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『文学フリマ大阪11』に行ってきたので最速でレビューしてみた


 こんにちは、もの書きのkazuma(@kazumawords)です。今日(2023年9月10日)が何の日かお気づきでしょうか? ──そうです、「文学フリマ大阪11」の開催日でした。

 僕が文学フリマ大阪の開催を知ったのは、前日の夜のことでした。何の気なしにタイムラインを眺めていると、なにやら文芸界隈がざわついている……。この時期の文学ファンなら見慣れた光景かもしれません。


 たとえば、「文学フリマ、Z-99、当日頒布します!(※実在しない、念のため)」のお知らせポスト(ツイート)。文学フリマの時期だけ、アカウントが出店ブース名に変わるのはもの書き界隈の「あるある」です。

 文学フリマは、以前からずっと気になっていたイベントだったのですが、ちょうど日程が合わなかったり、会場に足を運ぶ勇気がなかったりで、「文学フリマ」の名前を知ってはいたものの、なかなか訪れることができませんでした。

 しかし、今日に限ってなぜか早起きをし、午前中の天気は見渡す限りの快晴(なお、午後は下り坂でした)。ちょうどぴったり予定も空いていて、これを逃したら次がないのでは? というくらいに絶好のイベント参加日和だったので、急きょ支度をして行ってみることにしました。

「文学フリマ大阪11」会場の最寄駅となった「天満橋」駅


 会場は大阪・天満橋のOMMビル。僕は谷町線を使って来場しました。南森町からの乗り換えの時点でけっこう人がいる。

 天満橋に降りると、ぞろぞろと北口に向かう流れができており、「お? これ、もしかして、みんな文学フリマに行くの?」と思いつつ、周囲を見渡します。するとなぜだか、見る人、見る人が文学フリマ関係者に見えてくる。不思議。

天満橋駅の北口を直進すると見えてきたOMMビルの表示


 文学フリマ大阪の公式HPに記載のとおり、北口を出てOMMビルを目指します。改札を出てからは直線で、突き当たりを右に曲がると1番出口のOMMビルの表示があります。

会場となったOMMビル入り口のインフォメーション


 意外と空いているのかな、と思いつつ、エスカレーターを使って2Fの文学フリマの会場まで向かうと、既に長蛇の人だかりが。

 え? 文学に興味を持っているひとってこんなにいるの? どこが斜陽やねん、とひとりでツッコみながら、会場の入り口へ。

文学フリマ会場の「のぼり」。急いで撮ったので写真ブレしてます。
このあと、緊張しすぎて会場内の写真を撮り忘れる。


 扉の向こうからは何やらすごい熱気が……。とりあえず、入り口の写真だけ撮っておいて、訳も分からず入場していきます。入場するだけで、トートバッグや、カタログ、クリアファイルなどを親切に手渡していただきました。ありがたや。

入場しただけでこれらが貰える気前の良さ。トートバックは会場で実際に使用しました。
胸に付ける入場証の「ビジター」のワッペンも記念に取っておきました。
ノベルピアさん、文学フリマ運営局さん、ありがとうございます。


 圧倒されたのは、ブースの多さもさることながら、来場している人の数! こんなに文芸関係の書き手とお客さんが集まった場というのは、僕は一度も見たことがありませんでした。しばらく会場の雰囲気に呑まれて、端っこの方に突っ立ってました。

 何とかひとの少ない壁際で、家から印刷してきた文学フリマの会場配置図を確認します。今回、立ち寄ろうと決めていたブースは三つありました。

家で印刷して、実際に会場に持ち込んで使っていた文学フリマの会場配置図。
寄りたいブースにマークをしておきました。


 ひとつは「同志社大学短歌会」さん、もうひとつは「ELITES(エリーツ)」さん、そして「タイムトラベル専門書店」さんのブースにおじゃましてきました。

 はじめてブースに訪れた感想は、というとめちゃくちゃ緊張していました。実際にプロの作家さんや作り手の方にお目に掛かれる機会というのは人生で一度もなかったので、こういう言い方では大変失礼なのですが、「ほんとうに実在するんだ(!)」という驚きがありました。

 それぞれのブースに訪れた経緯に簡単に触れておくと、まず「同志社大学短歌会」さんはX(Twitter)で相互のフォロワー(不凍港@minato_futou)さんがいらっしゃったので、最新号の十号を購入させていただきました。

