超主観的ボカロ史 電脳世界を彩る音楽たち 2016年編

 こんがお!

 どうも、苗輪和音です!

 さて、今回も『超主観的ボカロ史』をやっていきますよ!

今回でこの企画は一応終了なので、長々と喋るのではなく素早く本編に行きますよ!

では、どうぞ!




【超主観的ボカロ史 2016年編】


DECO*27 - ゴーストルール feat. 初音ミク


2016/1/8

DECO*27氏の作品。
 クリプトン・フューチャー・メディア株式会社の展開していたソーシャルゲーム『初音ミクぐらふぃコレクション なぞの音楽すい星』の新テーマソングとして製作された本作は、氏のロックセンスとサウンドを次代に合わせてアップデートできる精神性がよく表れている。
 本作以前からこういった方向性の作品は投稿されていたが、聴いているとここで一度完成したのではないかという印象を受ける。長年第一線で活動しているだけあって完成度はもちろんの事、ボカロシーンでどういったものが広く受け入れられるかを深く理解しているのだろう。
年明け早々「ネ申曲」が投稿されたのはこれから始まるボカロ第二全盛期を暗示していたのかもしれない。




【結月ゆかりの】チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!


2016/2/22

和田たけあき(くらげP)氏の作品。
 以前からボカロ作品を投稿してきた氏の人気を確かなものにした本作は、そのキャッチーなメロディーわらべ歌を取り込んだ何やらえげつない事が行われている様子を示した歌詞絶妙なマッチングが人気の作品である。
 VOCALOID『結月ゆかり』を使用した作品の中でもかなり人気が高い作品の一つ。
 また、作品内に記載のある通り途中の合唱パートで作者の和田たけあき(くらげP)氏以外にコーラスに参加しているのはカラスヤサボウ氏とYonoP氏である。





エイリアンエイリアン / 初音ミク


2016/4/5

 ナユタン星人氏の作品。
 2015年より投稿を開始した氏の6作目となる本作は、約3分というやや短い動画時間の中にロックやラップなど様々な要素を詰め込んだものとなっており、その実力には今も驚かされる。
 またイントロやサビ前などでよく登場するあのギターフレーズはアメリカで制作・放送され日本でも絶大な人気を誇ったテレビドラマ『トワイライトゾーン』のテーマソング『The Twilight Zone Theme』のオマージュである。
名作のオマージュを効果的に入れる事でより作品全体の雰囲気が引き締まり、ちょうど良いサスペンス感が生まれていると思う。しかもその緊張がサビなどで待ち構えている解放をより一層感じるための布石なのだから流石としか言いようがない。





【IA】踊れオーケストラ【オリジナル曲】


2016/4/23

YASUHIRO(康寛)氏の作品。
オーケストラ調のポップスとして完成度が凄まじく高い。弾むようなリズムと明るく爽やかながらも感動するメロディーがあり、その上に綺麗にメロディーやリズムとハマる前向きな歌詞が重なっているのでただ聴いているだけで楽しくなってくるのである。
 もっと言うと「歌詞で言っている事がメロディーとリズムでも表現されている」のだ。まあ大体の作品がそうなのだが、この作品は歌詞を追いながら鑑賞した時と音だけを追いながら鑑賞した時とであまり変わらないのだ。ここまで一貫した作品は中々ないのではないだろうか。
メロディーとリズムで伝えている事を歌詞で補完し、聴いた人は元気になれる。まさに魔法の作品なのだ。





このピアノでお前を8759632145回ぶん殴る


2016/4/26

SLAVE.V-V-R氏の作品。
 ピアノ、ベース、ドラムというEL&P的な楽器編成で奏でられるハイセンスなジャズ的なプログレだと筆者は勝手に思っている本作。
「何を言っているのか全く分からないナンセンスな歌詞かと思いきや英語詞を音の響きが近い日本語に書き換えた結果の歌詞だった」というある種の意味が分かれば怖い作品である。
 作中の至る所に氏のセンスを感じる事が出来、こういう作品が好きな人なら一発でハマってしまうだろう要素を内包している。
SLAVE.V-V-R氏の名前を広く知らしめる事となった作品である。





すきなことだけでいいです / 初音ミク


2016/5/1

ピノキオピー氏の作品。
 皮肉や暗喩が多用される氏の作品としては珍しく歌詞をストレートにそのまま受け取る事が出来る作品である。
 歌詞がストレートなのに対して楽曲は歌がある所ではローテンションっぽく、ない所ではハイテンションっぽくとなっていたりラストのサビで二回転調するなどやや捻くれたような部分が見受けられる。
 それらも含めて作品の意味を伝えようとする技巧なのかもしれない。感服である。





