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「Atomic Research」の導入によって進化するUXリサーチの取り組み

こんにちは。Web3×エンタメ領域のスタートアップ Gaudiy でUXデザインを担当している坂田です。

これは Research Advent Calendar 2023 の22日目にエントリーしている記事です。リサーチをテーマとした記事であればなんでもどうぞ、ということなので、私が現在取り組んでいる「Atomic Research(アトミック・リサーチ)」をご紹介したいと思います。

この記事のポイント

UXリサーチ活動の課題探知


2022年12月に入社してから、真っ先に感じた課題がありました。

それは、過去のユーザーリサーチの結果が散乱していたために、参照に時間が要され、見つけたとしても解読が困難だったことです。そして、ユーザーリサーチのアウトプットは実施した人しか解読することができず、属人化が進行していたことです。

過去に実施されたリサーチのまとめ資料…これを解読するのはムリゲー…

課題の解像度を上げるために社内でヒアリングしてみたところ、より具体の原因を探ることができました。

🤔 知見が共有されていなかったため、実は前のプロジェクトで「わかっていたつもりだったこと」が「わかっていなかったこと」が判明した
🤔 ユーザーリサーチを計画する際に、過去に同じリサーチが実施されていないか、都度関係者に尋ねなければいけない
🤔 リサーチ内容を振り返ってみて、過去と同じ質問をしてしまったことが後からわかった

同じような課題をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

そこで、こうした課題を解決するために社内に蓄積されている過去のリサーチ結果を一元管理する仕組みを構築し、さらにその資産を活用できる状態にすることを目指しました。


解決方法の模索


では、どのように進めていったのか?
まずは自分なりにさまざまな超守を進めていきました。

「超守」とは、Gaudiy の行動指針の1つで、ものごとの検討を始める前に、守破離の守としておこなう、原理・原則や先行事例の超徹底的なリサーチのことを指します。

新しい行動指針「Gaudiy UNIFORM」を策定しました

そこで目に止まったのが「Atomic Research」です。「Atomic Research」は、Google の元ユーザーリサーチャーで、『It's Our Research』の著者でもある Tomer Sharon氏が考案した、ユーザーリサーチで得たインサイトを小さい単位(Nuggets:ナゲット)で管理しいくための手法です。

彼は Atomic Research を3つのコンポーネントに分解し、ユーザーリサーチのインサイトを管理していくことを推奨しています。これからご紹介する Gaudiy の Atomic Research も、基本は彼の思想を受け継いでいます。

Atomic Research の3つのコンポーネント:
1. Observations:リサーチの種類を示すコンポーネント
2. Evidence:根拠となるファイルを格納するコンポーネント
3. Tags:情報を識別するためのコンポーネント

Atomic Research を導入すると、どんないいことがあるのでしょうか?

この記事によると、Atomic Research の導入によって見込める費用対効果は複数あります。その中には私が挙げた課題解決に直結するものもあり、Atomic Research の導入実験を決めました。

費用対効果①:リサーチコストの削減
Single Source of Truth(SSoT)として機能するため、重複したリサーチを回避することができる。また、リサーチのワークフローが全て一箇所で完結するため、作業効率も高まる。

費用対効果②:生産性の向上
ユーザーのインサイトに容易にアクセスすることができるため、必要な情報を必要なときに直ぐに引き出せることで、生産性が上がる。

費用対効果③:組織横断のコラボレーションの実現
UXリサーチは1つのチームで行われることが多いが、他のチームの方がより重要なインサイトを持っている場合もある。UXリサーチの結果が集約されることで組織間のコラボレーションが活発になり、知見を共有できる。

ただ、「Atomic Research」はあくまでもインサイトを効率よくマネジメントするための手法なので、普段の業務に活用できる実用性の高いものにするためには、プロセスの整備も必要です。


Atomic Research の仕組み化と導入


Gaudiy では普段から Notion を多用しています。特に Notion のデータベースは使い勝手がよく、Atomic Research は3つのデータベースによって構成されています。それぞれのデータベースの利用用途や内容については後述します。

図1)Atomic Research の仕組み

この仕組み化は本当に苦労しました…😭 当時は Notion の DB 設計に不慣れだったので、社内で Notion に詳しい有識者の協力のもと、現在の形となっています。感謝。

Atomic Research のプロセスモデル(図2)も同時に設計し、導入に向けて動きました。

図2)Atomic Research のプロセスモデル

STEP1: PLAN(調査設計)

まず、ユーザーリサーチを実施する前に、担当者にはリサーチ用の Notion ページを Research DB 内に作成してもらい、テンプレートに沿って必要項目を埋めてもらいます。

誰が実施したのか?
詳しい情報を知りたい人のために窓口となる人を立てるため

いつ実施したのか?
情報の鮮度を知る必要があるため

なぜ実施したのか?
これから実施予定のリサーチが本当に必要か判断できるため

ちなみに、Gaudiy ではプロジェクトごとにUXデザイナーとプロダクトデザイナーがアサインされているため、UXデザイナーまたはプロダクトデザイナーが主導して設計することが多いです。

Notion ページを作成すると、Research DB(図3)にリスト化され、誰がいつどのようなリサーチを実施したのかが一目でわかるようになっています。

図3)プロパティ:リサーチPJ、対象コミュニティ、実施期間、担当者


STEP2: RESEARCH(ユーザーリサーチの実施)

Atomic Research では被験者情報も User DB(図4)というデータベースで管理するようにしています。

Gaudiy の場合は複数のコミュニティを運営していることもあり、ペルソナタイプ、連絡先、ヒアリング担当者以外にも対象のコミュニティと、ユーザーIDを記録するようにしています。

外部被験者の場合、NDAの締結や謝礼の送付も併せて手続きをしなければなりません。法務や経理のメンバーも状況を把握できるよう、ステータス管理も徹底しています。

図4)プロパティ:ユーザーID、ペルソナタイプ、コミュニティ、インタビューログ、インタビュー回数、NDA締結や謝礼送付のステータス管理

また、繰り返し同じ被験者にインタビューすることになった場合は、ユーザーIDを照合し、対象者のインタビュー回数が自動でカウントされます。同じ被験者に同じ質問をするのを避けたり、コンテキストを全員で共有するためで、かなり助かってます。


STEP3: SUMMARIZE(まとめ)

UXリサーチを普段から実施している方は、普段はどのツールを活用してリサーチ結果をまとめられていますか?