はじめて文学フリマで手に取った、同志社大学の学生の方が作った短歌同人誌


 僕はとくに同志社の出身というわけでもなく、何の面識もないやつがいきなり行って「十号をください」といったので、驚かせてしまったかもしれません。はじめて行った文芸イベントだったので、緊張でお金を渡す手が震えていました。完全なる不審者です。どうもすみませんでした。

 帰ってすぐに掲載された短歌や書簡などをいくつか読みました。僕は短歌についてほとんど何も知らないけれど、仲間と一緒にこういう風に作品を持ち寄って、語り合うのはどんな心地がするものなのだろうと思いました。

 僕は学生の頃、文芸部に所属したこともなく、スーパーで洗い物と清掃のアルバイトをしながら、ひとりでアパートに籠もって書いていたもの書きです。

 なので、まったくの部外者なのですが、歌を読んでいると、知らない誰かの記憶をなぞっているようで、不思議な心地になりました。

 追体験、というとおこがましいですが、経験できなかった方の青春をちょっとだけ歌を通して教えて貰った、という気がします。

 不凍港さんの私家版の歌集を以前、購入させていただいて、あれからどんな歌を詠まれたのだろうと思って頁を繰りました。

 「奇術」の最初の歌がやっぱり出色だなと思います。手品師のように唇を閉じて、眼鏡を折りたたむ瞬間が鮮やかに浮かんでくるようです。これは誰を見て詠んだ歌なのだろう、と想像が膨らみました。

 あとこのひとの歌にはどこか「はにかみ」があるなと思いました。それが魅力でもありました。微力ながら応援しています。

圧倒的にビジュアルがよく、圧倒的に文章がいい。
プロ作家の方々が集まって作られた同人誌「ELITES(エリーツ)」。


 次に訪れたのは「エリーツ」さんのブース。滝本竜彦さんや佐藤友哉さん、海猫沢めろんさん、phaさん、ロベスさん、と誰もが知っているようなプロの作家さんが同人誌を作っておられると聞いて、興味があって覗いてみました。

 売り場には滝本竜彦さんが直々に立って、「ELITES」の同人誌を紹介したり、フリーペーパーを配布してくださっていました。かなり人気のブースで、ちょっとした人だかりができていて、お客さんも次々に「ELITES」の同人誌を買ったり、立ち読みしたりしています。

 X(Twitter)や、エリーツのYouTubeの配信で見ていた滝本さんの瞑想の話が面白そうだったので、1万字のインタビューが掲載されている、「ELITES」のvol.3号を購入しました。

 内容を読むと、やっぱりプロの作家さんというのは、何か「持ってる」ところがあるんじゃないかなと感じたりしました。僕らにはちょっと考えもつかないようなものの捉え方をしている、というか。

 滝本さんのインタビュー記事を担当した佐藤友哉さんが、インタビューは「私小説」としても読めるものだと論じている箇所も面白く読めました。

 私小説のように書かれた「僕」が、現実の作者である「僕」とそのままリンクしているとは限らず、むしろそのズレを利用して小説を書いているのだ、という佐藤さんの作品の「タネ明かし」は、他ではあまり読めないものじゃないかなと思います。

 インタビューというたった一つの題材で、これだけ小説の話が広がるものなのか、と畏れ多くも拝読しました。

 海猫沢めろんさんの、執筆生活の内情や心境を明かした文章は、プロの作家さんはこれだけ悩みながらも創作に向かわれているのかと、勇気づけられます。周囲から見れば華々しく見えている、順風満帆の作家生活も、読者の側からは決して見えない苦労があるものなのだなと思いました。

 phaさんのエッセイは、お人柄もあってか、ゆるゆるとした雰囲気で「小説とエッセイ」の違いについて書かれてあって、味のある文章だなあと感じました。ネットでも時々、書かれたものを拝読することがあります。小説についてゆるいスタンスで考えていくエッセイというのは、僕はあまり読んだことがないので、他のものもつい読みたくなりました。

 ロベスさんの過去の友人についてのお話は、ノンフィクションなのですが小説のように読めました。たったひとつのボタンの掛け違えが、友人と会えなくなってしまったきっかけだったという切ない思い出話だったのですが、読み終えると会わなくなった友人の顔がふと浮かんでくる。そんな文章でした。