【初音ミク】気まぐれメルシィ【オリジナル曲+PV】


2016/6/3

 八王子P氏の作品。
作編曲は八王子P氏作詞は氏と氏の実妹・q*Left氏の共作となっている。
 2012年のボカロを彷彿とさせるサウンドながらも確実に時代に合わせたアップデートがなされているのが聴いていて分かる。
 MVも音楽番組的な演出が多用されていて音楽、映像ともにキャッチーな作品となっている。
 またこのJET氏が手掛けたMV、一見するとアニメっぽく見えるが、実はMMDにシェーダーを重ねる事でアニメ画のようにしているらしい。
 ちなみに作中に登場する振り付けはダンサーや振付師として『踊ってみた』カテゴリで活躍しているめろちん氏である。




【初音ミク】 罪の名前


2016/6/10

 約7年ぶりの投稿となるryo氏の作品。
『初音ミク -Project DIVA- X』のオープニングテーマとして製作された本作は、氏がsupercellやEGOISTなどの活動を経て身につけてきたものを詰め込んだ疾走感溢れるミュージカルのようなメルヘンな作品となっている。
 歌詞に描かれる物語もまさに王道のファンタジーであり、氏の作品の強度が確かな事が感覚で理解できる。
 作品タグにあるようにまさに『王の帰還』である。





[MV] 脱法ロック / Neru feat. 鏡音レン


2016/6/19

Neru氏の作品。
 氏の今までの作品とはやや異なる方向性の作品となっているが、作品が持つキャッチーさは失われていない。というかむしろ更にキャッチーになっており『脱法』の名に違わぬ驚異的な中毒性を獲得している。
 小気味よくつま弾かれるギターと決めの多いドラムが聴いていてとても気持ちよく、安定したベースが作品の基礎をしっかり造り上げているのがよく分かる。
 またりゅうせー氏が制作したMVはサイケデリックな彩色と場面によってコロコロ変化するイラストによってトリップしたようなものになっていてAC部に近しいものを感じる。
 また、本作のコーラスである東京非リアフィルハーモニーには『ゆるふわ樹海ガール』などの石風呂氏や『カゲロウデイズ』などのじん氏、作編曲から歌唱に演奏となんでもこなす白神真志朗氏、バンド『ヒトリエ』のドラマーとしても活躍するゆーまお氏など錚々たるメンツが顔を連ねている。





39みゅーじっく!/初音ミク


2016/6/29

みきとP氏の作品。
初音ミクを中心としたボーカロイドイベント『マジカルミライ 2016』のテーマソングとして製作された本作は、ロックな作品が多い氏の中では珍しくEDM系の作品となっている。
 初音ミクやボーカロイドそのものをテーマにする事が多い『マジカルミライ』のテーマソングの例に漏れず、本作の歌詞も「全裸待機」や「コメント弾幕」などのネット・ニコニコ文化を大いにフィーチャーしたものとなっている。
 また本作の中毒性を高めている要素としてラストのサビで音程が半音下がっていくアレンジが挙げられる。これがある事で何回聴いても気持ちよく聴き終える事が出来るのである。





ボーカロイドたちがただ叫ぶだけ


2016/8/14

 GYARI(ココアシガレットP)氏の作品。
 本作をボカロ作品としてここで紹介していいのか些か逡巡したが、ボーカロイドが伴奏に合わせて声を出して音楽を奏でているので問題はないという結論に至ったので紹介する。
「変拍子のジャズセッションに合わせて鏡音リンや鏡音レン、結月ゆかり、猫村いろは、巡音ルカがボイスパーカッション風(リズムをそのまま口に出したりコーラスやハミング)な事をする」という作品なのだが、演奏や歌唱など全てのレベルが同じジャンルの他作品と比べてもずば抜けている。
 そもそも約23分に亘る作品を製作する事自体かなり大変だと思うが、ジャズセッションに慣れている氏からすれば何という事はないのかもしれない。
間違いなく氏の名前を世に轟かせる事になった作品である。





フラジール / GUMI - ぬゆり


2016/9/10

ぬゆり氏の作品。
 氏の名が広く認知される事になったきっかけの作品であり、エレクトロスウィングに属するボカロ作品が登場する様になったきっかけの作品の一つでもある。
約50秒という現代の楽曲としてはかなり長い部類に入るイントロやや難解な語彙や言い回しを用いた口語調の歌詞など要素だけを見ると受け入れられにくい様に思えるが、それを受け止めるメロディーやリズムの技巧がバランス良くクッションになっている事で受け入れられやすくなっているのだと思う。
 余談だが、本作を筆頭に近年よく耳にする細切れのピアノサウンドは「リリースカットピアノ」と呼ばれるものであり、ぬゆり氏は結果としてこれを広くボカロ文化に浸透させるきっかけとなった。