Gaudiy ではユーザーリサーチの記録やまとめ作業は miro で行うことが多いです。私がユーザーリサーチを実施する場合は、ユーザーの発話をそれぞれ違う色の付箋で書き出し、KJ法でインサイトやユーザー課題をメンバーで共同作業しながらパターン化していくようにしています。

miro は一括モードを使えば発話ログの書き出しは容易ですし、タグも何かと便利です。


STEP4: REFLECT(Atomic Research への反映)

最後に、Atomic Research に STEP3 の内容を反映してもらいます。まずはパターン化されたインサイトを Insight DB(図5)に新規ページとして作成します。

図5)プロパティ:インサイト、対象のリサーチ、作成日、コミュニティ、ペルソナタイプ

Notion の Relation 機能を使って、Insight のもととなっている対象のユーザーリサーチを Research DB から参照できるようにしています。加えて、該当するインサイトの抽出に繋がった miro のアウトプットやインタビュー動画のURLを添付することで、ユーザーリサーチに関わっていない人に説得力を持たせることができます。いわゆる、エビデンスです(図6)。

図7)リサーチ結果をまとめた miro のキャプチャや録画のURLをそのまま貼ってます

こうすることで、異なるリサーチであっても、コンテキストにおけるパターンを追跡できるようになるため、第三者が見ても分析がしやすくなります。


得られたアウトカムと学び


それから半年以上経過した訳ですが、Atomic Research を普段から利用しているメンバーにヒアリングしたところ、少しづつではありますが、冒頭でご紹介した Atomic Research の導入によって見込まれる費用対効果が現れている気がします。

😀  一覧化されていることで、どのプロダクト / プロジェクトでどんなリサーチが実施されているのかを把握しやすかった
😀 リサーチの結果をまとめる場所があることで、残す意識ができた
😀 インサイトのページが引用可能(backlink)なため、追加でリサーチしなくとも最低限の補強ができた

UXデザイナーからのコメント

😀  企画の仮説を立てるときに、検証済みの仮説の中で使えるものはないか?済みであれば企画体験を考える時に参考にした
😀 フォーマット化されているので、0から作らなくていい分、作成が楽だった
😀  デプスインタビューをするときに、他のプロジェクトで実施されたデプスインタビューの結果を参照した

コミュニティマネージャーからのコメント

Atomic Research はリサーチ結果の資産化以外にも、インサイトの活用を促すことができる素晴らしいシステムです。いま振り返ってみると、資産の活用までに至ったポイントは4つあると思っています。

半年以上の運用で見えてきた Atomic Research の価値

今回は Notion によるインサイトマネジメント方法をご紹介しましたが、他社事例だと AirtableAtlassianCodamiroMicrosoft SharePoint を活用しているケースもあるようです。全て海外産ですが、国内だと Centou のようなインサイトマネジメントツールも出てきています。ツールの利用に制限がある方は参考にしてみてもいいかもしれません。


今後の課題と展望


ようやく ResearchOps が回り始めたかなと思っている一方で、まだまだ実験段階。中長期的に運用していく上では乗り越えなければいけない山がいくつもあります。

1つ挙げるとすると、Gaudiy では国内IPと協業しながら複数コミュニティを運営しているため、コミュニティごとのユーザー(ファン)属性が異なっている点です。そのため、過去のリサーチ結果を参考にする機会は思うほど多くはありませんでした。

例えば、ガンダムのモデラーさん向けに展開しているコミュニティ「ビルダーズノート」と、好きなキャラクターの二次創作を主に楽しんでいる「みんなのネバーランド」ではファンのモチベーションは全く異なります。

個別最適化されたインサイトのみが蓄積されても、「資産」としての価値はあまりありません。結果として、活用に至るケースは少なくなってしまいます。

他のメンバーからも似たような意見をいただきました。

😔 自身が担当したリサーチであれば解像度高く物語れるが、そうでない場合に自分ごと化がしづらい
😔 Atomic Reserch を活用して、リサーチのアウトプットの蓄積もやっていけると、参考にしやすい

これらは Atomic Research の導入によって判明した、Gaudiy ならではの課題だと捉えています。

また、Gaudiy は Discovery に力を入れ始めており、その過程で生まれたアウトプットも増えてきているため、インプットだけではなく、アウトプットの扱い方についても Atomic Research を起点に思考していきたいと思っています。


最後に


前述した通り、エンタメにはさまざまなジャンルがあり、それが難しくもあり、面白さでもあります。最適解がなく、この問題に一緒にチャレンジしていける方を絶賛募集中です!

興味を持っていただいけた方はカジュアル面談もご用意しています。本記事に関する質問など何でもOKです。お気軽にご登録お待ちしてます💁

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


Atomic Research を導入するにあたって、参考になった記事👇

How to Conduct a User Research Analysis in Notion
Research Repositories for Tracking UX Research and Growing Your ResearchOps
Wrangling the customer feedback overload
Creating a UX Research System: Making your work understood as a researcher