 表紙のデザインも含めて、同人誌としてのクオリティが非常に高く、買って大満足の一冊でした。

「タイムトラベル」に関するエッセイという、唯一無二のコンセプト、『超個人的時間旅行』。
持ち帰って夢中で読み耽ることになり、この本そのものが「タイムトラベル」装置でした。


 最後に訪れたブースが、藤岡みなみさんが主宰する「タイムトラベル専門書店」でした。X(Twitter)で告知されていたので偶然目にしたのですが、「タイムトラベルをテーマにしたエッセイ」という斬新なコンセプトで、明らかに面白そうな一冊なので、売り切れる前に急いで買いに行きました。

 藤岡みなみさんの文章は、丸善・ジュンク堂などの書籍通販サイト「honto」で読んだことがあり、ブックキュレーターとして紹介されているおすすめの本のリストやコメントを拝見していました。

 冊子のタイトルは「超個人的時間旅行」という本なのですが、これがめちゃくちゃ面白いんです。面白すぎて時間も忘れて夢中で読みふけったので、この本自体が「タイムトラベル」の装置みたいになってしまいました。気付いたら二時間後の未来でこの本を読み終えていました。

 タイムトラベルというと、古くは浦島太郎にはじまって、H・G・ウェルズの「タイムマシン」や、ドイルの「失われた世界」とか、筒井康隆の「時をかける少女」、映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に、ゲームの「シュタインズ・ゲート」など、どこかひとを惹きつける引力に満ちたテーマなわけです。

 でも、この「超個人的時間旅行」は、みんな現実の、生身の身体を引きずったまま、過去や未来へ行こうとします。

 あるひとは、かつて幼い頃に歩いていた街の記憶がタイムスリップのボタンになるといい、べつのひとは冷蔵庫で明太子を未来に送り、またべつのひとは財布のなかのレシートを眺めることで過去へと戻る。

「タイムトラベル」で、未来に行きたいひともいれば、過去に行きたいひともいる。息を吸って吐く、ほんの数秒後の未来がおそろしいと感じるひともいれば、50億年後の未来のために人工的な太陽を生み出そうとするひともいる。

 「タイムトラベル」というと超科学的な、遠い未来のイメージを思い浮かべるものだけれど、この本のタイムトラベルはそういうものではありません。もっとアナログで、いま現実にここにいる僕らと地続きの感覚で書かれていて、未来や過去に「飛ぶ」方法にリアリティがある。

 「リアリティがあるタイムトラベル」というと、何だか矛盾した響きがあるのですが、このエッセイの魅力はまさにそこにあると思います。もしかしたら、ちょっとした手順さえ踏めば、僕らはほんとうに未来や過去に行けてしまうかもしれない──そう思わせてしまうような不思議な錯覚が、読み終えたときにありました。

 本を購入したときに「感想を書いてくださいね」と仰っていたので、ここに書かせていただきました。こんなにいい本を作ってくださって、ありがとうございました。

名残惜しみつつ、文学フリマの会場をあとにする。


 一通りブースを回り終わると列車に揺られて帰りました。僕は今朝、小説を書こうとしてうまく書けずに机の前でうーんと唸っていたのですが、作家さんの熱気に包まれた会場を後にして、やっぱりもう一度諦めずに書こう、と思いました。

 はじめて行った文学フリマの会場に、いち来場者として足を踏み入れたのですが、僕もひとりのアマチュアの書き手として、見えないところで刺激を貰っていたなと思います。

 普段、生活をしていると創作しているひとの顔って見えません。街中ですれ違うひとのなかに、小説や文芸に携わっているひとがもしかしたらいたかもしれない。でも、それって分かりませんよね。

 それが文学フリマに来ると、みんな手弁当で工夫を凝らして作った本を持ち寄って、「どうですか、よかったら一度読んでみませんか?」と声を掛けている。もしかしたらその一冊を作るのに、半年や一年ぐらいじゃ利かなかったかもしれない。中身は、何年も何年も手塩に掛けて作り上げてきた文章でしょう。

 そういう現場に立ち会えるのが、文学フリマの醍醐味なのかなと思います。 

 (了)

僕が運営する文学ブログ『もの書き暮らし』では、小説の執筆に役立つ執筆用品や文学作品のレビューなどを行なっています。よかったらサイトの方へも遊びに来てください。


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