シャルル/flower


2016/10/12

バルーン(須田景凪)氏の作品。
2016年のボカロ最大のヒット作品にして2021年現在へと続くボカロ作品の新たな道を開拓した伝説的作品である。
 これまでボカロ作品のアップロード先は主にニコニコ動画である事が殆どで、YouTubeにアップロードする事はあまりなく、あったとしても一応アップするくらいの位置付けであったのだが、本作を皮切りにYouTubeを主なアップロード先として選択する事が増えてきた。
 それはYouTubeが音楽プラットフォームとして完成してきた事とスマホの普及によってより多くのユーザーが利用する事になった事が大きく関係しているのだが、話すと長くなるので後に回す事にする。
 なんにせよ「YouTubeの発展により主戦場がニコニコ動画からYouTubeに移動した」という事である。別にニコニコ動画が使い勝手が悪いという訳ではないし趣味で作品を投稿するなら充分な市場はあるが、「売れたい」や「多くの人に聴いてもらいたい」と言ったニーズに応えられるほど規模が大きくはないというのが実状である。
 少々長くなってしまったが、そういう観点から見てもこの『シャルル』はボカロ文化発展に欠かせない作品なのである。





【オリジナル】 おどりゃんせ 【初音ミク&GUMI】


2016/10/26

ユリイ・カノン氏の作品。
 ハイテンポな和ロックサウンドと皮肉的な歌詞が特徴的な氏初の殿堂入り作品である。
現在もボカロPとして、また4人組バンド『月詠み』のコンポーザーとしても大活躍しているユリイ・カノン氏の人気を確かなものにした作品であり、2016年のボカロ文化のトレンドが積極的に取り入れられている為、聴いて理解を深めるのもいいかもしれない。





DECO*27 - 妄想感傷代償連盟 feat. 初音ミク


2016/11/18

DECO*27氏の作品。
 この年の初めに出した『ゴーストルール』とはまた違った方向性のサウンドを使いこなしている事から氏の持つ表現の幅の広さがよく分かる。
 バンドサウンドを前面に押し出したハイテンポな『ゴーストルール』とは違い本作は静かなギターのカッティングやDTM的サウンドが特徴的なミドルテンポナンバーとなっている。
 しかし全く違う作品という訳ではなく、DECO*27氏の作品を知っている人なら言われずとも分かるようなリズムや調教の特徴を持っているのである。
 本作を鑑賞した時に耳を惹く特徴は2017年以降のボカロシーンだけでなくネット音楽やJ-POPシーンにも多く見られる。なので本作はある意味「流行の先駆け」とも言える作品だと言えるのではないだろうか。





DAYBREAK FRONTLINE / feat.IA


2016/12/3

Orangestar氏の作品。
 氏の得意とするピアノを前面に押し出したEDMであり、やはりこの作品にも王道コード進行「小室進行」が使用されている。
 作品タイトルの「DAYBREAK」や動画説明文に書かれている「おはようございます。」、表示されているイラストから「朝に聴くボカロ作品」としての評価も高く、太陽が地平線から昇って地上を光で満たしていくように作品自体も徐々に音数が増えて空間を満たしていくような設計がなされている為、実際に夜明けのドライブで流すリスナーも多いとか。
氏が自身のTwitterアカウントで「自分的最高傑作」と言っている通り、ここまで投稿してきた氏の作品の中でも特にずば抜けて完成度が高い作品だと思う。
 間違いなく『シャルル』や『脱法ロック』、『エイリアンエイリアン』などと並んで2016年を代表する作品の一つである。





ダンスロボットダンス / 初音ミク


2016/12/6

ナユタン星人氏の作品。
NHN PlayArtとniconicoの共同開発ゲーム『#コンパス 戦闘摂理解析システム』のテーマソング、またゲームに登場するキャラクター『Voidoll』のキャラクターソングとして製作、使用されている本作は、ボカロリスナーからだけでなくボカロをあまり知らないゲームユーザーからの評価もかなり高く、発表されてから瞬く間に殿堂入りを果たした。
 キャラ操作などに素早い行動や判断が求められるコマンドアクションというゲーム性に疾走感とBメロの緊張感とサビの解放感からくるエモーションが見事に合致しているのも魅力の一つだろう。
 一度聴くと中々離れない特徴的なギターフレーズや恐らく疾走感を生む為に敢えて前面に出されているドラム歌詞を繰り返すサビなど良い所を挙げればキリがない。
その人気は今も衰えを知らないどころか「ボカロの定番曲の一つ」という地位にまで上り詰めている。
 個人的には2016年のMVP作品。





