありがとうございました!

 では、おつがお~!

 また今度!

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