【2016年評】

2016年、それはボカロ第二全盛期の開幕年である。

様々な要因が重なって2013年頃から徐々に停滞期に突入していったボカロだが、ここでようやくその停滞から抜け出す事が出来た。

 バルーン氏やナユタン星人氏、ぬゆり氏などを筆頭とした新たな才能を持ったクリエイターの芽吹きDECO*27氏やキノピオピー氏などここまでのボカロを創りあげてきたクリエイターの進化などが重なった結果、2010年代初頭の第一ボカロ全盛期を凌ぐ勢いで人気が拡大した。

その急速な発展と拡散には『YouTube』の存在が密接に関わっている。

 今回の『シャルル』の項でも少し触れたように、元々『VOCALOID』というものを使用した作品文化は『ニコニコ動画』が始まりであり『YouTube』はそのおまけに近かった。

 しかし時代と共に世の中にスマホが普及した事で音楽を取り巻く環境は激変した。
 スマホにプリインストールされているiTunesやGooglePlayMusicなどで手軽に音楽が楽しめるようになったり、GrageBandなどのアプリで作曲が手元で出来るようになったのだ。

 そして大きな変化がもう一つ
 それまで基本的にはPCやガラケーから閲覧していた『YouTube』が電波の届く範囲ならどこにいても閲覧出来るようになったのである。

 これはかなり大きな革命だったと思う。スマホが普及する事で『YouTube』ユーザーが増え、瞬く間に進化を遂げていった。

 そうやってYouTubeが進化をするにつれてその波に乗り遅れまいとチャンネルを開設するアーティストも増えていき、無断転載や海賊版対策として様々なレーベルや事務所もこぞってチャンネルを開設するようになった。

 サービス開始時からこの辺りまでYouTubeが持っていた半アングラな雰囲気はこの時期を境に一転してクリーンなものになった。

 そしてもちろんニコニコ動画で活動するボカロPたちも同じように公式チャンネルを開設し、今までニコニコ動画に投稿した作品のYouTubeへの再投稿やニコニコ動画とYouTubeへの新作同時投稿などの活動が徐々に活発になっていく。

これが2012~2014年頃の話である。先見の明を持っていた一部のボカロPはそれよりもっと早い段階からYouTubeでの活動もしていたりもしたが、大きく動いたのがこの辺りという事である。

そしてもはやニコニコ動画とYouTubeへの同時投稿が当たり前になったこの2016年。

 素晴らしい才能たちによりボカロ文化が再び花開く事となり、同時にYouTubeを主戦場として見る風潮が強まった。

 『シャルル』などを見て分かるようにニコニコ動画よりもYouTubeに投稿されたものの方が再生回数が多くなっている作品は多数ある。

 それはニコニコ動画の勢いが衰えたという事ももちろんあるだろうが、単純に抱えるユーザー数がYouTubeに比べて少ない事が大きいと思われる。

 そもそもワールドワイドなサービスを展開しありとあらゆる国や地域の住民たちが動画を多数投稿しているYouTubeとほぼ日本国内に向けたサービスを展開しているニコニコ動画では向いている方向が違う。

そして『VOCALOID』という文化は「日本独自のもの」から「日本を代表するカルチャー」というものになったのである。

 ただあくまで自論ではあるが、ニコニコ動画が本当にどうしようもなくなるまではボカロ作品はニコニコ動画とYouTubeへの同時投稿が良いと思う。
 ニコニコ動画の「カテゴリ検索」や「タグ検索」はとても便利で新しい作品を見つけるのに凄く役立つ機能だからだ。

 YouTubeで新しい作品を見つけようとすると骨の折れる作業になってしまうのだが、ニコニコ動画だと簡単に見つけられるので、趣味でもお金を稼ぎたいでもどんな理由でもボカロ作品を投稿するなら両者に投稿する方が賢明だと言える。

 少々話がそれてしまったが、この2016年は新たなボカロ時代が始まった記念すべき年である。

 ここまでに沢山の人が積み重ねてきた『ボーカロイド文化』を礎に築いてきた新たな時代。

 この記事シリーズで紹介してきたボカロ作品を含めた全ての作品が綺羅星の如く道導となっている。

 そうして脈々と受け継がれてきたボカロ文化のDNAが世間に受け入れられた"今″こそが真のボカロ全盛期なのかもしれない。



 ここまで9週に亘って続けてきたこの『超主観的ボカロ史』も終わりの時が近づいてきた。

 ここから先の事を「歴史」と呼ぶにはまだ少し早い気がするのだ。

 だから今までのように「年単位」でまとめる事はしない。

番外編として2017年~2021までを一記事でまとめようと思う。

 今記事の最初に「今回で終わり」と言ったな。あれは嘘だ。

 番外編は各年から1~2作品ほど選出する作業が選べなさすぎて凄まじくキツいものになるだろうが、ここまで来たんだから後はやるだけである。


 それでは次回『超主観的ボカロ史 番外編』でお会いしましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?